神になる男2(教皇視点)
アルフレッドは禍々しい
教皇の執務室には隠し扉があり、その奥に不当に手に入れた品物や金品が集めてある。誰一人として信用していないアルフレッドは、自分の財産や違法の品などを全て自分の手元に残してある。いずれ全てを手に入れ、神になるための準備も怠っていないのだ。
その一つの棚には木箱が積み置かれていて、
年に一度、その北の国の黒魔導師にアルフレッドは秘密裏の協定を結び魔力持ちを奴隷として送りつけている。その見返りに、精製された
幸いこの国のある大陸は平和主義ばかりなようで、戦らしい戦はこの数百年起こっていないため、需要はなく
アルフレッドはこの
だが、今回だけは構っていられなかった。
貧民街の爆破事件の犯人をメリアンに仕立て上げ、悪魔付きとして神殿で受け入れる。計画的に行われたそれは問題なく進められ、麻薬中毒になった両親は笑って愛娘を差し出した。愛しい娘のためにと金が湧くように入ってくるため、絞れるだけ搾り取ろうとアルフレッドは黒い笑みを浮かべた。
まだ子供なだけに、いきなり麻薬漬けにしてくたばられてもこまる、と思い悪魔祓いと称し、鞭打ちを始めた。だが、聖女も聖職者も流石に子供に鞭を打つのは教義に反すると怖気付いたため、自分がやる羽目になった。神の名を呼び、鞭を打つ。
次第にアルフレッドはその行為自体に甘美な震えを覚えた。神の代弁者として、反抗できない子供の体に鞭を打つ。前教皇が、少年に性的虐待を行う気持ちが少し理解できたような気がした。これでもかと思うほど鞭を打ち、その傷跡に塩を塗り、聖なる泉に沈めもした。いつ死ぬかとビクビクしながらの行為ではあったが、娘は憎々しくも生き残りその瞳には凛とした強さを秘め、憎悪に燃えてアルフレッドを射た。
自分に従順にならないメリアンを全裸にして、冷たい聖台の上に縛り付け三日間放置した。恐ろしいことに、メリアンは聖魔法を使い自身を治癒し、飲まず食わずの三日でさえも生き延びた。神の力を感じ次第に恐ろしくなったアルフレッドではあったが、それならばその自慢の聖魔力を抜き取り、
「お前の中の悪魔を完全に取り払う儀式を行う」
そう言い、他の魔力玉と同じように魔力玉をメリアンに向かって投げつけた。
想像していたのと違ったのは、その魔力玉は割れることはなくメリアンに吸い込まれていったのだ。メリアンの体が拘束を引きちぎって浮かび上がり、その体が闇に取り込まれた。
「ひっ!?」
腰を抜かしたアルフレッドは後退った。もしかすると自分は本当に悪魔を解放してしまったのかと焦る。入口まで素早く逃げ、縮こまっていると、メリアンの体から魔力玉が浮かび上がり、その体は聖台の上に何事もなかったかのように戻った。メリアンに意識はない。ビクビクしながら近づいてみると、メリアンの体が次第に冷たく青白くなっていく。
「ま、まずい!」
ここでメリアンを殺してしまっては、侯爵家から金を巻き上げることは出来なくなる。アルフレッドは慌てて治癒魔法を試みたが、なぜか体に浸透しない。まるでメリアンの体が拒んでいるかのようだった。
それから一月の間、メリアンは目を覚まさず、だが死ぬことはなく冷ややかな体のまま生き続けたのだ。
すっかり恐ろしくなってしまったアルフレッドは、聖女達に治癒魔法をかけ続けるように言いつけ、自分は慌てて文献を調べ始めた。かの北の大国ならば、理由も治療法もわかるかもしれないと大金といつもの倍の奴隷を送り込み、対処法を手に入れた。
だが、ことは単純で魔力枯渇に陥っただけの話だったようだ。闇魔法の魔力玉で余程の打撃を受けたのか、自身の魔力を全て使い治癒したようだ。無駄な出費をしてしまったと苛立ったアルフレッドだったが、その分侯爵家から分捕ってやることで溜飲を下げた。
だが、目を覚ましたメリアンは神殿に来るまでの記憶をなくしていた。これは都合が良いとアルフレッドはほくそ笑んだが、メリアンは回復に向かうと魔力暴走を始めた。嵐を引き起こし、神殿にも被害が及んだ。
このまま囲っておけば神殿が危ないと危険を感じたアルフレッドは、闇医者を使い聖魔力を抽出するために空の魔石をメリアンの心臓の横、魔導路の源に埋め込んだ。金を渡し、酒をしこたま飲ませた後、秘密を知る闇医者はアルフレッドのためにならないと思い、亡き者にした。だが、意に反して聖魔力は抽出されることはなく、魔石は膿を出しメリアンの体を焼き尽くした。体を焼かれては聖魔法が自動的に治癒をし、繰り返されるそれに恐れをなしたアルフレッドは、メリアンを解放することにした。
アルフレッドの本能が、メリアンを恐れていた。この子供に手を出してはいけない。神の領域に足を踏み入れるなと全神経が危険信号を出した。だが、かと言って放置するわけにもいかず、監視をつけることにした。
そこへ、最近になって入ってきた聖騎士の見習いが伯爵家の次男坊だと聞いてアルフレッドはこれを利用することにした。
「ジョセフ・リー・セガール、これが君の婚約者だ。メリアン、挨拶をしなさい」
このジョセフは甘やかされた貴族の次男坊で、聖魔力を持ち将来有望だと謳われていた。だが、まだ若い。煽てに乗りやすく見た目が良い、使いやすい小童だった。体のいい煽てにすっかりその気になったジョセフを監視役に仕立て、ようやくアルフレッドは安心してメリアンを解放したのだった。
「教皇様……っ!お願いです、お許しを、俺に、あいつを殺す許しを、いや、違う、俺のものにする許しをくだ、ください!あいつは、生かしておけないっ!俺の、俺のものに!」
厄災到来だからと外出禁止令を喰らい、イライラと執務室を歩き回るアルフレッドの元に、血走った目で訳のわからないことを言うジョセフが駆け込んできた。
いかにも女と遊んできたような風態で、とても聖騎士の出立ちではない。この男もそろそろ薬が回ったのか。
「ここにくる前に身なりくらい整えなさい」
最近の巷の噂でも耳に入ってくるほど、この男の私生活は最悪だった。どこにいっても女を買い侍らせ、聖騎士の地位を振り翳し、やりたい放題だと聞く。侯爵令嬢メリアンの婚約者だと言うことでお咎めもなく、また貴族界ではうまく立ち回っているらしいが、そろそろ噂の種になりつつある。国王の耳に入れば鬱陶しいことになる。
バサリと聖騎士の上着を投げつけると、慌ててジョセフはそれを身につけた。髪を撫で上げ、そこら中についた紅の後を拭き落とせば、まだ見れる姿の男になった。
「何を、訳のわからないことを言っているのかね?」
そうでなくても、天女の降臨に携われずムカついているところに問題を持ち込まれたアルフレッドは、酒臭いジョセフを睨みつけた。
「も、申し訳、ございません。ただっ、俺は、私は、いつになったらメリアンと結婚できるのですか?
アルフレッドは、はぁとため息をついた。なるほど、この男は性欲が人一倍強く、麻薬がそっち方面に強化されたのか。
「落ち着きなさい。ジョセフよ。約束ではメリアンが18歳になったら、と言う話だっただろう。後2年くらい我慢できんのかね?」
「で、できないん、です。夢にもあいつが現れて、この手にも感触が残って、まだっ、まだ何もしていないのに、何故かこの手に感触があって……っ気が狂いそうだ!!なんとかしてくれ!」
口の端に泡を吹かせながらそう訴えるジョセフを冷ややかな目で見つめ、はるか過去に手にかけた少年たちを思い出す。聖女を犯す穢れた存在。この男もまた同じか。
メリアンの噂も耳に入ってくる。
深窓の令嬢、高嶺の花、月の女神。
どれもこれも彼女を称えた言葉で、汚点のひとつも聞かない令嬢に、いかに婚約者とはいえ、婚前に聖騎士に汚されたとあっては、神殿の汚点になりかねない。薬がまわり、ただの野獣と成り果てた騎士崩れ。
そろそろ切り離すか。
「お前にはいい加減ガッカリさせられたよ、ジョセフ。聖騎士の地位をひけらかしながらも、やることと言ったらそこらの犬と同じ。婚約は解消した方がいいのかな?」
「!!な、何を、今更そんなっ!?」
アルフフレッドは静かに引き出しを開けると一本の小瓶を散り出した。
「……これを飲みなさい。
アルフレッドは三日月型の目をジョセフに向けて微笑んだ。
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