あの夏の貴方へ
姉御なむなむ先生
不可思議な世界と旅立ち
プロローグ 「夏」
ふと、夏になると思い出す。
じわじわと肌を照らす太陽とうるさい蝉の声が、まるで私に忘れるなと言うかのように、あの時を思い出させる。
私はベットから見える窓の外を見た。嫌になるほどの青空と大きな入道雲が、ゆっくりゆっくりと流れて行くのを、私は眺めていた。
ああ、そう言えばあの時もこんな感じの空だったわね。
なんて思いながら眺めれば、閉めているはずの窓からそよ風を感じる。でも私の思い出の中にあるあの時とは比べられない程の弱い風。
でもそんな風に私は、ギュッと心を締め付けられる。
バカね、自分から捨てたくせに。
今更、後悔して加害者ぶる自分に私の心は更に締め付けられた。私は知らず知らずのうちにふっと笑いを零す。
そう言えば、と私は机に向かった。一人暮らしをして初めて買った白い机は、ペンの小さな傷とちょっとした汚れで白く無くなっていた。そんな机の上には仕事の書類と、電気スタンド、そしてこじんまりとした、紐のネックレスが置いてある。
本当に未練がましい。
そんな声が耳元で聞こえた気がして私は目を瞑った。
そんなこと、私が一番わかっているわよ。
声を無視するかのようにネックレスに触る。不格好な青い石が青空と、そして誰よりも愛おしいあの青と似ていて縋るように私はにぎりしめる。そんなことしたって変わるはずないのにと、声を聞きながら。
――私は今年もあの時を思いだす。
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