第33話 あれ、SSダンジョン攻略しちゃったらしい。
妹ちゃんは≪ホワイト・ナイツ≫のギルマス、エドワードの元を訪れたが朝まで不在にしているとのことだったので、一度家に戻った。そして、朝日が昇ったところで再びエドワードの家を訪ねると、ちょうど邸宅に彼が戻ってくるところに出くわした。
「あ、あの! ≪ホワイト・ナイツ≫のエドワードさんですか!?」
突然、話しかけてきた少女に少し驚きながらエドワードは答える。
「ああ。そうだが、何か御用かな?」
「私は、≪ホワイト・ナイツ≫に勤めているアトラスの妹です。実は兄のことで大至急ご相談したいことがありまして」
「ほう、アトラス君の妹さんか。お急ぎとは、何かただならぬことが?」
「実は、昨日の夜、兄の元同僚が誘拐されて、それで……」
妹ちゃんはエドワードに経緯を説明する。
「なんと……それは……」
エドワードの表情が引き締まる。
「すぐに捜索しなければ!」
†
エドワードたちはすぐさまSランクパーティを引き連れて、≪奈落の底≫へと向かった。しかし、≪大穴≫までたどり着いても、当然そこには誰もいなかった。
「まさか穴の底にいるんじゃないですよね?」
隊員の一人がそう呟く。
「そうだったら事は慎重に進めなければならないな」
エドワードは険しい表情で言った。今すぐ飛び込みたいのはやまやまだったが、≪奈落の底≫は全く未知の領域だ。入ったものは誰一人帰って来ていない。そんな状況では迂闊に捜索もできない。ギルドマスターとして軽率な行動で部下を危険にさらすわけにはいかなかった。
「ひとまず≪奈落の底≫を探索する作戦を練りつつ、憲兵に依頼して、さらわれたと言うアトラス君の元同僚の女性がどこでどうさらわれたのかを探ってもらう」
エドワードは冷静に指示を飛ばす。
「はい、ギルマス」
†
一方、その頃。アトラスとアニスは、ボスである≪奈落の王≫を倒した後、しばらくボス部屋で仮眠をとっていた。そして数時間経ってMPがある程度回復したところで立ち上がる。
「そろそろここを出ようか」
「はい」
二人は来た道とは反対側の扉を開けた。すると再びダンジョンの通路に出る。だが、スタート地点がボス部屋である以上、進んでいけば出口があるはずだった。
「反対側も大穴に繋がってる……なんてことがなければいいけどね」
その可能性は十分あった。だが考えても結果は変わらないのだから今は進むしかない。
アトラスとアニスは再び緊張感を高めながらダンジョンを進んで行く。
ボスの部屋にたどり着くまでと同様にSランクやAランクレベルのモンスターに遭遇するが、しかし二人は危なげなく倒していく。
ボスを倒したのでモンスターたちもだいぶおとなしくなっているのが幸いだった。特に危なげなく進んでいき、二時間ほど歩くと出口が見えてくる。
「アトラスさん! 出口です!!」
「ああ……よかった……」
ダンジョンの先に光が見え、アトラスたちの足取りは軽くなった。
そして半日ぶりに外に出ると、太陽の光が二人を照らす。その温かさを感じると、「生きて帰ってきたんだ」という実感がわいてきた。
だが、二人には開放感に浸る暇がなかった。
「……って、あれ?」
ダンジョンを出たところで、アトラスたちは思わぬ人々と遭遇したのだ。
「みんな、どうしてここに……?」
そこにいたのは――≪ブラック・バインド≫のSランクパーティの面々だった。
ギルマス・クラッブと隊長コナンの姿はなかったが、他のメンバーは概ね勢揃いしていた。
≪奈落の底≫を抜け出したところで、突然元同僚たちに会ったことに驚くアトラスとアニスだったが、同じように元同僚たちの方もアトラスたちがダンジョンから出て来たことに驚いた。
「なんでって、そりゃこのSSランクダンジョン攻略は俺たちが受注したんだからな」
それを聞いてアトラスとアニスは顔を見合わせる。
つまり――実は、アトラスたちが攻略した≪奈落の底≫は、≪ブラック・バインド≫が嘘をついて攻略を受注した例のSSランクダンジョンだったのだ。
≪ブラック・バインド≫のパーティメンバーたちは、まだ受注を取り消された事実を知らなかったので、今日も攻略が行われるものと思って集まっていたのである。
「やっぱりここはSSランクダンジョンだったんだ。どおりでボスが強いと思った」
アトラスはモンスターたちの強さがこれまで経験したことのないほど強かったので、もしかしてSSランクではないかと予想していたのだが、その認識は正しかった。
「アトラスさん、私たちSSランクのボスを倒しちゃったんですね」
その事実を知りアニスは驚く。
だが、その言葉を聞いて≪ブラック・バインド≫の面々たちはさらに驚く。
「ぼ、ボスを倒した? まさかとは思うが、このダンジョンのボスを倒したのか?」
「うん、まぁ、なりゆきで」
アトラスが答えると、
「え、ええええええ!?」
≪ブラック・バインド≫の元同僚たちは、驚愕の声をあげた。
†
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