第38話 SSランクダンジョン攻略

 今回のSSランクダンジョンは迷宮型だが、入り口付近の通路はかなり広く、二つのパーティが向かい合うことができるほどのスペースがあった。

 しばらく歩いて行き、外の女性たちの目が届かなくなったところで、先頭を歩いていた王子は立ち止まってアトラスたちの方に振り返った。

「いやぁ隠密にしてるつもりなんだけど、なぜかファンは僕の居場所を嗅ぎつけてしまってねぇ。困るねぇ」

 王子はやれやれと首をすくめる。すると、横にいた騎士が頭を下げて言う。

「我々の管理が行き届いておらず申し訳ありません! しかし王子様を一目見ることを生きがいとする女性があまりに多く……」

「副団長のせいでないことはわかっているさ。国民に好かれることは悪いことではないよ」

「さすがは将来この国を担う王子様です」

 王子と副団長のそのやりとりを黙って聞くしかないアトラスたち。側から見ると、副団長が露骨に王子を持ち上げている痛い絵に見えるのだが、当の本人たちは気にしていない様子だった。

「さて事前の調査によると、このダンジョンはミラー型の迷宮になっていて、途中二手に別れる必要があるようだ」

 王子がダンジョンの概要を説明し、その後攻略の作戦を明らかにした。

「基本的には宮廷騎士団が先頭を行く。しかし、道が別れている時や、我々がピンチに陥った時は君たちの助けを借りる。そういうフォーメーションで考えているんだが、いいかな?」

 ジョージ王子は柔らかい口調でそう尋ねてきたが、アトラスたちに拒否権などあるはずはなかった。

「わかりました」

「では、早速進んでいこう!」

 ジョージ王子は、再び白い歯を見せて、そう宣言した。 


 †


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「何が困るねぇ、だ。毎回行くダンジョンの場所を自分でリークしてるくせに」

 ……どこかで。

 騎士の一人がボソッと、自分にしか聞こえないような小さな声で、そう呟いた。


 †


 宮廷騎士団とアトラスパーティは、ジョージ王子を先頭にダンジョンを進んでいく。

「王子様! 敵です!!」

 前衛の騎士が王子をかばうように身を乗り出そうとした。しかし王子はそれを手で静止する。

「まぁ見てろ。僕が片付けるから」

 現れたモンスターはミノタウロスだった。さすがはSSランクダンジョン、初っ端から他のダンジョンならボスレベルの強敵である。

 王子は剣を引き抜くと、単騎で敵に突っ込んで行く。

「はぁぁ!!」

 王子の剣が鋭く光り、ミノタウロスの巨体を斬りつけた。ミノタウロスの強靭な防御力をものともせず、そのHPを確実に減らしてみせる。

「さすが王子様だ!!」

 さらに王子は畳み掛けるような剣戟を見せ、5分ほどでミノタウロスを撃破した。

「Aランクモンスターを単独で撃破してしまうなんて!!」

「まさしく神業でございます、王子様!」

 と、部下の宮廷騎士たちが持ち上げる。

「いやー手柄を横取りして悪いね。軽い運動がてら動きたくてね」

 そう言って王子は白い歯を光らせながら前髪をかきあげた。

 その様子を見てアニスとイリアは思わず苦笑いした。

確かに王子様は弱くはない。だが自分たちの隊長であるアトラスに比べれば実力は数段落ちる。アトラスならミノタウロスは30秒で倒せるだろう。それが正直な感想だった。

 もちろん王子様相手に、そんなことは口が裂けても言えないわけだが。

「さぁ、諸君! どんどん進んでいこう!」

 やけに上機嫌な王子は、そのまま通路を突き進んで行くのだった。


 †


 一行はジョージ王子を先頭に進んでいき、現れるモンスターはことごとく王子と近衛騎士たちが倒していった。そんなわけでアトラスパーティは剣を抜くことさえないまま30分が経過した。しかし、ようやくアトラスたちの出番がやってくる。

 一行は、二つの扉が並んでいるところに行き着いたのだ。

「ふむ、これが噂のパラレル構造だな」

 王子が呟く。

 パラレル構造のダンジョンでは、同じような道が並行して現れる。

 大抵は両方の道にいるモンスターを全て倒していかなければ、ボスの間の扉が開かないような仕組みになっている。それぞれの通路はさほど広くないので、戦えるのは多くても1パーティ。効率の面から言っても、手分けするのが得策だ。

「それでは右は宮廷騎士団が攻略する。左はアトラスパーティにお願いしようか」

 この攻略の「リーダー」である王子がそう宣言する。

「わかりました」

 アトラスは穏やかにうなずいた。

「君たちはゆっくりで来てもらって大丈夫だから安心してくれ。待つのは慣れっこなんだ」

 王子は白い歯を見せてそう言った。

 要約すると、僕たちは優秀だから短い時間で攻略して先に行ってしまう。君たちは僕たちより弱いから攻略に時間がかかるだろうが、僕たちは寛大だから待っているよと。王子はそんな含意を含んだ言葉をアトラスたちに残して、通路に入っていった。

「まるで自分たちが絶対に先に着くと言わんばかりですね」

 イリアが小声でアトラスに耳打ちした。アトラスは苦笑いを浮かべた。

「とりあえず気にせず、全力で戦うことにしよう」

「はい、隊長!」

 アトラスたちはしっかりとした足取りで自分たちに割り当てられた通路に入っていく。

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