―03― 絶体絶命
「うぐ……っ、う、うぐっ」
泣きべそをかきながら僕はダンジョンを歩いていた。
さっきまで
モンスターを倒せない僕が、わざわざダンジョンに来たのはちゃんとした理由がある。
普通、冒険者がお金を稼ぐにはモンスターを倒す必要がある。というのもモンスターを倒せば、ドロップアイテムが手に入りそれを換金できるからだ。
じゃあ、モンスターを倒せない僕はどうやってお金を稼ぐつもりかというと、稀ではあるがダンジョン内には宝箱が転がっていることがある。
宝箱の中にはいっているアイテムは貴重なため、換金すればそこそこのお金になる。
そう、僕は宝箱を探しながらダンジョンを探索しているわけである。
「全然、見つからない……」
僕はそう呟く。
宝箱は非常に貴重なものだ。
それに、このファッシルダンジョンでは宝箱が見つかる可能性はほとんどないと言われている。
このファッシルダンジョンは、多くの冒険者たちが出入りしているため、道中に落ちている宝箱はすべて取られた後だとされていた。
もう少し難易度が高いダンジョンなら宝箱が見つかる可能性も高くなるが、恐らくこれ以上難易度の高いダンジョンに潜ったら、モンスターに殺されるのがオチだ。
もし僕が死ねば、家で眠っている妹も死ぬことになる。
だから危険な賭けはできない。
「だからって、なんで本当になんにも見つからないのさぁあああああああっ!」
結果、なにも見つからなかったので泣いた。
僕はどこにいるかというと、ボスの部屋の手前まで辿り着いてしまったわけだ。
「ここまでがんばってきたのに……」
途中、何体ものの
だというのに、宝箱を見つけることができなかった。
「今日食べるご飯すらないのに、どうしよう……」
その場でしゃがんで泣きべそをかく。
まさかボスの部屋に入るわけにはいかない。
もし、部屋に入ったら、ボスを倒すまで部屋から出ることは許されない。それが、ダンジョンのルールだ。
攻撃手段のない僕が入ったら、それは自殺行為と一緒。
「仕方ない、来た道を戻ろう」
ここまで無傷でこれたんだ。
僕ならファッシルダンジョンを抜けることはそう難しいことではないはず。
「ウォオオオン!」
恐らく僕のいるところまで
とはいえ脅威には感じなかった。
これまでのように逃げればいいのだから。
「ウォオオオン!」「ウォオオオン!」「ウォオオオン!」「ウォオオオン!」「ウォオオオン!」「ウォオオオン!」「ウォオオオン!」「ウォオオオン!」「ウォオオオン!」「ウォオオオン!」「ウォオオオン!」「ウォオオオン!」「ウォオオオン!」「ウォオオオン!」「ウォオオオン!」「ウォオオオン!」「ウォオオオン!」「ウォオオオン!」
「――う、うそでしょ!?」
複数の
気がついたときには、すでに手遅れ。
何十体ものの
まさか、ここまで僕を追ってきたのか……っ。
「うわぁあああ、どうしよう……!?」
確かに、道中、たくさんの
まさか、今まで遭遇していたすべての
恐らく、数え切れないほどの
「「「「グルルルルルルッッッ!!!」」」」
気がつけば、大勢の
真後ろはボスの部屋へ続く扉が僕の逃げ道を塞いでいる。
「あ、あ……あぅ」
「「グギャァアアアアアアアアアアアアアアアア!!」」
息を合わせたかのように
死んだ。
これは絶対に死んだ。
一瞬、そんな予感が頭を過ぎる。
いや、死ぬわけにいかないッッッ!!!
僕には養わなきゃいけない妹がいるんだッッッ!!!
「〈回避〉!」
僕は喉がはち切れるんじゃないかという思いで、叫んだ。
そして、僕の唯一のスキルかつ最弱のスキルを発動させた。
瞬間、全方位から襲いかかってくる
〈回避〉というスキルは、攻撃を避けるための最善の行動を自動で行なってくれるというもの。さらに、体が動くスピードも一瞬ではあるが速くなるというおまけ付きだ。
〈回避〉が絶体絶命のピンチから生き残るためにした判断。
それは、非常にあっけないものだった。
結果は、僕の体がただ真後ろへと下がっただけだった。
真後ろにはボスが待ち受けていることを〈回避〉は考慮してくれなかったというわけだ。
「やっぱり最弱のスキルじゃないかぁあああああああ!!」
僕は思わず叫ぶ。
すでに、扉は閉まりボスの部屋に閉じ込められている。
道中のモンスターはボスの部屋には入ってこないため、
「グォオオオオオオオッッッ!!」
真後ろから雄叫びが聞こえる。
そこにはファッシルダンジョンの主が待ち受けていた。
二メートル以上の巨体が僕のことを見下ろしていた。
このボスを倒せない限り、この部屋から出ることはできない。
攻撃手段がない僕にとってそれは絶体絶命としか言いようがなかった。
「うそでしょぉおおおおおおおおおおお!!」
僕の絶叫が木霊した。
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