奇々怪々
五十嵐 雄魔
第一話 邂逅
非科学的なものは信じていなかった。自分が科学的な思考を持った人間だとかそういった事ではなく、ただそういった存在の話をどこかで馬鹿にしていたのかもしれない。
ただ、実際に自分の目で目撃をしてしまうと、どうにも言い訳ができないもので、むしろもし本当に経験しているのだとすればその語り部達はよくその時の状況を覚えているものだと感心する。結論を言えば僕は今、怪異と対面している。
まずは自己紹介をしよう。性は田中、名は一郎、まさに日本の代表的な名前である。インパクトもなく、個性もない名前であるが、別に親は何も考えずにこの名前にしたわけではなく、当時人気だったスポーツ選手の名前からとった為に今のような完成形へと至ったのだった。この名前がある種の武器になり、一般的すぎるところを話のきっかけとしてある程度の人間関係は結べるほどのコミュニケーションは取れた。
勉強もある程度はできるので、実家から通える距離の大学に通う事となった。
これから話すことは、大学の入学式から数日経ってまだ授業が始まって数日という時に起こった出来事である。どこから話そうか、そうあれは何気ない、いつも通りの今日の朝から始まる。
朝いつも通り目が覚めた僕は通学の支度を終え2時間目の講義を受ける為学校へと向かっていた。大学は最寄りの駅からそう遠くはなく歩いて15分程度で着く。唯一ネガティブな事を語っておくと、そのキャンパスは山の中に在るということくらいだ。実際そこまで遠くはないものの、登校時は山を登る形になるので相応に疲れることになる。今日も春なのに、らしくない寒さの中通学路を進んだ。
キャンパスは8つの棟で別れているが、新入生の僕らが主に使っているのは校門から近い2と3の棟になる。まだ少し冷える手を擦りながら3号館の教室へと向うのだが、暖房の効いた所をできるだけ通りたいという思いに負けて午前中の授業が無く、人気のない2号館の中を通って向かうことにした。
前置きが長くなったが本題はここからとなる2号館と3号館は渡り廊下のような通路で繋がっており、そこを通る間に少しだけ木々が茂っておりその中にポツンと石碑がある。
いつもは何も思わないのだが、今日に限っては何故かその石碑へと強烈に引き込まれた。確か何かの詩が刻み込まれていたはずだが、その内容は別に関係は無い。石碑の方を見る僕の目は、現実的には余りにもあり得ない大きさの背丈を持った人型の黒い影だったのだ。
「影」というと少し誤解を生むかもしれないが、その影は明らかにその体に質量を持っており、そのどこまでも続くような黒い物体であることは疑いようが無かった。
しばらく目を離せないでいるとその影はのっそりと体の向きを変えた。そしてゆっくりとその歩を僕の方へと向けてきたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます