尊死確定演出マジきたコレー!

ルメコメ

朝起きて尊死



 突然だが同士諸君。問おう。


『妹』は愛せるか?


 妹のいない一人っ子くん達も一緒に考えてみて欲しい。義妹などという邪道な異分子ではない。確実に血の繋がっている妹だ。


 もう一度問おう。


『妹』は愛せるか?


 答えは簡単だ。断言しよう。


 (家族として)愛せる。


 これは俺の独断と偏見だが、妹は愛でて愛して愛さなければならない。それが義務だ。


 理由? そんなの単純明快。妹という生物は可愛いからだ。それも災害級に。あぁ、尊い。滅茶苦茶、尊い。


 俺は今日、尊死してしまいそうだ。


 俺は朝に目が覚めて顔を洗いに行こうとしたときに偶然見てしまったのだ。


 リビングのソファーで寝落ちしている我が妹を。


 ソファーに寝転がっている我が妹は罪だ。そして正義だ。


 夜ふかしをしてゲームしていたからか、手には未だにゲーム機を持っている。はい、この文面だけでも可愛い。ゲームしている途中に寝落ちという、妹のどこか抜けている部分は兄として誇りに思っている。


 だが、それだけではない。最大の魅力はそこではないのだ。


 最大の魅力……それは彼女がなんと、美が付く程の少女であることだ。


 ソファーに仰向けで眠っているため、その御尊顔は隅々まで見ることができた。世間一般に童顔と呼ばれるフォルムは成長期に差し掛かっているからか、やや大人びている。耳の形は端正で、艶のある唇の上には鼻筋が通っている。白磁の磁気のように白くて透明感のあるツルツルお肌は思わず溜め息と共に魂を吐き出して昇天してしまう程。


 まだまだ慎ましい胸の肺呼吸による上下に呼応して、ソファーから垂れ下がっている長い髪が波打つ。ダニの存在を許さない、と言わんばかりの黒髪は妹の寝相の悪さにより少し乱れているのだが……それすらも妹の魅力を際立たせてしまう。


 動きやすいから、というなんとも気不味い理由で履いているショートパンツにより露わになっているその二本の肢体はすらりとしている。眼福である。思わず『有り難や〜有り難や〜』と唱えるのは不可抗力に他ならない。


 身内贔屓なしに見ても一家に一人……いや、世界に一柱欲しいこの美神は俺の眠気を一瞬にして浄化する。今日はもう顔を洗わなくても良いだろう。


 長々と心の中で妹の魅力に感激する俺だが……いつも言葉にするのはこの一言。


「あぁ、尊い」


 万感の想いが込められた言霊を吐いた俺は………そのままフリーズした。


 来るっ………!


 直感がそう告げていた。来る、と。その直感を裏付けるように妹がモゾモゾと動き出す。


 寝起きの妹は寝ぼけていてめちゃんこだ。その可愛いさ故に、世界統一を目指せるレベルで。


「ん、んむぅ」


 なんとも可愛いらしい声を発しながらおもむろに起き上がるその姿は控えめに言って神。然りげ無く、パーカーの袖を細くて靭やかな指で掴む様子がチャームポイントだ。


 そんな中、俺に天啓が舞い降りた。


【今すぐに妹から目を背けなさい】


 その天啓は、奇しくも正しかった。この場には妹の他には俺しかいない。だが、もしも俺以外にも人がいたとしたら、その人にも同じ内容の文面が天から啓示されただろう。


 ここでの正しい判断は、妹から目を逸らすこと。理性では、そう理解していた。ここから先は見てはいけない。見たら、それが終末だ。だから、俺は目を逸らそうと、妹から目を背けようと努力する。


 だが、そんなことは不可能だった。理性では分かっている。見てはいけない、と。ただ、それを欲望と義務感が許さなかった。俺はその瞬間を死んでも見届けなければならない、と。


 欲望。それは古代から人類が振り回され、惑わされ、誑かされてきたものだ。欲望の先にあるのは崩壊である。それに比べて理性は古代から人類を護ってきた。理性によって判断、行動することで幾重もの命が救われてきた。


 それにも関わらず、欲望に沿った行動をとるのは愚かなのだろう。だが、俺は後悔しない。最後まで妹の寝起きを見切ってやる!


 妹の瞼が僅かに上がる。美しくも儚げないとろんとした黒の双眼は……焦点が定まり切らずに俺を見た。


 俺は無意識にごくりと生唾を飲む。そして、確信した。これは尊死確信演出だと。そして、俺は絶対に尊死から免れることができない、と。


「あれ……にぃに、おはよー」


「……ッ……〜〜〜!!!!」


 無邪気で無垢で純粋な寝起きの笑顔を向けられて、俺は気絶しかける。か、かわゆい〜


 尊い。どこまでも尊い。俺のことを『にぃに』なんて可愛いらしく言うとは………反則だ。


「かっ……かわいい、……」


 ついついポツリと呟いてしまう。妹にも明らかに聞こえる声量で呟いてしまったため、俺は焦ってしまう。気不味い雰囲気になることを恐れるが………


 肝心の妹は照れながら、頬を紅潮させていた。そして少し恥じらいを見せながらも、はにかむ。天使様も物理的に顔負けの笑顔を浮かべながら……


「……………ありがとう……」


 俺が尊死した瞬間である。



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