余命

 ぱちぱち、ぱちぱち、ぱちぱち。


「この線香花火が消えたら、君に言いたいことがある」


 その横顔の輪郭が、火花の光に縁取られる。辺りは真っ暗だけど、怖くはなかった。


 一人じゃないから。


「…綺麗だね」


「聞きたくないか」


 私は微笑って首を振った。


「不安がっていてもしょうがない、目の前のことに一生懸命でいようよ、楽しもうよ」


「聞き覚えのある言葉だな」


「耳にタコができるくらい聞かされてたから」


 切れ長の目がさらに細くなる。笑った時の顔。一番好きな表情。


 けれどその美しさは、長くは続かなかった。小さな光は、あっという間に失われた。


「…もう一本やる?」


 私は微笑って首を振った。辺りは真っ暗で、私は一人ぼっちになってしまった。

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