森田さんは基本物静かである

 森田さんは基本物静かである。

仕事中、時々モニターの隙間から目をのぞかせ

「ま....真琴さん......ちょ、 ちょっと教えて下さい」

森田さんは営業から外されて、私の業務を社内下請け状態であった。


全く知識ない人に、私はフォトショやドリームウィーバーなどデザイン用のアプリケーション操作を教えていた.....。なんで入社数か月で人に教えるなんて.....。


それでも彼は熱心で、夜遅くまで残って仕事をしていた。ただ夜22時にビルが閉まる。万が一22時までオフィスに居たら閉じ込めだ。その場合は仕方なく朝まで会社。

私は何度か21:59すり抜けでセーフをしたことがあるが、

森田さんは多々朝までコースだった.....。

昼ごはんもコンビニが多く、

青白い顔....


この人生きていけるのかっ???と思う。


 そんなある日森田さんが、私に社用チャットで

『この足見覚えありませんか?』

一枚の写真を添付してある。

革靴の着用写真。

えっと、これどうしたらいいんだ。

『モデル着用写真ですか?クライアントさんの』

『はい!』

『森田さんですか?』

『当たりです!』

で、どうしたらいいんだ。

どう褒めたらいいんだ。


これを私に送り、またモニターの隙間から笑顔をのぞかせる森田さん。んーわからん。意図がさっぱり。


彼が私に絡んだ最初で最後のチャットだった。


「森田 まこちゃん、昼飯行く?」

左の席の佐武さんが私達を昼ごはんに連れて行ってくれるという。


会社裏の親子丼やさん。


「森田 大丈夫か?元気か?」

佐武さんも心配しているよう。そりゃこの病的な顔色を見ればみんな不安になる。

「あ はい。大丈夫です」


「森田さんはデザイン興味ないんですよね?」

あっ失礼だったかな。言った先から反省するのがいつも私の悪いところ。

「いえ、やってみたら楽しいです。真琴さんには迷惑かけてすいません。」

「とんでもない。」

「なんだよ。おまえら学級会みたいな会話だな」

「まこちゃん、ついに消臭剤持ち込んだね」

ああ、そうです。部長の足が臭すぎて、私は置き型消臭剤とスプレー型をキープし、部長が外出時にスリッパにシューっとしてました。


「はい....もう耐えられなくて」

「ハハハハハ シューしてるのみてウケたよ」

「私達犠牲者ですから。ね?森田さん!」

森田さん?真っ直ぐ私を見たまま止まっている。

大丈夫か?この人

ついに脳機能が......。


「あ ありがとうございます。シューしてくれて。」

「おまえらさ 同い年だっけ?」

「さあ、おいくつですか?」

「僕は今年26です 真琴さんは?」

「私は今年25です。」


「変わらないな1歳だけか。いいなー20代 あっという間に終わるぞ。謳歌しろよっ」


その数日後、森田さんに異変が


いつものように、モニターから顔を出すかと、待っていたらモニターからっいつも以上に青白い顔で

「真琴さ....ん」


森田さんは椅子から落ちた。

「おいっ!森田!」

みんな慌てふためく。救急車を呼んだ。

都会のビル下で救急車が来て担架に乗せられた青白い美青年は運ばれた。


私達は、グランドフロアで唖然としたまま立ちんぼだった。


インフルエンザだったらしい。

ただそれだけじゃなく、相当無理をして生活も不規則な為倒れたらしい。

森田さんは退職した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る