―06― 色んな方法を試してみる
翌日、僕は今日一日なにをするか決めかねていた。
昨日得たお金がまだ余っているため切迫感はない。だが、使い続ければなくなるのは必然なわけで、そうなる前になにか手を打つ必要がある。
「ひとまず、なぜ壁をすり抜けたのか? その解明をすべきだよね」
目先のお金を稼ぐためならダンジョンに潜って宝箱でも探すべきなんだろうが、長い目で見るならば壁をすり抜けた謎を解明するほうが重要だ。
もし、自在に壁をすり抜けられるということになれば、それは僕にとって大きな武器になるはずだ。
壁のすり抜けが、具体的にどう活かせるのかは、あまり想像つかないけど。
「まずは家の壁で試してみよう」
ダンジョンの壁より家の壁のほうが薄いし、それなら家の壁でやったほうがすり抜けられる可能性が高いはず。
「〈回避〉」
と、口にしてもなにも起きない。
とはいえ、これで壁抜けができるとは流石に思っていない。もし、簡単に壁抜けができるなら、もっと早くこのことに気がついたはずだ。
実際に、壁抜けしたときのことを改めて思い出す。
あのときは、後ろ向きで吹き飛ばされながら〈回避〉を使ったはずだ。
ならば壁に背中を向けた状態なら、すり抜けられるかも。
「〈回避〉」
……なにも起きない。
どうやら家の壁では無理なようだった。ならば、ダンジョンに向かおう。
◆
「改めて〈回避〉について調べる必要があるのかも……」
ダンジョンに向かう最中、僕はステータス画面を表示させていた。
◇◇◇◇◇◇
〈回避〉
敵の攻撃に対し、一時的に体を加速させることで回避することができる。
◇◇◇◇◇◇
ステータス画面を表示させ、〈回避〉の項目を見る。
やはり壁抜けができるようなことは一切書いていない。じゃあ、なんであのとき壁抜けができたんだろう?
壁に対し〈回避〉が発動したとか? だけど、〈回避〉は敵に攻撃されているときしか効果が発動しない。〈
それに壁が敵の攻撃だと認識されたとしても、〈回避〉は体が速く動くという効果しかないはずで、壁をすり抜けるなんてよくわからない。
「んー、やっぱり考えても仕方がないか……」
これはいくら考えても答えは出なさそう。
「それよりも色々な方法を実践してみたほうがいいのかな」
昨日と同じ条件なら成功する可能性が高いだろうと思い、僕は昨日同様ファッシルダンジョンに向かった。
そして、中にはいっては早速使ってみる。
「〈回避〉」
壁に向かってそう唱えるが、やはりなにも起きない。
今度は家でやったのと同様に壁に対して後ろ向きで使ってみるが、やっぱり〈回避〉は発動しなかった。
昨日となにが違うんだろう?
僕は昨日のことを詳細に思い出す。
「〈
口に出しながら思い出す。
「後ろ向きでジャンプしながら〈回避〉を使えば成功するのかな?」
と、結論を出す。
ならば――
僕はダンジョンの壁に対し背中合わせで佇んだ。
「よしっ」
と、僕は気合いを入れて後ろ向きにジャンプする。
「〈回避〉!」
と、叫ぶが、なにも起きない。
ドスッ、とお尻が壁にぶつかった。
傍から見たら、今の僕すごい変な人だ。
「勢いが足りないのかな?」
後ろ向きが重要なのではなく、吹き飛ばされたときのような勢いが必要なんじゃないかと結論を出す。
今度は僕は壁に対して距離をとった。
そして、
「うぁああああああああああああああああああああ!!」
と全力で壁に向かって走り出す。
壁が迫るにつれ恐怖心が湧き起こるがとまるわけにはいかない。
「〈回避〉!!」
壁にぶつかる間際、スキルを発動する。
ゴンッ! と、響き渡る音が。
あれ――?
僕は困惑しながら後方に倒れる。
スキルが発動することはなかった。
というか、めちゃくちゃ痛いッッッ!!!
全力で壁に体当たりをしたのだ。痛いのは当たり前。
僕はその場でバタバタと痛みが収まるまで悶え苦しんだ。
「やはり、昨日と全く同じ条件でないと発動しないのかも……」
同じ条件、それは
しかし、リスクが大きすぎる。
失敗したら文字通り死ぬ。
それに成功したとしてもすでに初回クリア報酬は手にしてしまったから、大した報酬はもらえないのは確実だ。
「だからって試さないという選択肢はないよね……」
無能だと蔑まられた僕にとって壁のすり抜けは唯一の希望だ。
妹を守るため、ここは頑張りどころだろう。
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