25枚目 ホワイトティッシュ

「…グゴゥウ〜〜…ッンガッ!!」


深く大きなイビキをかき、暖炉の前でユラユラ漂い揺れる者がいる。

記録的積雪に見舞われた今年の冬。

雪国の住民達は、朝の4時からせっせと屋根の雪を道路に落とすのであった。

だがしかし今日も、雪は降り止むことは無い。

世界が発する雑音を雪は吸収し、シンと静まり返っているのである。

そんな情勢には我関せず、とばかりに大居眠りを決める男がいた。


名前はタケシ。

この素晴らしい世界に生まれ落ちて半年、いや多分1年、とにかくしばらく経った事は確かだ。


そんな彼の生活は自由気ままそのもの。

やらなきゃいけない課題なんか無いし、追われる締め切りも無い。

自分の身体と同じ色をしている、空からの異物をのんびり見ているだけで

1日が過ぎる。


おめでとう、雪目の彼にも天命が迎えに来た様だ。


「ブヘェックシュ!!うー寒い寒い〜…!!」


手袋とピンクのニット帽を外し、暑いジャンパーを脱いで彼に近づく影。


「いやぁー、今年はスーゴイね。毎日3回やっても足りないよ!」


人差し指と中指の手慣れたフォームでタケシを引き抜こうとする

一軒家の家主。

自身の顔が上方向に引っ張られ苦悶の表情のタケシ。


「イディッ!!ちょっ、ぐくっ!イディ、イディッ…!!」


ザサッと、彼は入っていた紙箱から脱出する。

その強烈な痛みに眉間を押さえ、辺りを見渡す。


「っは!まさか!?」


庭で子どもが作った雪だるまのような恰幅の良い家主は、

タケシを半分に折り曲げ鼻に添えた。


「や、やめ…やめてくれ…」


無論、彼の声など我々人間の耳には届かない。

家主は口から大きく息を吸い込み、空気をひと思いに鼻から吐き出した。


「ハフブァッ!ブッフワァァアあぁアアアアアアァァァァァァァッッ!!!!」


雪の吸音効果も無視し、村中に響き渡る気持ちの良いっぷり。


「やめてくれぇええぃ!!うわ!きったねえっえぇえええ!!!」


「ウブフーンッ!ブバッ!!ズバズババッ!!!」


「くそっ、この、やめ!!はなせぇっ、離してぃくれえええっ!!!!」


早朝からひと働きした中年男性の容赦無い粘液攻撃によって、

純白な身体が侵されていく。


「いぃやだぁああー!まだ、死にたくねぇええぇぇょぉぉ…!!」


最初こそ威勢良く発せられていたタケシの叫びは、家主から生産された鼻水に

絡み取られ、徐々に消えていった。


「くっ…や、やめ…ゆるし、て…」


やがてポイッと、無情にもゴミ箱に投げ捨てられた。


「ふぅー。さて、と!皆の朝食でも作るかなぁ!」


彼は白目を剥き、生気を失っているのは明らかだった。


・罪状:怠惰

・死因:溺死

・来世:ティッシュペーパー

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