英雄
バブみ道日丿宮組
お題:栄光の声 制限時間:15分
かつて英雄であったのが、地の底まで落ちる。
そんなドラマを作りあげた。
それはとても楽しかった。心底嬉しかった。
世界がもっともっと彼をいじめてほしかった。
誰しもが彼を見ると、言葉の石を投げるーーそんな世界をただひたすら望んだ。
これがずっと続けば、きっと彼の精神も地に落ちる。彼だって人間だ。不幸のオーラには勝てないだろう。
そう思ってはいても、その反響はある一定の期間だけであって、すぐに彼は英雄の座に戻った。
彼には力があった。私にはないーー人を導くという力。
だからといって、彼を栄光に称える人間ばかりじゃない。そういった人たちは彼を再び底に落とす策略を繰り広げてる。
ネットではアンチ、現実ではテロリスト。
とんでもない輩だった。
そのため面白さはぐんと落ちた。
私がして欲しいのはそんなことじゃない。
世界は彼を選ぶ。やれ英雄だの、英霊だの、ヒーローだの、嘘を付く。
彼はそんなことを善意でしない。そんないい存在じゃない。パレードが開かれるなんて、怒りしかない。
だって、彼は私をいじめて楽しんでた人間。人に誇られる人間じゃないから。
トイレに入ってるときに、水を投げ込まれたり、教師にレイプさせたり、お腹を殴ったりするやつは人間じゃない。
悪魔だ。英雄じゃない、悪の魔王。喜ばれる存在なんかじゃない。
私は未だにトイレに入るのが怖い。自分の家という安全地帯にも関わらず、寒気と吐き気が襲ってくる。
男の人だって、今は父親と弟以外はまともに会話すらできない。
そんな私にできる仕事は限られてて、自分の家で内職を行ってる。
彼を貶めたのも内職で磨いた技術からできた力だった。
いわゆるハッカー。
世界に心底恨み言を抱えた私が唯一手に入れた力。
すべてを破壊しかねない能力。
ある会社の欠陥を発見し、レポートする。
とても地味な仕事をしてるが、セキュリティ会社からはとても感謝されてる。
いっそのこと、人気ホームページに彼の非道をつらつらと書き込んでしまうことも考えた。だけど、それは面白くないと思った。
彼を苦しませるのは体面的なもので、精神的なことじゃない。
肉体に攻撃するというイベントを主催しなければならない。
私が望むのは、彼が死なない程度に痛めつけられること。裏切られること。そして笑われる存在になること。
それらを望む。私が願う。だから、行動する。
英雄を堕とす。たったそれだけのことで、人を動かす。
人にどう思われようと、私は彼を貶める。
たったそれだけの人生に、私はした。
英雄 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri
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