鮫と関西と奇妙な物語
白瀬青
アメリカ村インジャパン
「そりゃあ俺だって水辺は避けてたさ。アトラクションがみんな本物に戻ってるって聞いたとき、鮫はやべェって真っ先に判ったからな。でもよ、まさか空から降ってくるなんて思うかよ。吊るしてあるモニュメントがいきなり本物の鮫になって口開けて、あいつの頭ン上降ってきたんだよ。これが鮫のやることかよ、もっと元祖鮫映画としての誇りを持てよ……」
絶対安全のはずのテーマパークは、一瞬にして映画さながらのサバイバル空間になってしまった。
ばっちゃんはここをアメリカ村と呼ぶ。アメ村はなんかちょっと違うだろと俺は思うんだが、まあすごく雰囲気はわかるし正式名称を出すとまずい気もするので、このままで行く。
ともあれ、そのテーマパークのアトラクションが突然現実になってしまったのだ。どうしてなんて知らない。考えていたら死ぬ。とにかく十八時――日が落ちてゾンビが歩き出す前に、比較的安全そうな魔法の国に行く。
「やめてくれ! お前がハリーポッター実は見てないということはよく判った!」
泣き喚く友人のマークの腕を無理矢理に引き立てて走り出す。
気持ちは解る。わざわざアメリカから日本のアメ村に遊びに来てこんな目に遭うなんて。パニックを起こすのも当然だ。だが、マークがいつまでも後ろを振り向いて指差したまま走ろうとしないのが俺をいらだたせた。
「待て、待ってくれ」
また本当は怖いハリーポッターの話か!
待てない。待っていたら俺もお前も鮫の餌だ。
「違う、後ろ!」
なんや、何が違うんや。
日本語でキレ散らかしながら振り向くと、鮫の巣窟となった大きな池をどっしりとした帆船が突っ切ってくるところだった。髑髏の紋がはためく。
「海賊だと」
なぜだ。なぜ海賊がここにいる。お前達は千葉にしか住めないはずだ。そういう大人の事情なんだ。
突然マークが倒れる。海賊からはまだ遠く離れているというのに。
訳がわからないまま走り出した俺が見たのは、背中に迫る長い長い人の腕だった。
強烈なパンチが背中を襲う。
そのとき人類は思い出したーーアメ村には、クールジャパンエリアがあったことを――。
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