~影が薄いきみ~

「はあ・・・。ほんと、汚い音ばっかり」






とてつもなく長い溜息をつき、その音の持ち主たちを見まわす。何度聴いても不協和音。

やっぱり、いないのかな。






今日は高校の入学式。新しい人たちとの出会い。

だから、もしかしたらと思ったんだけど・・・。

私は急に力が抜けて、近くにあったベンチに腰掛けた。






今頃、どこにいるんだろう。名前もわからないから人に聞きようがないし・・・。

「すごく綺麗な音の持ち主を知りませんか?」って聞く?

いや、変な目で見られるだけだ。






頭を抱えながら一人で自問自答していると、影ができた。その直後、聞こえてきた声。






「あの、体調が悪いんですか?」






・・・え?

私は顔を上げる。そこには、とても整った顔立ちに黒縁眼鏡をかけた美青年が立っていた。

けど・・・






影うっす!え、こんなにイケメンなのに!?






普通、イケメンなら人だかりができていてもおかしくない。

けど、私の前に立っているのは影の薄い、年がら年中病で倒れてそうな・・・。

そんな人だった。






「あ、大丈夫です。ちょっと考え事をしていただけで・・・」

「考え事・・・。まあ、あまり思い悩まないように」

「あ、はい・・・」






私が返事をすると、彼は満足したように微笑み、人ごみの中へ消えていった。

私は、しばらく動けなかった。

彼の微笑みがあまりにも綺麗だったから。それもある。けど、何より“いい音”だった。

それ自体は不思議なことじゃない。今までだって、何人かそういう人はいたし。

なんで・・・なんで・・・






あの人の音色に似てるの・・・?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る