第2話:運命の出会い
彼と別れてしばらくしてから、彼から怪しげなwebサイトへのリンクが送られてきた。「メグ、君はもしかしたらこの人と同じかもしれない」という一言と共に。
「なにこれ…開いて良いやつ…?」
あまりにも急だったため、アカウントを乗っ取られたのではないかと疑ったが、少しメッセージをやりとりすると乗っ取られていないことはすぐに分かった。
彼を信じてリンクを開く。開いた先はブログだった。恋愛をしない生き方をする、レンという男性の日記が綴られていた。アロマンティック・アセクシャルという言葉はそこで知った。
「恋愛をしない……」
衝撃だった。私は、約一年前から毎日更新されていたその日記を、1日かけて全て読み込んだ。そして、最新の記事にコメントを入れた。「もしかしたら私はあなたと同じかもしれません」と。
そこからレンさんとチャットをやり取りするようになり、やがて、現実で会うことになった。ネットで知り合った人と現実で会うことに抵抗はあったが、これを逃したら私は一生、恋愛出来ない自分に罪悪感を抱えながら生きることになりそうで嫌だった。逃げたかった。この恋愛主義の社会から。
警戒しつつ、送られてきた写真を元に、同じ服を着る男性を探す。すると、誰かを探すようにキョロキョロとあたりを見回す男性と目が合った。写真と見比べ、レンさんだと確信し声をかける。
「レンさんですか?」
「はい。そうです。メグさんですね?」
「はい。本名は
皮肉な名前ですよねと自虐すると、彼はくすくす笑いながら、レンは本名であり、恋と書くことを教えてくれた。恋心が分からない私達二人の名前を合わせて恋愛だなんて、あまりにもおかしくて、笑わずにはいられなかった。心の底から笑ったのは久しぶりかもしれない。
ちなみに年齢は32歳。私よりちょうど10歳年上だったが、年上と話している緊張感はなく、同年代の男性のような軽い雰囲気で会話ができた。チャットではお互いに年齢を明かさなかったから、勝手に同年代だと思って話していたせいだろう。彼も私の年齢を聞いて驚いていた。
「……私、前に付き合っていた人が居たんです。好きになれるかもしれないと思って。その人が恋さんのブログを見つけてくれて。愛はこの人と同じなんじゃないかって」
「そうだったんですね。……素敵な人とお付き合いなさってたんですね」
「はい。……でも結局、私は彼を好きになれませんでした」
「私も一度女性と付き合ったことがありましたよ。……普通になりたくて。……生々しい話ですが、キスとか……それ以上のことも試しました。……でも、駄目だった。……私は彼女の恋心を利用して、彼女を実験台にしたんです」
私と同じだ。
「…アセクシャルという言葉は、どこで知ったんですか?」
「モヒートというバーのマスターが教えてくれました。セクシャルマイノリティについて詳しいらしくて、私の話を聞いて『そういう人も居ますよ』って。彼女が初めて私を肯定してくれたんです。……だから私はブログを立ち上げました。同じように悩む人に、あなたはおかしくないんだよ、私も同じだよって教えたくて」
しかし、ブログには心無いコメントも多く、彼は私がコメントを投稿したあの日を最後にブログを畳もうとしていたらしい。私があの日コメントを残したから続けることを決めたのだと優しい顔をして語り、私にお礼を言った。彼がブログを書くことをやめていたら、私は同じ境遇の人に会えなかったかもしれない。
「なんか、運命的なもの感じますね」
「運命って……メグさん、意外とロマンチスト?」
「あ、恋愛的な意味はないです」
分かってますよと彼はくすくす笑う。
元々チャットで交流をしていたこともあり、彼と打ち解けるまでには時間はかからなかった。
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