異世界転生トラックの運転手の彼と、助手席の役立たずな私の話

別歩

前夜




「おおおおお、何と素敵なタイミング!流石は神様のご都合主義ですね!とっても素敵なタイミングで丁度良い方が死んでくださいました!」




高く澄んだ女性の声で、ひどく物騒な言葉が聞こえた。目を開けるとそこは何もない真っ白な空間で、わかるのは、自分が大型トラックにひかれたはずだということだけだった。


え、あの位置でノーブレーキでひかれたなら自分はとっくに死んでいるはずでは。


そう思って身体を見下ろすも、どこも痛くないし、服から見える範囲に怪我もないようだった。


俺の静かな混乱を他所に、先ほどの声の主は続ける。長い金の巻き毛の、無駄に綺麗な女だ。




「それに、こんなに静かだなんて!間違えて殺してしまったから怒られるのも覚悟していたのに、最高ですね、貴方!しかも、大型トラックの免許まで持っている!」




間違いで殺された?流石に、それは聞き捨てならない。




「どういう、ことだ?」




俺がやっとの思いでそれだけ聞くと、女はニッコリと無邪気な笑みを浮かべた。




「初めまして。わたくしは異世界派遣所日本本部の職員をしております。各地に走る異世界転生トラックに指示を出し、次の異世界転生をする対象を異世界に送るため、ひき殺してもらうよう指示を出すのがお仕事です。」




なんだそれ。この女、ふざけているのか。固まる俺を無視し、女は続ける。




「ただ、貴方がひき殺されたのはこちらの不手際です。前任の異世界転生トラックドライバーが運転中に再び心筋梗塞で死んでしまって、貴方様をひいてしまったようです。まぁ、こちらと致しましてもすぐに後任が見つからず困ってしまったのですが。けれど、偶然か必然か、貴方は異世界転生する予定もなく殺された上に、大型トラックの免許持ち。これはもう、次の異世界転生トラックのドライバーとなるべく死ぬ運命だったとしか思えません……!」




感極まったように、女は胸の前で祈るように両手を組んで嬉しそうにしている。




「ああ、もちろん、お役目を果たしてくれたら素敵な来世をご用意致しますよ。通常のお給料もお渡しするので、普通に暮らしてくださって構いません。素敵な来世は、ほら、あれです。ちょっと豪華な退職金のようなものですね!感謝してくださっていいんですよ?」




女は得意げな顔でエッヘンと豊かな胸を張った。


が、俺は混乱する頭で、何とか考えを巡らせる。




「普通に暮らすって、家に帰ってもいいのか?俺は何をしたらいいんだ?」




「あら、申し訳ありません。貴方はこの世界にあってこの世界には居ない、怪異のような存在になります。ですので、ご家族やお知り合いに会うのは遠慮してください。普通に飲食したりもできますが、しなくても問題ありません。お給料は、したい場合のためのものですね。ただ、前任者のように暴飲暴食をしていると、いくら怪異とはいえ元の人間時代の名残で死んでしまうこともあるので注意が必要です。そして、存在が酷く希薄になるので、こちらから関わらなければ人に認識されることもありません。寝泊りはトラックの荷台で、毎日ただ黄昏時から翌日明朝まで気の向くままにトラックを運転してくれればそれでいいです。」




生前のようには、元の暮らしには戻れないことが分かり、俺は焦った。あいつは、あいつとのことはどうなる。俺はまだ、何も伝えられていないのに。




「それは……、困る。どうにかならないのか」




「はて、どうにかと申されましても。貴方様がどうしてもドライバーになるのが嫌だと仰るのであれば、通常の輪廻にのっとって次の生へと向かっていただくことになります。こちらといたしましても、都合のよい大型トラック免許持ちが死ぬまで後任が見つからないと業務に支障を来すので困ってしまうのですが……」




チラリチラリと、さも同情を誘うようにこちらを伺ってくるが知ったことではない。




「俺に、一つ条件がある。それを飲んでくれるなら、ドライバーを引き受けよう」




「まぁ、本当ですか!ありがとうございます。こちらとしても手違いで貴方を殺した負い目があるので、そうとう無茶なことでなければ融通いたしますよ!」




こうして告げた俺の願いは思った以上にあっさりと受け入れられ、俺は異世界転生トラックのドライバーになった。




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