化け物令嬢と呼ばれる私と、ダンスを踊ってくれた人がいました

柚木ゆず

プロローグ

『化け物令嬢』。それが、私――ハレミット子爵家の一人娘・パトリシアにつけられた名前でした。

 ……この体に異変が起きたのは、15歳の頃3年前。デビュタントの翌日のことでした。2度目の夜会に参加している最中に、突然顔に激しい痛みと熱がやってきて……。両目の周り、額、顎が膨れはじめ、大きなコブができてしまったのです。


『パトリシア、安心しなさい。この国には、高名なお医者様がいらっしゃる。その方に診てもらえばすぐ治るさ』

『その方はね、周辺国からも一目置かれる方なのよ。大丈夫よ』


 ヤニックお父様とカロルお母様は優しく励ましてくださり、、『現代医学の権威』と称される先生の診察を受けることができました。

 ですが……。こんなケースは過去にないようで、返ってきた言葉は『打つ手がありません……』でした。

 そのため私は5つのコブと共に生きることとなり、


『なにあれ、気味が悪い……』

『原因不明、だそうですわよ。……近づきたくはないですわね』

『不気味ですわ……』


 まるで禁忌を見るような目で見られるようになって、いつしか令息令嬢の間では『化け物令嬢』と呼ばれるようになったのでした。


「パトリシア……。パーティーには出席しなくていいんだぞ……?」

「つらい思いをしてしまうだけだもの……。自分以外の事は、考えないで頂戴」

「お父様お母様、ありがとうございます。私は、大丈夫ですよ」


 本音を言うと、奇異な視線や陰口が飛んでくる場所には出たくはありません。ですが中位上位貴族からの招待を何度を断っていると、『家』に悪影響が出てしまいます。私の大切な人達――お父様とお母様に迷惑がかかってしまいます。

 お父様達はそう仰ってくださいますが、それは嫌ですので。たとえ送り主が私を見世物として招待していると分かっていても、出席するしかないのです。


「ねえ、あそこ。化け物令嬢がいますわ」

「あらまあ。いつ見ても、気味が悪いですわね」

「そうですわ。気味が悪いといえば、先日――」


 そのため今夜も私は参加者の『話の種』となり、いつも通り壁の花となって。楽しそうにお喋りをする参加者を独り眺め、そうしているとダンスが始まる時間となりました。

 今日はクーレル侯爵家のメラニー様主催の、舞踏会。そのため会場内では次々とペアが誕生しますが、


「あら。今夜も化け物令嬢は、独りぼっちですのね」

「当然ですわよ。あんな人と踊りたがる人は、どこにもいませんわよ」


 私は『化け物令嬢』ですので、お声をかけてくださる方もエスコートしてくださる方もいません。なのでいつも、隅で見ているだけ。この国の貴族は男女問わず、他者を攻撃することを愉しみとしている方が多数いらっしゃって――。そんな方々を愉しませる材料となるだけ。


((…………デビュタントの日あの日に踊ったダンスは、楽しかった。……また、あんな時が訪れますように))


 私は小さな頃からダンスが大好きでしたので、いつものようにコッソリと、神様にお願いをして。いつものように俯いて、賑やかで華やかな時間が過ぎ去るのを待――



「レディ。よろしければ、僕と一曲踊ってくださいませんか?」



 ――待とうとしていた、その時でした。

 そんなお声が、聞こえてきたのでした。

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