―110― 顔合わせ
僕はロドリグさんの命令で、待ち合わせしていた。
〈名も無きクラン〉はレイドダンジョン(南東)を担当することなった。そのレイドダンジョン(南東)を攻略するために〈名も無きクラン〉から冒険者を選抜して臨時パーティーを結成することになったわけだ。
その顔合わせをこれからする手はずだったが、
「早めに来すぎてしまったかな」
待ち合わせ場所に来ても、まだ誰もいない。
「『永遠のレベル1』、久しぶりだなぁ」
後ろから話しかけられる。突然だったため、ビクリと体を震わせてしまう。
『永遠のレベル1』というのは、攻撃力が低すぎてレベルを上げられなかった僕につけられた汚名だ。
「ど、どうもよろしくお願いします」
僕は振り返ると反射的に頭をさげる。
「キャヒャ、オレっちからもよろしく頼みますぜぇ」
粘着質のある特徴的な声。聞いたことがある声だ。
顔をあげると、確かにそれは見知った顔だった。彼は特徴的な武器、モーニングスターを引きずっている。
『残虐のハビニール』。リーダーを決める戦いで、僕がこの手で直接ボコったんだ。
あのとき、けっこう殴ってしまったからな。僕を恨んでいても不思議ではない。これからパーティーを組む以上、余計な諍いは起こしたくないんだけど、大丈夫かな。
ハビニールの表情を見る。唇は笑っているものの、目の奥は笑っていない。どんな感情を抱いているのか、まったくわからない……!
こわいなぁ、と思いつつ僕は他の冒険者を待つことにした。
「お前たちか、俺たちと臨時でパーティーを組むつやつらは」
やってきたのは3人の冒険者だった。
「よろしくお願いします、アンリと言います」
失礼のないように僕は頭をさげる。
「こちらこそ、よろしく。僕の名前はソルナ、右にいるのがナット、左にいるのがトムソ。普段は僕たち3人でパーティーを組んでいるから、連携に関しては任せて欲しい」
ソルナさんは柔和そうな笑みを浮かべて自己紹介をする。彼の腰には両手剣でかけられており、剣士なんだってことが一目でわかる。
「おい、本当にこいつとパーティーを組むのか?」
ふと、ソルナさんの後ろに立っていた冒険者が苦言を呈した。たしか、名前はナットさんで、彼は身軽そう装備を身につけ短剣を腰に携えていた。
「あぁ、俺も疑問だな。こいつが『永遠のレベル1』と呼ばれている以上、信用できん」
もう1人のトムソさんも賛同する。トムソさんは硬くて重そうな鎧を全身に身につけ、大きな盾を背中に背負っている。
「ふむ、確かに僕も同意見かな。我らクランのリーダー、ログリグさんの命令だから、僕たちはここに来た。けど、それは君を全面的に信用したというわけではないことを重々承知してほしい」
まぁ、ソルナさんの言っていることはわからなくもない。
なんせ、僕はこの前まで『永遠のレベル1』として蔑まれてきた。なのに、急に僕を信用しろと言われても無理な話だろう。
「わかりました」
だから、僕は大人しく頷くことにした。
この調子で、パーティーとして戦うことができるのか少し不安だ。
「おい、それって、兄貴の強さを信用してねぇってことかぁ!?」
突然、大声。
一瞬、それが誰の声によるものか理解できなかった。
「兄貴はなぁ、最強なんだよぉ! それを信用できねぇってなら、オレっちが代わりに貴様らをギタギタに切り刻んでもいいんだぜぇ! ギャハハハハッ!!」
特徴的な奇声を発していたのは『残虐のハビニール』だった。
突然の主張に、ソルナさんたちは戸惑った様子で半歩後ろに下がっていた。
えっと……、
「兄貴って、誰のこと?」
「もちろん、オレの兄貴は兄貴一人っすよ!」
ハビニールは僕の目をまっすぐ見てそう言う。なんだかその瞳は輝いているような気もしないでもない。
もしかして、兄貴って僕のこと……?
「えっと、ハビニールさん」
「さん付けなんて恐れ多いです! オレっちのことは呼び捨てでお願いします、兄貴!」
「え? う、うん……。なんで、僕のこと兄貴と呼ぶんですか?」
「あの日、兄貴にコテンパンにされて思ったんですよ。オレっち、兄貴に一生ついていこうって」
「…………」
えっと、どう反応すればいいのか、わからないや。
「おい、だからお前らも次兄貴のこと馬鹿にしたら、オレっちが直接ギタギタにしてやるからなーッ!!」
「あ、あぁ、わかったよ……」
ソルナさんは困惑しながらも頷いていた。
ハビニールの変わり身には驚きだが、この調子なら協力してくれそうだし、結果的にはよかったのかな……?
「こいつ、本当にあの『残虐のハビニール』か?」
「他に、あんな変わった武器を使うやつはいないから、間違いないよ」
「ハビニールって、あらゆる冒険者に喧嘩をうっては血祭りにした問題児だよな」
「そのハブビニールを手なずけたって、このアンリって少年、実はとんでもない人物なのかもしれないね……」
ソルナさんたちの会話が聞こえてくる。
「アンリくん、さきほどの無礼な振る舞いは謝るよ。ひとまず、僕たちもこの町を守りたいという気持ちは一緒だ。だから、君に協力は惜しまない」
そう言って、ソルナさんは片手を差し出す。
握手のつもりなんだろう。
だから、僕はその手をとって、
「改めて、よろしくお願いします」
と口にした。
さっきまで不安は杞憂に終わりそうだ。これなら、意外と悪くないパーティーに仕上がるかもしれない。
「どうやら話はまとまったようね」
ふと、また別の声が響き渡る。
この声はよく聞いたことがある声だ。
「オーロイアさん——ッ」
彼女は僕と目が合うと、舌を少しだしていたずらな笑みを浮かべる。
「これで全員、揃ったわね」
そして、彼女は全員を見回してそう言った。
僕を含めてここには6人いる。6人というのは、一般的なダンジョンのボスの部屋に同時に入ることができる人数。そして、レイドダンジョン(南東)に同時に入ることができる人数でもある。
「えっと、オーロイアさんって〈ディネロ組合〉に所属してなかったっけ?」
確か、三巨頭会議にクラン〈ディネロ組合〉の所属として参加していたような。
「抜けた」
彼女はぶっきらぼうにそう告げた。
「え?」
「だって、あいつら私に遠慮してか、前線に参加させてくれないって主張するんだもん。だから、ここのリーダーにお願いして入れてもらったってわけ。ほら、ロドリグだっけ、あいつの名前」
「そうなんだ」
クランを抜けたのはびっくりだが、顔見知りがパーティーにいるのはすごく心強い。
「それで、アンリ。今日はただ顔合わせするために集まったわけじゃないんでしょ」
「うん、これから、みなさんで特訓をしようと思います」
僕たちは臨時のパーティーだ。
本来、パーティーというのは信頼しあっている仲間たちが息を合わせて連携してこそ真価を発揮する。一朝一夕で、それに至るのは不可能かもしれないが、なにもやらないよりはずっとマシなはずだ。
それから僕たち6人は、ダンジョンに潜っては特訓に費やした。
それぞれの得意分野を把握し、最善の行動を確認し合う。
そんなふうに、特訓を何日も続けていく。
そして、レイドイベントの日がやってきた。
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新作投稿しました。
初めて書いたラブコメです。
↓タイトルとURLはこちらです。
『世界一かわいい彼女と婚約したら、オレを散々こき使っていた幼なじみが『絶望』して『病』んでしまった』
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