チートボディで戦う30日戦争 ~僕と女神と妖精と青春とサイズ差と電撃と卒業の異世界戦記~
@nemotariann
運命の日 『妖精』
――――『総員退避!! 総員退避!!』
繰り返されるアナウンス。
その声は冷静に務めようとしているも、明らかに上擦っていて、これが訓練ではないのだと現実を突き付けてくる。
それでも、目の前の光景は、とても現実には思えなかった。
巨大な化け物が目をギラつかせていて、わたしの横には御伽噺の、待ち焦がれていた英雄が鎮座していた。
――――だったら! 御伽噺なら!!
「お願いっ! 動いて!! 動けーーーっ!!!」
裂ぱくの叫びと共に、『ポロン・アポロン』は目の前の『伝承の勇神』に全力の電気を浴びせた。
――――――――――――――――襲撃5時間前。
蛙が踊っている。二足で立ち上がり、前足を交互に振るって、最後は一回転して決めポーズ。
「はい! どうよどうよ!? ポロンちゃんの新技はどうよ!?」
教室にポロンの元気な声が響く。
彼女は、お得意の電気魔法で巧みに蛙を操る。
周りにいるクラスメイト達の声は様々だ。
「あら~ポロンちゃん、また上達したのね~。偉いわ~」
「うっへへ~、ありがとー! オットーちゃん好きー!」
「…ふむ。あえて言えば少し肘の角度が甘いんじゃないか? あと5°ほど上がれば見栄えが良くなると思うんだが」
「エリト君は相変わらず目の付け処が違うね、流石は委員長!」
『相変わらずポロンの電気はすげえな』
『あれ、ポロンさんぐらいしか使ってるの見たことありませんし、まさか本当に…』
周りの声に気を良くしたポロンはすっかりと自信満々に何かに勝ち誇ったような顔をする。
いわゆるドヤ顔というやつだ。
「ま、なんたってわたし、『伝承の勇者様』の末裔だからね~!」
だが、そこに不機嫌そうな声が飛び込んでくる。
「どこの世界に蛙の死骸に電気を通して躍らせてる勇者がいるっていうんだ?」
「あ! ニック! ひどーい!?」
ニックは、鼻で笑いながら両手をやれやれ…と言った風体で揺らす。
そして、そのまま蛙ショーが行われていた机の方に近づいてくる。
「で、他のにはどんなのがあるんだよ?」
言葉とは裏腹に明らかに目を輝かせているニックに周囲から生暖かい視線が注がれる。
「ニックくんは~、もっと素直になればいいのに~」
桜色の髪の少女、オットーがおっとりとした声で核心を突く。
「ニック、皮肉を言うのもいいが卒業したら君の良さを知ってる人ばかりではないのだ。もっと気を付けないと…」
眼鏡をかけたクラス委員長、エリトがついでとばかりに説教を被せた。
「んなっ!? ち、ちげーし!!? そ、そろそろ休憩終わりの時間だし!? ほらみんな行こうぜって感じだし!?」
しどろもどろになって、否定をするニック。
言い訳にも根の真面目さが滲み出ている。
『じゃあ、訓練行ってくるねポロンちゃん!』
『あ、後で整備班の方に軽食持ってきてくれないかい? 今日は遅くなりそうなんだ』
思い思いの言葉をかけるクラスメイト達。
笑顔でそれを見送ったポロンは、ふと寂しげな表情を見せる。
「…あと少しでみんな卒業かぁ~…。寂しくなるなぁ」
動かなくなった蛙とポロンだけになった教室。
それはまるで、一か月後の教室を予言しているかのようで、彼女の心に陰を落とす。
「ううん! 何言ってるのよわたし! 皆が立派になって卒業するんだもの! 最後まで笑顔で見送らなきゃ!」
――――さ、まずは整備班の為に軽食を作らなきゃ!
気持ちを切り替えたポロンは蛙を抱きかかえて、調理場に向かったのだった。
ポロン・アポロンは慣れた手つきで蛙を調理していく。
「良い焼き加減! で、後は手が汚れないように葉っぱで包んでっと…はい、完成!」
彼女はここ、『妖精防衛隊養成学校』で普段は管理人兼寮母のような仕事をしている。
この施設の管理人である老婆の元で育てられた彼女は、幼いころから仕事を手伝っていたため大体のことはこなせる。
そのおかげか親代わりであった老婆が亡くなってからも、一人でどうにか切り盛りできていたのであった。
だが、彼女を支えているのは、養母の教えだけではない。
「そうだ! 整備班にお弁当届ける前に神様にお祈りしとこっと!」
調理室の扉を勢いよく開けて、中庭を目指す。
芽生えたばかりの緑の匂いが鼻をくすぐる。
すっかりと春だなぁ、なんて思いつつ、お目当ての
中庭の真ん中に鎮座してる、ポロンの身長と同じくらいあるその水晶は、光を反射し煌めいている。
ポロンはその前で座り込んで、女神に日々の報告とささやかな願いを祈る。
女神様、今日も聞いてください。
あと30日で、学校の皆が卒業します。どうか何事もなく、無事に全員揃って卒業できるように見守っててください。
あと…ごめんなさい、少しだけ弱音を聞いてください。
正直、みんなの卒業が寂しいです。お母さんが亡くなって、学校も新しい場所に移ることになりました。
今いるみんながここで卒業する最後の学年…。わたし、あと30日で、今度こそ本当にひとりぼっちになりそうです。
みんなには聞かせられない想いをこうして女神石に吐き出すのが彼女の日課だった。
そして彼女はもう一つの日課に移った
女神石のすぐ横にある無骨な岩石の前に座る。
こちらは勇神石と彼女が個人的に呼んでいる。
あっ勇神様…今日もさ、聞いてくれる?
今日って何の日か分かる? あー!? 分かんないって顔してるー。
あっごめんごめん! もーそんな石みたいに固まらなくていいよー。
今日はね、私が電気魔法を発現してから…つまり、勇神様が運命の相手だって分かってから約12年目…。
いや、こんな大事な記念日に『約』なんてつけちゃ駄目だよね。
正確に言えば4372日目…。出会ってから4372日目記念日なんだよ!
最初はびっくりしちゃったな。わたしが勇者様しか使えないはずの電気魔法が使えたおかげで、伝説の勇神様と一緒に戦った勇者様の末裔だって分かって…。
まだ見ぬあなたが運命の相手なんてと反発しちゃった頃もあったね…。でもね、あなたの人柄を御伽噺で見聞きするうちにストーンと腑に落ちたの。
ああ…わたし、あなたと一緒になるんだなって。
自然と幸せな未来が想像できたの。
あっ! いいの。何も言わないで。
貴方の言わんとしていることは分かるから!
ふふっ、わたしも愛してる! それじゃあ、また明日!
みんなに無理やり聞かせても理解してもらえない想いをこうして勇神石に吐き出すのも彼女の日課だった。
「よしっ!」
二つの日課を終わらせたポロンはスクっと立ち上がる。
「なにもよくねえよ」
怪訝そうな顔をしたニックがそこに立っていた。
「どうしたのニック? そんな顔をして」
「電気とよだれを垂れ流しながら世迷言をブツブツ呟いている女を見た顔がどんな顔か、俺も知りてえよ…。そんなことより」
訳の分からない事を言っているニックが格納庫の方を親指で指さす。
「整備班、休憩入ってたぞ。そのお弁当、早く届けてやると、奴ら喜ぶんじゃないか?」
ああ、いけない。随分と長く日課に没頭してしまっていたようだ。
「うん、ありがとうニック! 行ってくるね!」
後ろ手に手をひらひらと振るニックに礼を言ってその場を後にした。
整備班にお弁当を渡して、しばしお喋りに花を咲かせて…外に出たころには夕日が差していた。
伸びる影が今日一日の終わりを告げる。
宿舎に戻って、明日の食材の仕込みでもしよう。
急ぎ足で、駆けだした瞬間、聞き慣れない音がして、足を止める。
次いで、地を揺らすような振動が伝わってくる。
「え? なにこれ?」
疑問を解消する間も無く、爆音で放送が流れてきた。
『南南西より、
エリトの声だ。
いつもは冷静すぎるくらいの彼の焦りが伝わってくる。
それだけで、とんでもない異常事態が起きていると分かる。
再び、駆けだす。
自動操蟲…御伽噺では遥か昔に伝承の勇神と勇者が打倒した化け物だ。
今はごく稀に弱弱しい個体が発見されるだけ。
それが…なんで、群れで、しかも普通ではない状態で…!?
どうして…こんな大事な時期に…!
突然、目の前に巨大な壁が落ちてきた。
その風圧で、吹き飛ばされる。
「きゃっ」
地面に叩きつけられたが、どうにか息を整えて、壁を見上げる。
それは壁ではなくて、巨大なカマキリの刃だった。
「う、嘘…? こんな大きさの自動操蟲が存在するの…?」
こちらを感情が見えない瞳で見据える蟲の化け物。
恐怖で足が動かない。
地面に貼り付けにされたかのようだ。
あっこれはもう…駄目かも。
「ポロン!! 立てっ! 走れっ!」
切迫した声と共に、巨大カマキリに空から魔法の砲撃が与えられる。
カマキリはポロンから目を離し、空を見上げる。
あれは…。
あの空を駆けるテントウムシは。
『ニック!? 何をしているんだ! 退避と言ったはずだぞ!! 危険すぎる!!』
『俺が【テントー】で時間を稼ぐ! お前らが退避したら俺も行く!! 俺を死なせたくなきゃ、さっさと逃げろ!』
『ぐっ…! ニック…。総員退避!! 総員退避!!』
無我夢中で駆けだす。
振り返り、空を見ると、ニックの駆る『
ひらりひらりと器用に躱しているが、あれでは時間の問題だ。
そんな…どうして…嫌だ…嫌だ…。
どんなに寂しくても…みんなの卒業を笑顔で見送りたかった…。
こんな…こんな…!!
息を切らしながらも、中庭まで辿り着いた。
周りに生徒はいない。
みんな上手く逃げれているだろうか…。
その瞬間、左手にある校舎を突き破って何かが現れた。
バラバラと木材を吹っ飛ばしながら、巨大なダンゴ虫が現れたのだった。
ポロンを獲物と認識したのか、目をギラつかせている。
「そ、そんな…」
思わず後ずさるポロンの足に何かがあたる。
あ、勇神石…。
わたしの運命の相手…一度でもいいから会いたかった。
もし、彼がいれば。
もし、わたしが本当に勇者の末裔なら。
みんなを救えるのかな。
ポロンは感情のままに叫んだ。
「勇神様ーーーーー!!!!! 助けてーーーーーーーーーーーー!!!!!」
まるでその言葉を受けたかのように、女神石が輝きだす!
「えっ? えっ?」
あまりに眩い光に、目がおかしくなりそうだ。
次いで、何か、大きな大きな風切り音が近づいてくる。
そして、それは、ポロンの真横に着地をした。
辺りを揺るがす余りに大きな地響き。
校舎が崩壊しないのが不思議なくらいだ。
土煙に写るシルエットは余りにも巨大、そして強大。
しばし後、土煙が晴れて、その姿を見て、ポロンは確信した。
間違いない…彼は…伝承の勇神様だ…!!
だったら、御伽噺ならっ!!
こうやって、勇神様と勇者は戦っていたっ!!!
「お願いっ! 動いて!! 動けーーーーーーっ!!!」
裂ぱくの叫びと共に、目の前の『伝承の勇神』に全力の電気を浴びせた。
ギ、ギ、ギ…! バクン…! バクン…! バクン…! バクン…!
勇神様から何かが動く音が、うるさいぐらいに鳴り響いた。
「勇神様…一緒に戦ってくれるのね!? 武器は…ない!? だったらっ!!」
激昂する感情のまま、ありったけの電気を浴びせる。
オオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォ!!!!!!
勇神様は咆哮と共に、巨大ダンゴ虫を蹴り飛ばした。
薙ぎ払われる地面、蟲と共に吹っ飛んでいく校舎の残骸、そしてこの悍ましいほどの咆哮。
私は、今日、神と出会った。
そして、この日から、わたし達の30日戦争は始まったのだった。
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