―61― 新しいダンジョンに行く前に……
今日も今日とて、ダンジョンに向かうべく、とその前に冒険者ギルドに向かっていた。
行ったことないダンジョンを開拓しようと思った次第だ。
〈鑑定〉スキルを手に入れたとはいえ、ギルドでモンスターの情報を閲覧することは大事なことだ。それに、厄介だったギジェルモたちはいなくなったことだし、気兼ねなく人が多いギルドに来ることができた。
「さて、どうしようかな?」
ダンジョンの情報が書かれている掲示板を見ながら、首をかしげる。
せっかくだし新しいダンジョンに行き、強力な初回クリア報酬を手に入れたいし、モンスターを討伐してレベル上げも行いたい。
どちらも満たせるような都合のいいダンジョンがあればいいのだけど……。
「ベネノダンジョンか」
ふと、一つのダンジョンに目をとめる。
クリア推奨レベルは、レベル30の冒険者が6人。ランクはE級。
僕のレベルは15なので、当然攻略は厳しいように思える。
とはいえ、クリア推奨レベルが25の冒険者6人のパイラルダンジョンの道中に出現する
それは、僕の敏捷のステータスが異常に高いのに対し、
ベネノダンジョンの道中に出てくるモンスターはというと……
「無理そうだったら、逃げればいいし」
逃げ足が速いことだけは僕の数少ない自慢の一つだ。
もし、難しそうだったらダンジョンを引き返せばいい。
それに、ベネノダンジョンの初回クリア報酬は非常に興味深い。行ってみる価値はあるはずだ。
そんなわけで、僕はベネノダンジョンに向かうことに決めた。
「よぉ、アンリじゃねぇか。久しぶり」
ふと、話しかけられる。
見ると、知っている顔があった。
「アルセーナくん、久しぶり」
僕は小さい頃から、このガラボゾの町にいるため顔なじみは多い方だと思う。アルセーナくんもその一人で、小さい頃はよく一緒に遊んだものだ。
ただ、僕が冒険者になってからは色々忙しかったせいかめっきり親交はなくなっていた。
だから、話しかけられたことに僕は驚いていた。
「お前、冒険者としてなんとかやっていけているみたいだな」
「うん、なんとか。アルセーナくんも冒険者になっていたんだね」
「まぁ、冒険者になったのは最近だけどな。少しでも家の助けになりたいじゃん」
確か、アルセーナくんの家は兄妹がたくさんいたはずだ。その中でも、彼は長男だったはず。兄妹のためにも冒険者としてお金を稼ぎたいってことなんだろう。
「てか、アンリ。お前は一人なのか?」
「え、えっと、そうだけど」
「他に一緒にダンジョンを攻略する冒険者はいないのか?」
「うん……」
そう言うと、アルセーナくんは困った顔で僕のことを見た。なにを思っているのかは、察しがつく。
ダンジョンってのは普通、冒険者同士でパーティを組んで攻略するものだ。
ダンジョンのクリア推奨レベルが何レベルの冒険者が6人と表記されているのも、最低6人でダンジョンを攻略しろ、と暗に示しているから。
「なぁ、アンリ。よかったらさ、俺たちのパーティに入らないか?」
アルセーナくんが思い切った表情でそう告げる。
困った。
アルセーナくんは長男だからか兄貴肌な気質がある。だから、僕がソロで活動していることを知ったら、パーティに入るよう提案するのではないかな、と少しだけ予感していた。
とはいえ、今の僕はソロで活動するほうが色々と都合がいい。僕の高い敏捷は、パーティーの中だと他の冒険者に足並みを揃える必要がでてくるため、意味がなくなってしまうし、〈回避〉を使った壁抜けもソロでないと使うのが難しくなる。
「今から、俺たちのリーダーに提案してみるからさ。ちょっと来てくれ」
せっかくの厚意を無下にするのも悪い気がする。とりあえず、話を聞いてみるだけならいいかもしれない。
◆
「アルセーナ、そいつは『永遠のレベル1』という悪名で有名なアンリだろうが。んなやつをパーティに入れる余裕なんてうちにはねぇよ」
パーティのリーダーらしき男が僕を見た瞬間、そう口にした。
「『永遠のレベル1』?」
アルセーナくんは僕の異名を知らなかったようだ。まぁ、もし知っていたら、いくらアルセーナくんでも僕をパーティに誘わないか。
「こいつは攻撃力がめちゃくちゃ低いかつ持っているスキルが外れスキルなせいで、雑魚モンスターすらまともに倒すことができない無能。モンスターを倒せないから、レベル上げができない。おかげでついたあだ名が『永遠のレベル1』なんだよ
と、リーダーは僕の異名を丁寧に解説してくれる。
まぁ、今の僕はレベル1をとっくに卒業しているんだけど。
「アンリ、お前そんなことになっていたのか……」
アルセーナくんは心配した表情でそう口にする。
「アルセーナ、幼馴染なのかもしれんが、そいつにはあまり関わらないほうがいい。そいつに関わったら、ギジェルモに目をつけられる可能性が高い。お前も知っているだろ、ギジェルモは」
と、他のパーティメンバーの一人が口を挟む。
「あぁ、もちろんギジェルモは知っているけどよ」
「てか、ギジェルモって死んだんじゃないの?」
また、別の一人がそう口を挟む。見た感じ、腰に剣を携えた女剣士だ。
「失踪はしているみたいだけどな。死体が見つかったわけじゃないから、本当に死んだかどうかまではわからん」
「てか、こいつなら知っているんじゃないの? ギジェルモのお気に入りでしょ、あんた」
と、女剣士が僕の目を見てそう言った。
急に話を振られた僕はびっくりして慌ててしまう。
「え、えっと、僕もギジェルモがどうなったかよくわかんない……」
死んだなんて言ったら、余計なことまで言う必要がでてくるだろうし、ここは知らないと言うのが得策だろう。
「つかえねー。まぁ、でもあんたからしたら、ギジェルモの呪縛から開放されたわけだし、このまま消えたままでいてくれたらいいんでしょうね」
「あ、あはは……」
肯定するわけにも否定するわけにもいかず、苦笑してなんとか誤魔化す。
「ともかくアルセーナには悪いが、こいつは戦力にならん。だから、パーティにいれることはできない」
きっぱりとリーダーがそう宣言する。
「悪いな、アンリ」
アルセーナくんは申し訳無さそうな顔で僕にそう言った。
「全然気にしていないから大丈夫」
むしろ助かったぐらいだし。
見たところ、アルセーナくんを含んだパーティは比較的初心者の集まりらしいし、僕が入っても足並みを揃えることは難しいだろうから、むしろ拒絶されてよかった。
そんなわけで、パーティに加わることなく僕は一人でベネノダンジョンに向かうことになった。
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