化け物令嬢と呼ばれる私と、ダンスを踊ってくれた人がいました
柚木ゆず
プロローグ
『化け物令嬢』。それが、私――ハレミット子爵家の一人娘・パトリシアにつけられた名前でした。
……この体に異変が起きたのは、
『パトリシア、安心しなさい。この国には、高名なお医者様がいらっしゃる。その方に診てもらえばすぐ治るさ』
『その方はね、周辺国からも一目置かれる方なのよ。大丈夫よ』
ヤニックお父様とカロルお母様は優しく励ましてくださり、その方の御厚意によって、『現代医学の権威』と称される先生の診察を受けることができました。
ですが……。こんなケースは過去にないようで、返ってきた言葉は『打つ手がありません……』でした。
そのため私は5つのコブと共に生きることとなり、
『なにあれ、気味が悪い……』
『原因不明、だそうですわよ。……近づきたくはないですわね』
『不気味ですわ……』
まるで禁忌を見るような目で見られるようになって、いつしか令息令嬢の間では『化け物令嬢』と呼ばれるようになったのでした。
「パトリシア……。パーティーには出席しなくていいんだぞ……?」
「つらい思いをしてしまうだけだもの……。自分以外の事は、考えないで頂戴」
「お父様お母様、ありがとうございます。私は、大丈夫ですよ」
本音を言うと、奇異な視線や陰口が飛んでくる場所には出たくはありません。ですが中位上位貴族からの招待を何度を断っていると、『家』に悪影響が出てしまいます。私の大切な人達――お父様とお母様に迷惑がかかってしまいます。
お父様達はそう仰ってくださいますが、それは嫌ですので。たとえ送り主が私を見世物として招待していると分かっていても、出席するしかないのです。
「ねえ、あそこ。化け物令嬢がいますわ」
「あらまあ。いつ見ても、気味が悪いですわね」
「そうですわ。気味が悪いといえば、先日――」
そのため今夜も私は参加者の『話の種』となり、いつも通り壁の花となって。楽しそうにお喋りをする参加者を独り眺め、そうしているとダンスが始まる時間となりました。
今日はクーレル侯爵家のメラニー様主催の、舞踏会。そのため会場内では次々とペアが誕生しますが、
「あら。今夜も化け物令嬢は、独りぼっちですのね」
「当然ですわよ。あんな人と踊りたがる人は、どこにもいませんわよ」
私は『化け物令嬢』ですので、お声をかけてくださる方もエスコートしてくださる方もいません。なのでいつも、隅で見ているだけ。この国の貴族は男女問わず、他者を攻撃することを愉しみとしている方が多数いらっしゃって――。そんな方々を愉しませる材料となるだけ。
((…………
私は小さな頃からダンスが大好きでしたので、いつものようにコッソリと、神様にお願いをして。いつものように俯いて、賑やかで華やかな時間が過ぎ去るのを待――
「レディ。よろしければ、僕と一曲踊ってくださいませんか?」
――待とうとしていた、その時でした。
そんなお声が、聞こえてきたのでした。
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