辺境伯一家と夕食

 

 用意してもらっていた部屋に移動して、身支度を整えましょう。


 屋敷を逃げ出す時に持ち出さなかったのと、移動の途中で買うつもりだったのが買えなかった関係で、着替えるための服を持って来ていなかったのですが、しっかりと部屋に着替え用の服が用意されていました。


 グレシア辺境伯家の用意周到さに内心慄きましたが、他に着る物もありませんのでありがたく着させてもらいましょう。


 それと、着替えさえできれば、と思っていたのですが当然、という流れで湯浴み場まで案内されたのでそちらも済ませました。


 何と言うか、この至れり尽くせりな対応が少々心苦しいです。

 それに、アレスにしか連絡を取らない状態で来たと言うのに、ここまでしてもらうのはちょっと戸惑いますね。



 湯浴みと着替えを済ませ、身支度を済ませたころにはもう少しで夕食という時間になっていました。


 ここに来るまで来ていた服は使用人に回収され、洗濯してもらえるようです。ただ、あの服は逃げるために動きやすい物を選んだだけで、良い服という訳でもなく古めの服なのです。なので、新しく服を手に入れた後は着るつもりはないのです。そのため、しっかり洗ってもらう必要は無いのですが、あの分だとしっかり洗った上に傷んだ部分の修復もしてくれそうなのですよね。申し訳ないです。


 しかし、身支度も終わらせたのですが、この後はどうしましょう。

 アレスや辺境伯家の使用人からも夕食の場に呼ばれることになる、と言われているのでそうなるのでしょうけど、どうなのでしょうか。


 手持ち無沙汰……といいますか、落ち着きませんね。昔ここへ来た時はお母さまと一緒でしたし、理由があって来ていたのでこんなことを感じることは無かったのですけれど、今回は違いますからね。


「あの、ちょっと聞いてもいいかしら?」


 この部屋で待機している私の補助を任せられている使用人に話しかけます。


「はい。何か御用でしょうか?」

「この後の予定について知っていたら教えていただきたいのですが」

「構いません。この後でしたら旦那様との夕食を予定しています。その後の予定に関して、私は知らされていませんので、何かあれば夕食の場で伝えられると思われます」

「そうですか。ありがとうございます」


 やはり夕食については決定事項のようです。

 それと、この使用人に伝えられていないだけで、既に予定が決まっている可能性もありますね。とりあえず、今後については辺境伯様にお聞きするか話し合った方が良いでしょう。


 不意に部屋の外からドアをノックする音が聞こえてきました。


「レミリア様。夕食の準備が済みましたので、お呼びに来ました。ご用意が済みましたらご案内させていただきたく思います」


 夕食の準備が済んだようです。

 準備の方は既に済んでいますので、夕食の場へ行くことにしましょう。


 

 夕食の場に到着するとそこにはすでにグレシア辺境伯様をはじめ、その奥様とアレス、アレスの妹のルクシャールがそろって私の到着を待っていました。

 アレスの上の兄弟であるローレンは騎士団から戻ってこられなかったのか居ませんね。


 ですが、まさか辺境伯一族がほぼ勢ぞろいしているとは想定していませんでした。良くて辺境伯様とアレスが居るくらいだと思っていたのですが、これは圧がすごいですね。


「ようこそレミリア。歓迎するよ」

「貴方が我が家へ来たのが久しぶりだから、料理人に少しいい物を作らせたのよ」


 グレシア辺境伯様はそう言って私を席に着くように促し、奥様はテーブルの上に広がっている料理を示しました。


 アレスとルクシャール……ルクシャは両親の言葉を遮らないよう笑みを浮かべたまま、私を見ていますね。まあ、ルクシャは意識が時折料理の方へ向いているようですが。



 夕食の席に着き、食べ終わるまでは静かな時間が経過しました。そして、夕食を食べ終えた後、食器を下げられテーブルの上に紅茶などの飲み物以外が無くなってから、今後の私についての話しが始まりました。


「レミリアはオグラン家から逃げて来た、と聞いたが、もう少し詳しく事情を伺いたい。アレスから聞いただけでは、我が家で君をどう扱うべきなのかはっきりと判断することが出来ない」


 それはそうでしょうね。いきなり家が危ないと思ったから逃げて来た。と言っても、実は勘違いや過剰に反応していただけだった、という状況で受け入れ保護してしまうのは、最悪、他国の貴族令嬢を攫ったなどと難癖を付けられ、国家間の問題に発展してしまう可能性がありますからね。保護するにしても正当な理由がないといけません。


 私は保護してもらうためにここへ来たのですから、ここまでの事情を詳細に話さなければなりませんね。



「それは本当の事か?」

「ええ、ガーレット国第2王子の婚約者に、リーシャが正式に決定しました」

「まさか、あれを王族の伴侶として決定させるとは、ガーレット国の上層部は大丈夫なのか? あれの中身を知っていればそんなことは絶対にしないと思うのだがな」


 グレシア辺境伯様はリーシャの事も知っているのです。まあ、私と同じくリーシャが最後にここへ来たのは5年前ですが、それでも辺境伯様にこれほどの事を言われるほどリーシャの印象は良くないのですね。まあ、ここでリーシャがしたことを思い起こせばおかしいくはないのですけど。


「それに、あれほどレミリアを聖女と言ってもてはやしていたというのに、そのような対応をしていたとは。第1王子の件は仕方がないとは言え、第2王子の婚約者すら外すとは」


 私がガーレット国の上層部から聖女と呼ばれていたのは5年前までですから、今ではそう呼んで来る方はそう居ません。それに、私の事をそう呼んでいたのは、当時の私が第1王子の筆頭婚約者であって、少しでも王子の婚約者として私の拍付するためのものだったのです。

 それに結局、当時の国王が死にお母さまも亡くなったことで、私は第1王子の婚約者から外れ、第1王子は政策の関係で、他国で聖女と呼ばれていた方と婚姻を結ばれました。

 なので、今さら聖女、と言われても困るのです。

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