第1話 お誘い(1)
「え……? え……っ!?」
『レディ。よろしければ、僕と一曲踊ってくださいませんか?』――。そんなお声に驚いた私は、顔を上げて更に驚くこととなりました。
肩に毛先がかかる程度に伸ばされた、まるで造形物のように美しい銀色の髪。エメラルドのような、綺麗な緑を宿した瞳。芸術品という表現がオーバーには聞こえない、完成されたお鼻とお口。落ち着きと気品を纏った、長身。
そんな美点をお持ちなこの方は、テオドール・ブロンシュ様。隣国の筆頭公爵家である『ブロンシュ家』の、次期当主様なのです。
「っっ。ブロンシュ様!?」
「このわたくしがお誘いしても、駄目だったのに……。どうして、あんな化け物のもとに……!?」
主催であるメラニー様達が唖然となっていますが、きっと、私はもっと唖然とした様子を醸し出していると思います。
((こ、こんなにも高名で、多くの方に慕われている御方がなぜ……!? どうして、こんな私にお声を……!?))
それはあまりに予想外で、パニックに陥るのは必然でした。頭の中がグルグルと回っているような錯覚を覚え、そうなっていたら――。恐らく、心の状態を察してくださったのだと思います。「驚かせてしまいましたね」という優しい御声がやって来て、柔らかい視線が私を見つめました。
「僕は先ほど貴女をお見掛けした時から、一曲お願いをしようと考えておりました。幸いにもこの場には、見る目がない方ばかりいらっしゃるようでしたので。初対面ではありますが、チャンスと思いこうしております」
「…………そ、そう……。なの……。です、ね……」
「はい、そうなのです」
ブロンシュ様は穏やかに目を細め、すぅっと。流麗に片膝をつかれ、美しい右手がまっすぐ伸びてきました。
「ハレミット家の、パトリシア様。どうか、この男の我が儘にお付き合いください」
「…………。こ、こんな私で、本当によろしいのですか……?」
「ええ。僕は、貴女がいいのです。お付き合い、いただけますか?」
「……は、はい……っ。はい……っっ。おっっ、お願いしますっ、いたしますっ!」
こんなことは、デビュタント以来ですので。驚きと緊張で口調がヘンテコになってしまいましたが、どうにか頷きお手を取らせていただいて。
そうしてブロンシュ様のエスコートによって、私は3年ぶりに――。もう2度と立てないと諦めかけていた舞台に、立ったのでした。
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