23枚目 サンキューブラザー

「寒いね、にいちゃん…」


「ハハハ、なに言ってんだ。にいちゃんがこんなに近くにいるんだぞ!

寒いわけあるもんか!!」


「…そ、そうだよね。隣にいるのに忘れちゃってた。ねえ、僕たちいつか

離れ離れになっちゃうのかな…グスッ…」


「な、なに…いきなりバカな事言ってんだ!どうしたんだ!

ずっとにいちゃんはお前の側にいるぞ!!」


そうだねおめでとう、天命が迎えにやってきた。


「じゃっ、いただきま〜す!」


「アッァウチッ!!!!」


バキッと、いやパキッと、それともポキっと?

巨大な手により、豪快に木の裂ける音がした。

薄茶色の細長い兄弟は、縦一直線に強い衝撃と共に引き離された。


「ぅわっ!に、にいちゃ〜〜ん!!!」


「うわぁああ!お、おとうとよぉおおーーー!!!くっそ、そんな…」


突然の出来事に、弟はサイレンみたいに泣きじゃくり、兄は汗を掻きながらあちこちに目をやり、状況把握と同時に打開案を探る。

不安な気持ちが自分にも共鳴して、パニックになりかけるのを必死でこらえる。


「俺は兄貴なんだ、兄貴なんだから!くっ、な、な、泣いちゃだめだ!…」


突如、兄弟はそれぞれの足元に物体の感触を得た。

暑い、熱を感じるし湯気も視認できた。


「あっつ!にいちゃんなんか熱い…!」


「こっ、これは…ニンジン!?」


いつか、どこかの記憶の断片。

遥か昔だった気もするが、最近見た記憶もあるよう。それは、人間が生命活動を維持するために必要不可欠な行為。そしてこの赤みがかった、角切りにされたオレンジ色の生命を体内に取り込む事で、明日も元気に目覚められるのだ。


「う〜ん!めっちゃ美味しい〜〜〜!!」


「ほんと!?あぁ…良かった〜」


「に、に、にいちゃん!!?」


「…ハッ!!」


グルグル思考を巡らせていると、弟の声で我に帰る。


「ん、ど、どうしたぁっ!おいー!弟よー!!」


声を発した途端、違和感に気づく。


「なんか、僕の足元がベチャベチャするんだぁ…」


確かに足元、腰回りまでが生暖かい。粘度の高い液体に塗れている。

スライムや石鹸、お湯ともまた違う。幾つも前世を渡り歩いた彼らでも、

経験してこなかった感触が下半身を覆う。


「ウワァアアアアッッッッッ!!気持ちわりぃぃいいい!!……いや…」


不快、ではなく心地よい。これは率直な感想であった。

今までのささくれ立った気持ちが、優しさに包まれていく兄弟。

母の羊水の中にいるような。焚き火をボーッと見つめる時の様な。


その後、兄弟は何回もこの不思議な液体に飲み込まれた。


「はぁ…にいちゃん、なんかあったかいよ…」


「おい、弟よ、どうした!目がおかしいぞ!?頑張れ!耐えるんだ!!」


「ダメかもしれないよ…にいちゃん。」


「な…なに…いや俺もヤバ、イかも…お、俺たちはずっと一緒だぁあー!!」



「ふー、ごちそうさまでした!ケン君料理上手すぎ!」



・死因:溺死

・来世:ウェットティッシュ

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