―10― 強奪

「な、なんで……?」


 僕は真っ先にそう問う。

 なんで、ギジェルモが僕の目の前にいるのだろうか?


「お前、最近あちこちの換金所を出入りしているみたいじゃないか?」


 ギジェルモはニタリと笑いながらそう口にする。

 初回クリア報酬のはずの〈旅立ちの剣〉を何度も換金したら怪しまれるのはわかっていたことだ。

 だから、僕は毎回使う換金所を変えていたはずなのに……。


「なぁ、この俺様になにを換金しようとしていたのか見せてくれよ」


 ギジェルモがそう言って近づいてくる。

 に、逃げなきゃ!

 そう判断して、後ろに振り向くが――。


「アンリ、逃げようたって無駄だぜ」


 後ろにはギジェルモと同じパーティーの冒険者が何人もいた。気がつけば、僕を囲むようにギジェルモの取り巻きたちが立っている。


「おいおい、お前がどうやって〈旅立ちの剣〉を手に入れんだ?」


 いつの間にか目の前にいたギジェルモが僕の持っていた〈旅立ちの剣〉を見て、そう口にする。


「ファッシルダンジョンをクリアして手に入れた……」

「おいおい、聞いたか! あの、アンリがダンジョンをクリアしたってよ!」


 ギジェルモが取り巻きたちに語りかけるようにそう叫んだ。

 途端、みんなが笑い始める。


「ガハハッ、雑魚モンスターすら倒せないアンリがダンジョンをクリアできるわけねぇよ!」

「弱いアンリとは誰もパーティー組みたがらないからなっ! ソロでクリアできるわけねぇだろ!」

「どうせ、まだレベル1なんだろっ。アンリちゃんよ」

「嘘をつくなら、もっとマシな嘘を考えてこいよっ!」


 と、皆が僕のことを馬鹿し始める。

 そして、ギジェルモが僕の肩を叩いてこう口にした。


「どうせ誰かから盗んできたんだろ?」

「ち、違う……っ」


 そう僕は否定しようとするものの唇が震えて声をうまく出せない。


「まぁ、どっちでもいい。この剣は俺が預かってやる」


 と、ギジェルモが強引に僕から〈旅立ちの剣〉を奪う。


「か、返して……っ!」


 と、僕が口にした瞬間――

 ガツンッ、と顔を殴られる。


「なに、俺に反抗してるんだ?」


 そうギジェルモが言うと、子分たちも一斉笑い出す。


「なぁ、アンリ。お前は俺たちに恩があるはずだろっ。だから、またなにか盗んだら、この俺に献上しろ」


 ギジェルモは僕の目をじっくりと見ながらそう言った。

 コクリ、と僕は無言で頷く。


「わかればいいんだ」


 僕の頷きを肯定と捉えたようで、ギジェルモは満足そうにニタリと口角をあげた。

 それからギジェルモは取り巻きたちを連れて、どこかへ行ってしまった。

 せっかく入手した〈旅立ちの剣〉は奪われたままだ。


「う、うぐ……っ」


 一人になった僕は泣きそうになるのを必死にこらえていた。

 こんな顔、妹には絶対に見せられない。


「強くならなきゃ……」


 ただお金を稼ぐだけじゃ駄目なんだ。

 冒険者として強くなろう。

 そう、僕は誓った。


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