様々な終わり






 いつもは雲一つない青空なのに暗い雲が覆っている。


『僕の名はジョーカー』


 そこにポツンと立つ一人の女性。


 スラッと伸びた脚線美が視線を誘導し、スレンダーなスタイルと冷徹な瞳は綺麗な翡翠の色。紅蓮を想像するような赤く長い髪と白い肌。


 闇を纏ったような軽い鎧と黒い剣を持ち静かに剣を振るう。


 その一太刀の斬撃は大きな波を起こし地面が抉れ、ラクリガルドの国の城壁をいとも容易く破壊した。


『約束の場所から離れて分身体と言えど機嫌が悪い。早く終わらせるよ』


 そこからは圧倒的だった。


 斬撃を止められる者は誰一人おらずレアスキルを持ってる者も居たがそれすらも敵わなかった。


【スタンピードロストを開始します】



 この日ラクリガルドを含め八の国は名前を消した。





 



「君達は実に運が悪い! 本体の僕を呼んだ人は後悔するよ」


 ミースティアに降り立つのは未開の地から飛ばされたジョーカーの本体。


 ヒカリは緊急事態だと即座に高レベルなクランを集めてジョーカーと相対し最前列を陣取っていた。


 詳細を見て駆けつけたプレイヤーは何万人にも及ぶ。


 それをジョーカーは鼻で笑った。


 他の国のように挨拶がてらの斬撃。


 ヒカリは盾を構えスキルを放つ。


【ホーリーシェル】


 盾は光を纏うと段々と大きくなりそれは国をも飲み込むほどの大きさに姿を変える。


「うぉおおおお!」


 雄叫びを上げながら盾で無効化する。


 斬撃を吸収し終えるとヒカリは膝を付き役目を終えた光の盾は消える。


 黒い剣を空中で振り回しながら遊んでいるジョーカー。


 その全てが強力な衝撃波を生む。


「見た事ないスキルだ。へぇ、結構出来る人もいるじゃん」


 ヒカリは息を荒くしながらその全ての斬撃を光の盾で無効化していく。


 斬撃を飛ばす事に夢中なジョーカーの影に迫る。


 ジョーカーはスっと首を傾け頬を抜けていく剣に目をやる。


「団長に気を取られてれば楽だったのになぁ」


「君もさっきの人のお仲間さんだね。同じ匂いがする」


 ミリアはそう? と惚けながら自分の匂いを嗅いだ。


「いつも抱きついてるからかな!」


 軽い言葉を交わしながら剣を投げる。


 二と三とジョーカーの周りを走りながら剣を投げていく。


 剣はジョーカーにカスリ傷すら付かず十の剣を投げた所でミリアは動きを止めた。


「諦めたのかな?」


「まさか」


 ミリアから投げられ落ちていた剣が空中を舞い踊るようにジョーカーを囲む。


【剣技乱舞】


 ミリアが突っ込むと全方位から浮遊する剣がジョッカーに迫る。


 様々な武器の固有スキルのエフェクトが飛び交う中でジョーカーは楽しそうに笑う。


 ミリアとジョーカーが剣を合わせると衝撃波でミリアは押し負けて空中を飛ぶ。


 持っていた剣を投げ再度突っ込むと空中の剣を手に取り何度も何度も剣を合わす。


 パリンパリンとミリアの剣が壊れていく。


「君のレアスキルも面白いね」


「未開の地の魔物って皆んな君ぐらい強い?」


「僕が一番下かな? これでも全部の門を守ってる門番だし」


 打ち合わせた最後の剣が壊れミリアは両手を上げる。


「私の負けかな」


「楽しかったよ! また遊ぼうね」


 黒い剣をミリアに振るわれると瞬間に光の線がジョーカーを襲う。


「危な! 僕の感知にも引っかからない距離からの攻撃? またレアスキルかな」


 ミリアに視線を戻したジョーカー。


「居なくなっちゃった」


 少し残念な気持ちになりながら感知しない光の攻撃を避けていく。


 地面に突き刺さった光を見る。


「矢を飛ばしてるのか」






 矢に気を取られていると青い線がジョーカーを襲う。


【1】


 初めて受けたダメージにジョーカーは驚愕してそれを創り出した人物から距離を取る。


「久しぶりだな」


「あれ? シンじゃん奇遇だね」


 青い刀を構えたシンはジョーカーと向かい合う。


「この国襲うのやめてくんね?」


「良いよ。シンに会えたからね」


 シンは刀を鞘に戻す。


「でもジョーカーの私を止めるには条件があります」


「私?」


「……ロイヤルさんが女の子はこう言った方が魅力的だって言ってたもん」


 頬を朱に染めて恥ずかしそうに呟いたジョーカー。


「条件があります!」


 切り返したジョーカーはシンに真っ直ぐな目を向ける。


「せっかく人間の国まで来たから私はコーヒー牛乳が飲みたい」


「いいよ」


 シンはアイテムボックスから大量のコーヒー牛乳を取り出す。


「沢山飲んでくれ」


「わーい」


 シンはビンに詰められたコーヒー牛乳の飲み方を教える。


「蓋を取り腰に手を当て一気に流し込む」


 ごくごくとシンはコーヒー牛乳を飲み干す。


「プハァ! こうだ!」


「わ、分かった」


 シンの手本を見ながらジョーカーも同じ事を繰り返す。


「プハァ! これやっぱり美味しい」


「たまに持っていってたからな」


「この容器だとまた飲み方も違うんだね」


「あぁ、そうだ!」






 ジョーカーとシンが戯れている所を何万というプレイヤーが見ていた。



『『俺(私)達は何見せられてんの?』』



 同じ事を思っていた。






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