―96― ワイバーン

 飛竜ワイバーンは天井すれすれなぐらい高く飛んでいた。

 ここからではジャンプしてもモンスターには届かない。

 ちょっと前までの僕なら、近接攻撃しか持ち合わせていなかったから、この時点で詰みだ。

 だが、今の僕は違う。


「〈氷の槍フィエロ・ランザ〉!」


 左手を前にして僕は唱える。

 すると、手元に氷の槍が生成され飛竜ワイバーンへと射出される。


 僕が覚えていてる魔法は2つ。水の魔法と土の魔法のみだ。

 だが、この2つの魔法を重ね合わせることで氷の魔法へと昇華することができると。

 傍目からみると、いきなり氷の槍が手から生成されたように見えるが、実際には水を生成させ、その上から土の元素が持つ『冷』と『硬』の性質を重ねている。

 この2つの工程を同時に行うことで、最初から氷が生成されたように見えるというわけだ。

 そして、生成した氷の槍と前に掲げた手の平の2つに『反発』の性質を与えることで、氷の槍は勢いよく射出される。


「ガウッ!」


氷の槍フィエロ・ランザ〉が直撃した飛竜ワイバーンはうめき声をあげ、その場でよろめく。

 僕の知性のステータスはそこまで高いわけではないので、威力はそこそこにしかならない。だが、確実にダメージは入っているようだ。


 もう一度、僕は〈氷の槍フィエロ・ランザ〉を放とうと魔力を練る。

 だが、飛竜ワイバーンが大口をあけたことで、僕は魔力を練るのをやめる。

 飛竜ワイバーンが大口を開けた、ということは、これから炎のブレスを吐くってことに違いない。


「グゴォオオオオ!!」


 読みどおり飛竜ワイバーンは広範囲に炎のブレスを吐く。

 威力は絶大だから、僕が当たったらひとたまりもないだろう。けれど、大口を開けるという予備動作があるため、よけるのはそう難しくない。


「〈氷の槍フィエロ・ランザ〉!!」


 もう一度、僕は〈氷の槍フィエロ・ランザ〉を飛竜ワイバーンめがけて放つ。

 これは推測だが、炎を放つ飛竜ワイバーンは冷気に弱いはず。だから、飛竜ワイバーンは〈氷の槍フィエロ・ランザ〉には何度も当たりたくないと考えるはず。


「きた……っ!」


 つい、小声でそう呟いていた。

氷の槍フィエロ・ランザ〉から逃れようと、飛竜ワイバーンが地上へと突進してきたのだ。

 魔法使いは近接戦闘が苦手。

 なぜなら、魔法を使うには時間がかかるため、敵が近距離にいるなら、魔法を使うより殴るほうが早いから。

 このことを、どこまで目の前のモンスターが理解しているかわからないが、魔法使いには近づいたほうが有利だと思ったことには間違いない。

 だが、僕にとっては近づいてくれたほうが、有利に戦うことがでてきる――!


「〈必絶ひつぜつつるぎ〉」


 狙ったのは背中から生やしている大きな翼。

 それを切り離すように短剣を突き立てては斬り裂く。

 グシャッ! と、飛竜ワイバーンの翼から大量の血飛沫が舞う。

 これで、飛竜ワイバーンは飛ぶのが非常に難しくなるはず。

 僕は一旦、バックステップでモンスターから距離をとって、MP回復薬を〈アイテムボックス〉から瞬時にとりだし口に含む。

 そして、MPの回復を待たずに、魔法を使用する。


「〈氷の槍フィエロ・ランザ〉!」

「グォオオオオオオオオ!!」


 対抗するように、飛竜ワイバーンは炎のブレスを放った。

 おかげで、氷の槍は打ち消される。

 けれど、飛竜ワイバーンに大きな隙ができたのは事実。

 一瞬で近づき、短剣を突き立てる。


「〈必絶ひつぜつつるぎ〉」


 狙うは首――。

 斬り裂かれた飛竜ワイバーンの首から血が吹き出される。それでもまだ倒れる気配はない。

 だが、ここまでくれば僕の勝ちは決まったようなものだ。

 それからはひたすら、僕は飛竜ワイバーンが動けなくなるまで短剣を振るった。

 そして、気がついたときには飛竜ワイバーンは動かなくなっていた。


 ◇◇◇◇◇◇


 経験値ボーナスが付与されました。

 レベルが上がりました。

 レベルが上がりました。

 レベルが上がりました。

 レベルが上がりました。


 ◇◇◇◇◇◇


「あっ、本当に経験値ボーナスが付与されるんだ」


 ロドリグさんに教えてもらった通り、確かに経験値ボーナスがあった。

 結果、レベルが4つもあがり、非常においしい。

 それから僕は飛竜ワイバーンを〈アイテムボックス〉に収納し、次の扉に向かった。

 一般的なボスエリアなら、次は報酬エリアとなっているが、中ボスだからなのか、報酬のようなものは見当たらなかった。

 しかし、転移陣を見つけることができた。

 転移陣を見つけた僕は思わず「よかったー」と口にする。

 もし、転移陣がなかったら、道中のモンスターを倒しながら、自分の足でダンジョンの外まで戻る必要があったからだ。

 今日は十分戦ったので、体力的にはもう限界だ。

 だから、ありがたく転移陣を使わせてもらう。


 転移陣を踏むと全身光のようなものに包まれ、気がつけばダンジョンの外まで戻されていた。

「うーっ」と充実感を胸一杯に感じながら、その場で伸びをして、気が済んだら、家に帰ろうと歩を進める。

 今日は名称未定のやつ、なんの夕食を用意しているんだろうなぁ、とか考えながら――。


 次の瞬間。

 ドドドドドドドッッッ!!! と、地響のようなものが聞こえる。


「うわっ」


 地面が異様に揺れるため、僕はその場に立つことが難しくなり尻もちをついてしまう。


 ピコン、と揺れが収まったと同時、メッセージが勝手に表示されていた。

 そして、書かれている言葉に僕は絶句した。


 ◇◇◇◇◇◇


 レイドイベント開催のお知らせ!!


 ◇◇◇◇◇◇


 レイドモンスターがこの町に出現するまで、残り5日。

 なにかが本格的に始まろうとしていた。


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