第3話 情報拾い
心配するメリュジーヌお嬢様は部屋に戻ってもらい、とりあえず情報収集に入ることにしよう。
じっとしてても始まらないし。
それと、やはり自分の立場はメイドでよかったようで。
メイドが足を踏み入れてはいけない場所にも足を踏み入れてしまって、叱られたりもした。
そんなのわからないよ。立ち入り禁止なら書いておいてほしいんだけど。自分に字が読めるかわからないけど……。
というか、周囲に文字っぽいものがない……。
それを考えると、現代日本の文字の溢れかえりってすごいなって改めて思ったよ。納豆のパックにだって字書いてあるじゃん。
そんなことを考えながら階段を上っていた。
「誰か、厨房のお手伝いしてちょうだい。人、回して」
どこに行けばいいかわからずにうろうろしていたら、髪の毛を布でまとめた女性が、誰かいない?と声をかけていた。
どこの世界でも料理する人の格好は同じなんだなぁ、と思わされる。
「あ、私、行きましょうか?」
どこに何があるかわからないし、誰がどういう人なのかわからない状態なのに、あちこち動き回る仕事はしたくない。それなら調理補助の方が楽じゃん!
そう思って、思い切り手を挙げたのに、冗談と思われてしまった。
「お嬢様付きのメイドが何言ってるのよ。さっき奥様とお嬢様たち、帰ってきたよ。さっさと行った方がいいよ。また叱られる」
ん? そういう役職があるの?
それと、どうやらこの屋敷の重要人物たちはさっきまで外出していたらしいこともわかった。
私が自室にこもっていた間に帰ってきたということだろうか。
「えーと、たまには野菜の皮とか剥きたくなるんですよ!」
「なぁに? そんなにシシリーお嬢様のわがままに耐えきれなくなったの? リリアンヌはシシリーお嬢様のところに戻らないと、怒られるんじゃない?」
私が行かなきゃいけないところはどうやら、シシリーお嬢様なる人のところだったらしい。
私はシシリーお嬢様の専属メイドとかいうやつなのだろうか。
じゃあ、先ほどのメリュジーヌお嬢様は違うのか?
シシリーお嬢様という人がどこにいるかもわからないけれど、他のメイドの後をついていってあちこちの部屋に顔を出し、そこの反応から察することにした。
1つの部屋に入ったら、あら、なんの用事?とも言われず、さっさと入るように促されたので、目的地がここなんだろう。
目の前にいるのは、頬が丸くて額が広い感じの栗色の髪の女の子だった。メリュジーヌお嬢様より年下くらいか。
うちの生徒たちは小学校6年生が一番年長だったけど、それより少し年上くらい。
それなりに可愛くはあるけれど、さっき絶世の美少女見ちゃったからね、どうしても落ちるね、うん。
「リリアンヌ、どうしたの? どこに行ってたの」
「申し訳ありません。貧血を起こしてしまい、休ませていただきました」
「あら、そう」
そのぶっきらぼうな態度に顔には出さずに少しむっとする。おい、自分のメイドの体調不調に心配の1つもできないのか、この人は。
まぁ、まだ子供だからね。
「申し訳ありません、お嬢様……本日は、私を厨房に回していただけませんか?」
「え? どうしたの? どういう風の吹き回し?」
「厨房がとても忙しそうなので……」
先ほどの厨房の人の反応からしても、このシシリーさんの反応からしても、厨房の手伝いってこの世界にとっては、底辺な仕事と思われているみたいだなぁ。3K(きつい、汚い、臭い)なのかな。
自分が普段のリリアンヌと違うことをしているので少し怪しまれたようだけれど、時間の経過と共にこの体の持ち主の記憶が流れ込んできて、整合性がついてくるみたいだから、下手に疑われる前に少し離れていたいのだけれど。
今日だけはしんどくても乗り切れるように頑張ろう。
「まぁ、いいわ、こちらの仕事はテレーゼに任せるから。メリュジーヌのところで油を売ったりしてたら承知しないわよ」
「ええ、厨房にいますので、御用がありましたらそちらの方によろしくお願いします」
釘を刺された? なんだろう、シシリーはメリュジーヌに対して悪意を持っているようだ。
言葉にケンがある気がする。
厨房は食堂の側ではないだろうか、と当たりをつけて歩いていけば、大当たりだった。どこか給食室のような雰囲気の場所に行き当たった。そして広い。
「お手伝いに参りましたー」
「あれ、リリアンヌ、やっぱり来たんだねえ」
「シシリーお嬢様にお願いしましたよ」
「変な子だねえ」
そう言われたけれど、山盛りのジャガイモとナイフとバケツを渡された。
「じゃあ、このジャガイモを全部剥いておくれよ」
「はーい」
さて剥こう、と端の方でゴミ用バケツを抱え込みながらジャガイモを剥いていて気づいた。
ジャガイモがあるんだな、この世界。
そして、ジャガイモに対する表現が、私にはジャガイモと認識できる。
話している言葉自体は違う言葉だけれど、自動的に脳内でなんかわかってしまう感じに変換されているようだ。理解できるしそのまま話せている。
元々のこの体の持ち主、リリアンヌのスキルは私にも使えるし、私のスキルもリリアンヌが使えるというのは、ジャガイモの皮むきをしていてもわかった。
別に料理できなくはないんだけれど……
このナイフがめちゃくちゃ切れない。ピーラーが欲しい……いや、包丁が欲しい。
次のジャガイモを手に取って、ふと思いついて上に投げた。そしてそのままキャッチする。
それを何度も繰り返していた。
「こら!リリ。食べ物で遊ぶんじゃないよ」
「あ、すいませーん」
ジャガイモを放り投げて受け止める……その体の感覚が地球と同じか確かめていただけなのだけど。
うん、そんなに差がないっぽい。そりゃ私とこのリリアンヌの体は身長とか体重とかまるっきり同じではないだろうから微妙な違いはあるだろうけれど。
体に感じる重力の程度が以前と同じだとしたら、住んでるこの惑星の大きさも、そして人間の大きさも同じ程度だと言えるんじゃないかなぁ。
外を見れば明るいし、ここは恒星の周囲を自転しながら回っている惑星の1つでいいんだろうか。
それなら完全な異世界というより、地球のパラレルワールドなのかもしれない。
私が暮らしていた世界が、別の形に進化した形。
知らないところで魔法があったら、異世界判定するけど。
とりあえず、物理法則が同じでよかったと思おう。そうしよう。
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