第三章 エドワード王子編

第37話 王子様


「アニスと申します。1日も早く戦力になれるように精進してまいりますので、今日からよろしくお願いします!!」

 ≪ホワイト・ナイツ≫ギルド本部の執務室に元気な声が轟いた。

 ――役員(パートナー)に昇進したアトラスの人事によって、≪ホワイト・ナイツ≫に引き抜かれたアニスは、今日からアトラスパーティの一員として働くことになっていた。

「私に引き続き新しいメンバーを迎えて色々大変だとは思いますが、一つ面倒を見てあげてください。よろしくお願いします」

 アトラスがそう伝えると、隊員たちは温かい拍手でアニスを迎える。それから各々の隊員が自己紹介をした。

「……ええッと。歓迎会はまた改めて行います。とりあえず紹介はこれくらいにして、早速ですが仕事に行きましょうか。今日からいよいよSSランクダンジョン攻略が始まります」

 アトラスパーティは次なる任務として、SSランクダンジョン攻略クエストを請け負っており、今日からその攻略が始まることになっていた。

 SSランクダンジョンと言えば、先日アトラスが偶然攻略してしまった≪奈落の底≫と同じ難易度である。しかし今回の攻略対象は他のSSランクダンジョンとは規模が違った。

 通常のSSランクダンジョンの数倍の大きさ。俗に≪オーバー・サイズ≫と呼ばれるダンジョンである。

 ≪オーバー・サイズ≫のSSランクダンジョン攻略は当然アトラスにとっても初めてであった。しかも攻略はこの国の王子様が率いる宮廷騎士団と合同で行うことになっている。アトラスはかつてないほど大きな仕事に身が引き締まる思いだった。

「それではダンジョンに行きましょう!」

 アトラスは仲間たちにそう宣言した。

 目的のSSランクダンジョンは、王都からそう遠くないところにあった。アトラスは集合時刻まであと10分ほどというところでダンジョンの前にたどり着いたが、まだ宮廷騎士たちの姿は見えなかった。

 しかし、宮廷騎士の代わりに、ダンジョンの前を取り囲むように人だかりができていた。

「……あれは、何でしょう……?」

 アニスは思わず眉をひそめる。人だかりは、全て若い女性たちだった。学生から二十代くらいの女性たちが、ダンジョン前に大挙して押し寄せていたのだ。

 近づいていくと、その手には旗が握られており「ジョージ王子様」という文字が刺繍されていた。

 ジョージ王子は、王の妾の子、つまり王の庶子である。そして、今日からアトラスたちが一緒に仕事をする予定である≪宮廷騎士団≫の団長でもあった。

 と、その時、後ろから馬車の音が聞こえてくる。すると女性たちから黄色い声援が飛んだ。

 馬車はアトラスたちの前で止まり、中から一人の男が出てくると、女性たちはさらに大きな悲鳴をあげた。

「ジョージ王子様ぁぁぁ!!!!!!!!」

 それでようやくアトラスたちは全てを理解した。

女性たちは、ジョージ王子の「ファン」なのだ。確かに黄色い声が飛ぶだけのことはあり、馬車から降りてきたジョージ王子は相当なイケメンだった。

「みなさん、ごきげんよう」

 ジョージ王子は白い歯を光らせ、ファンの女性たちに手を振った。

 その様子を唖然と見ていたアトラスたちに、ジョージ王子は自ら歩み寄ってくる。

「君たちが≪ホワイト・ナイツ≫の皆さんかな?」

 先頭にいたアトラスはお辞儀をして返事をする。

「≪ホワイト・ナイツ≫のアトラスです。どうぞよろしくお願いします」

「よろしく。この国一番と言われる冒険者たちと仕事ができて光栄だよ」

 王子は再びその真っ白な歯を光らせ、アトラスに握手を求めた。

「こちらこそ光栄です……」

 その手を握り返すアトラス。

 ――王子の握手はやけに力強く、アトラスはわずかにHPが減るのを感じた。

「それでは、早速行きましょう」

 ジョージ王子は仲間の宮廷騎士たちを引き連れ、颯爽とダンジョンへと入っていく。

「王子様ぁぁ!!!! 頑張ってください!!!!!」

 王子の背中に、再び黄色い声援が飛ぶ。アトラスたちはそれに黙ってついていくのだった。


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