―59― 予期せぬエラーの発生

◇◇◇


 予期せぬエラーが発生しました。

 問題を検出しています。


◇◇◇


「あれ?」


 僕は無意識のうちにそう口にしていた。

 来ていたダンジョンはトランパダンジョン。

 目的は初回クリア報酬の〈習得の書〉を入手することだった。

 トランパダンジョンの〈習得の書〉はスキル〈物理攻撃クリティカル率上昇・小〉を習得できる。

 僕は今まで、この〈習得の書〉を何度も使うことで、小から中、そして大から特大まで成長させ、果てには〈必絶ひつぜつつるぎ〉というユニークスキルまで手に入れることができた。

 その上で、さらに〈習得の書〉を使えば、もう一度〈物理攻撃クリティカル率上昇・小〉を習得できると思い、こうして来たわけだが、実際にはそう都合よくはいかないようだ。


◇◇◇


 見つかった問題:競合するスキルが検出されました。

 競合するスキル:〈必絶ノ剣〉

【警告】

〈物理攻撃クリティカル率上昇・小〉は、〈必絶ノ剣〉を所持した状態で入手できません。それでも入手する場合、〈必絶ノ剣〉が消去します。それでも、よろしいでしょうか?

    『はい』  ▶『いいえ』


◇◇◇


「えっと……」


 表示されたメッセージを理解するのに、時間がかかる。


「つまり、〈物理攻撃クリティカル率上昇・小〉を入手しようとしたら、〈必絶ノ剣〉が消えることになるんだよな」


 どうしようかな?

 恐らく〈物理攻撃クリティカル率上昇・小〉を入手した場合、〈習得の書〉を何度か使うことで小から特大まで成長させることができるだろう。

 特大になれば、クリティカル攻撃が100パーセント発生するようになる。それは非常に魅力的だ。

〈必絶ノ剣〉はユニークスキルとはいえ、〈物理攻撃クリティカル率上昇・特大〉の完全な上位互換ではない。

 どちらも敵の防御力を無視した攻撃ができるとはいえ、〈必絶ノ剣〉はMPを消費し、〈物理攻撃クリティカル率上昇・特大〉はMPを消費しないが、無視できる防御力に制限がある。

 どっちも一長一短だ。


「とりあえず、『いいえ』にしておこうか」


 もし、〈物理攻撃クリティカル率上昇・特大〉のほうがいい判断したら、またここに来ればいいし。下手に〈必絶ノ剣〉を消去させたら、二度と手に入らない可能性もあるわけだから、『いいえ』にしておくのが賢明だろう。

 そんなわけで、僕は『いいえ』を選択した。

 すると、『スキルの習得を中止しました』という文言が表示されてから、メッセージ画面が消える。

 右手には使わなかったので残ってしまった〈習得の書〉が。

〈習得の書〉には譲渡不可なのと、譲渡可能なのに大別できる。

 ついさっき手に入れた〈鑑定〉の〈習得の書〉は譲渡可能なため、市場に出回っているが、この〈習得の書〉は譲渡不可なため、売っても価値がつかない。

 とはいえ、捨てるのもなんかもったいない気もするので、部屋に置いておけばいいか。別に邪魔になるようなものでもないし。



 その後、まだ時間に余裕があったので、僕は別のダンジョンに行きレベル上げも兼ねて何体かモンスターを狩り、素材を回収した。


「そういえば、名称未定は大丈夫かな……」


 素材を換金してもらいながら、そんなことを思う。

 部屋で大人しくしているといったものの、言葉通りそうしてくれるとは限らない。


「なんかお土産でも買っていこうかな」


 部屋で大人しくしてくれたご褒美にってわけでもないけど、なにか買い与えれば機嫌よくしてくれるかもという打算的な考えが浮かぶ。

 とはいえ、名称未定はなにを貰えば喜ぶか検討もつかない。

 普通の女の子だったアクセサリーなんかいいんだろうけど、彼女は見た目は少女でも中身はモンスターだし。


「ねぇ、なにをしているの?」


 そんなことを考えながら、道端に並んでいる露店を眺めていたら声をかけられた。

 見ると、オーロイアさんが立っていた。

 つい最近も会ったばかりだな、とか思いつつ僕は質問に答えた。


「女の子になにあげればいいかな、って悩んでいて」

「は?」


 なぜかオーロイアさんは口を開けて固まっていた。


「もしかして、あなた彼女とかいたわけ」

「彼女じゃなくて妹だけど」


 実際には妹ともまた違うのだが、それを説明しようとしたら話がややこしくなるし、妹ってことにしておこう。


「あっ、妹ね! あなた妹がいたのね! だったら最初からそう言いなさいよ!」


 なぜか彼女は慌てた様子で僕の肩をペシペシと叩いてくる。情緒不安定なのかな……。


「それで妹さんになにかプレゼントしようってわけね」

「うん、そうだけど」

「だったら、ブレスレットとかがいいんじゃない。気軽につけられるし、ほら、これとかかわいいじゃない」


 オーロイアさんは露店に並んでいたブレスレットを手にとってそう言う。確かに、かわいいブレスレットだと思うけど。


「あまり、こういうの好きじゃないと思うんだよね」

「だったら、どんなのが好きなの?」

「んー、そうだな」


 困った。名称未定がなにが好きなのか、全く見当がつかない。

 と、そんな折、いい考えが浮かぶ。


「本とかがいいかもしれない」


 今後も僕がダンジョンに行くたびに、部屋で大人しくしてもらいたいし、だったら暇を潰せるものがいいだろう。


「そう、だったら本屋さんに行きましょう」


 と、オーロイアさんに引き連れながら本屋に向かうことにした。


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