情報の対価





 


【強制イベント・スタンピード発令】


 全てのプレイヤーにシステムメッセージが流れた。


 誰もが振り向くような美貌を兼ね備え騎士のような鋭さがある彼女。


【最上位クラン ミースティア】のマスターヒカリも例外ではない。


 ヒカリはすぐさま上位クランの編成を指揮すると始まりの丘に転移した。


 ズドン、ズドンと響く足音と遠目からでも全貌が把握出来ない巨体。


 BOSSはミース・キング・オークと誰もが分かる。


 スタンピードの攻略は森から出る魔物を魔法で迎え撃つシンプルな物でコレにはボスが現れるまで攻撃力が高い前衛を温存する狙いがあった。


 森からボスが現れると同時に拓けた草原で突撃し、ギリギリの所で毎度のスタンピードを攻略して来たのだ。


 三年前までは。




【BOSS攻略・スタンピードクリア】


 準備万端で迎えたイベントはシステムメッセージと共に終わる。


 見えていた巨体は既に消えていて一切の魔物も森から出ていない状態で終わるのだ。


 このせいでイベントに対しての集まりも次第に悪くなり十のクランしかこの場にいない。


 ノコノコと一人歩いてくるのはソロプレイヤー。


 周りの十のクランは集まっているがこのプレイヤーを見る為だけに来てるクランもいるだろう。


「本物のルールブレイカーだ」


 誰かが口を開けばルールブレイカー、ルールブレイカーだ。


 最上位クランマスターのヒカリを差し置きルールブレイカーに視線が集まる。


 ルールブレイカーはヒカリ達を見てビクッと肩を揺らす。


 そして道の端をコソコソと歩いていくのだ。


 毎度の事だがそれがヒカリには我慢出来なかった。


「待て!」


 再度ビクッと肩を揺らし足を止めるルールブレイカー。


「ルールブレイカー。えっと私のクランに入らないか?」


 集まったクランから「おぉー」と感嘆の声が漏れる。


 ヒカリの勧誘それは最上位クランに認められた者だと言う事だ。


 最高の瞬間に出会えたと期待は高まっていく。


『お断りします』


 ぺこりと頭を下げて丁寧に断ったルールブレイカーはそそくさと国の中に入って行ってしまった。


「今日も断られましたね団長」


 ネコミミをぴょこぴょこと跳ねさせて楽しげに笑う副マスターのミリア。


「うん、今日もダメだった」


 シュンと気落ちしたヒカリは何がダメだったのか考える。


 それを見かねたミリアはヒカリの横からモニターを差し出す。


「スタンピードの攻略映像見ます?」


「えっ? 見る!」


 ヒカリはモニターをバッと取り上げてすかさず始まりの丘からクランルームに転移して行った。






 クランルームに移り映像を見終わったヒカリはふぅと息を吐く。


「どうでした?」


 ミリアはお茶を出すとヒカリが口を開く。


「キング・オークのクリティカルポイントまで駆け上がるなんて攻略今まで見た事ある?」


「ないですね」


「ミリアはコレ出来る?」


 ヒカリが楽しそうにミリアに尋ねる。


『団長がやれと言うなら』


 ミリアは無邪気な瞳に影を潜ませる。


「その時は楽しみにしてるわ」


 ニコリと笑みを見せるヒカリ。


 談笑も終わりと気を引き締める。


 時計を見れば十七時に差し掛かりミリアはヒカリの後ろに立つ。


 クランルームからブゥンとノイズ音が発すると十の席が円状に並ぶ会談の席へと移り代わった。


 その一席にヒカリは座った形で転移させられる。


 全プレイヤーの総トータル所持金が高い国から発言力が増すこの国別会議においてヒカリの国ミースティアは最低に位置していた。


『じゃ始めようか』


 やけに豪華な装備に身を固めたチャラチャラとしている男【最上位クラン ラクリガルド】のマスターシオンが取り仕切る形で会議は始まる。


 国同士では情報が遮断されている事から最上位クランのみに与えられた情報交換の場。


 ヒカリはこの場が嫌いだった。


 早く終われと願いながら欲しい情報を所持金でトレードする。


 ヒカリが主に欲しい情報は魔物を狩りやすくする為の未開の地攻略情報。


 そこを攻略する事でスタンピードの発生率が極端に下がるのだ。


 失敗すればプレイヤー全体に不利益がかかるイベントだからこそ最上位クランとして野放しには出来ない。


 ルールブレイカーが単独でクリアするスタンピードでも未開の地の魔物のBOSSがやって来た場合に果たしてクリアする事が出来るのかという不安は拭えない。


 その中でただの一回もスタンピードが訪れた事の無い国がありそこからの情報は喉から手が出る程ヒカリは欲しいのだがシオンは口を割らない。


 もう会議も終わりだと言う時にシオンが口を開いた。


「あ、そうそう最後になるんだけど国同士でド派手に戦う場を開かね?」


 他のマスター達がメリットを要求すると。


『負けた国から一つ何かを奪える略奪戦だと言えばメリットだろ?』


 ヒカリはシオンの自分を舐めるような視線に身震いする。


 シオンからヒカリは猛烈なアタックを何度も受けていてその度に断っているのだ。


 最上位クランには他の国のマスターとアクセスが可能で会議のように顔を合わせる訳ではないが毎日のように「俺の所に来い」と話に付き合わされてうんざりしていた。


 略奪戦。他の国では未開の地にすら足を運んで居ないのに対してその突破口を見つけている一番強い国ラクリガルドは負ける事など微塵も思ってないだろう。


 だからこそ強気に出ている。


 だがヒカリもここで勝てば未開の地攻略の情報が貰えプレイヤー全員のリスクが軽減されると思った。


 少なからずヒカリと同じような思惑の国が賛成の意を表明する。


 全部の国が賛成して会議は終わった。


 日程は運営から知らされるとの事だった。


 ヴィンとノイズが走り元のクランホームへと転移する。




 肩の力を抜いたヒカリに対してバンっと机を叩くミリア。


「なんであんな略奪戦なんかに乗ったんですか!」


「だってぇ」


「負ければどうなるか分かっているのですか!」


 負ければミースティアはラクリガルドに吸収されるのは確定している。


「私は国を想う団長は好きですが国の為に犠牲になる団長は嫌いです」


 ツンとミリアはネコミミを逆立てながらヒカリに対して怒りを顕にした。


「そうはならないでしょ? 最強の剣士が守ってくれますよ」


 ヒカリは目の前のミリアを真剣な目で見ながら頼りにしてますと口にする。


 少し恥ずかしくなったミリアは席を外しクランルームから外へ出る。


 セーブポイントの宿に転移した事を確認すると独り言のように呟いた。


 ヒカリの真剣な眼差しの奥に大きな期待が膨らんでいて自分を通して他の人に声をかけてるようなそんな錯覚をミリアは覚えていた。



『団長.......私じゃないのですね』



 密かな想いは空に溶けた。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る