―05― クリア報酬
「な、なにが起きたんだ?」
僕は困惑していた。
周りを見て自分がどこにいるかはすぐ察した。
ダンジョンボスを倒したら必ず通される部屋。
通称、報酬エリア。
その証拠に床には転移陣が描かれており、この転移陣を使えば簡単にダンジョンの外に出ることができる。
それと――
「宝箱もある……」
ダンジョンボスを倒したらもらえる宝箱が床に置いてあった。
まぁ、僕は壁をすり抜けただけでボスを撃退していないが、だからって貰わない理由はないだろう。
早速開けてみる。
「わーっ、剣だぁ!」
中に入っていたのは一本の剣だった。
ステータスを確認してみる。
◇◇◇◇◇◇
〈旅立ちの剣〉
攻撃力をプラス100上昇させる。
◇◇◇◇◇◇
攻撃力をプラス100もするのは悪くない性能ではないだろうか。
剣の恩恵を得るには、スキル〈剣技〉が必須だ。〈剣技〉を持っていない人が装備しても、プラス100はされないのだ。だから、僕にとってはこれはただの重い棒でしかない。
しかし売ればお金になるから、そう悲観する気にはならなかった。
今日のご飯代ぐらいにはなるはずだ。
「それにしても本当に壁をすり抜けられたんだな……」
僕はそう口にしながらマジマジとさっき体がすり抜けた壁を見た。
なぜ〈回避〉スキルを使ったら、壁をすり抜けられたのだろうか? 考えてみたがさっぱり見当もつかなかった。
◆
「あの、これの換金お願いします」
転移陣を使ってダンジョンの外に出た僕は急ぎ足で換金所に向かった。
もちろん換金してもらうのは〈旅立ちの剣〉だ。
「はい、3万イェールだよ」
「え?」
ドンッ、とカウンターに置かれた硬貨の入った袋を見て僕は思わず声を上げる。
「なにか不満だっていうのか?」
強面のおっさんはギロリと僕を睨みつける。
「いえ、逆です。こんなに貰えると思ってなかったので……」
僕は慌てて弁解する。けれど、おっさんの顔が怖くてつい小声になってしまった。
「あぁ、そういうことか……」
とはいえ僕の言葉はおっさんには伝わったようで、睨みつけるのをやめてくれる。
「〈旅立ちの剣〉はファッシルダンジョンの初回クリア報酬だろ。つまり、どの冒険者も一回しか入手する機会がない。だから貴重なんだよ。武器の耐久値が低いのが難点だが、性能は文句なしだ。これで高い理由がわかっただろ」
「あ、ありがとうございます!」
わざわざ説明してくれたあたり、このおっさんは顔が怖いだけで実は優しいのかもしれない、と思いつつ頭を下げる。
そうか、初回クリア報酬か。
もちろん名前ぐらいは聞いたことがある。
僕は今までダンジョンをクリアしたことがなかったので、すっかりその存在を失念していた。
それから予想外の収入を得た僕は必要な品を買いにでかける。
真っ先に買ったのは眠っている妹に飲ませる回復薬。
それと僕の分の回復薬も買い、昨日から怪我をしたまま放置されていた左腕を治した。
それに生きるための食事と壊れてしまったナイフの代わりに新しいナイフを購入する。
それでもお金は十分余ったが、今の僕には稼ぐ手段が限られているので贅沢なんてするわけにいかなかった。
「ただいま」
家に帰る。
やはり妹のエレレートは眠った様子でベッドに横たわっていた。
「お兄ちゃん、今日はいつもと違ってたくさん報酬が手に入ったんだ」
僕はそう話しかける。
もちろん妹が返事をすることはなかった。
それから僕は妹に回復薬を飲ませた。まともに食事をとることができない妹が唯一摂取できるものだ。
回復薬を飲ませたからといって妹が目を覚ますことはない。
ふと、妹の顔を見る。
僕のくすんだベージュ色の髪と違って妹は輝くような金色の髪を持っている。そして、ずっと家にいるからか肌は雪のように真っ白だ。
傍から見ても妹はすごい美人だと思う。
「どうしたら妹は目覚めるんだろう?」
一度、優秀な治癒魔術を使える魔術師に依頼したことがある。そのときは確か、父親の形見を売ったお金で依頼したんだ。
しかし、その魔術師でも妹が目覚めることはなかった。
魔術師が言うには、妹がこのまま寝た状態でいるといずれ死ぬということ。毎日回復薬を飲ませたら多少は延命できるだろうが、それでも限界はあるってことだった。
僕はその魔術師になんとか治す方法がないかと懇願した。すると、もしかしたら〈賢者の石〉という万能の霊薬なら治せるかもしれない。だけど、〈賢者の石〉なんてそう簡単に手に入るものではないということだった。
だから僕は冒険者を続けなくてはいけない。
まずは回復薬を毎日手に入れるぐらいは稼げるような冒険者に。そして、いつかは〈賢者の石〉を手に入れられるぐらい偉大な冒険者になる必要がある。
―――――――――――――
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