第18話 アニスの決断


 ――後日、アトラスはアニスに呼ばれて、一緒に夕飯を食べることになった。

「トニー隊長はクビになりました」

 アニスはアトラスにパーティの事情を告げる。

「まぁ仕方がないね」

 アトラスは一瞬だけ、彼のことをかわいそうに思った。しかし部下を見捨てるような男が隊長のままでは、部下たちの身に危険が及ぶ。だからこれも仕方がないだろうと考え直す。

「これで少しはパーティの居心地がよくなるといいんだけどね」

 アトラスがアニスに言うと、アニスは首を横に振る。

「実はアトラスさん、私、ギルドをやめることにしました」

「え!? そうなの!?」

「はい。やっぱりアトラスさんがいないギルドにいても仕方がないなと思って」

 前からアニスはアトラスに尊敬の念を抱いており、それを本人にも伝えていた。

 しかし、晩年アトラスはFランクで、≪ブラック・バインド≫ではアニスの方が出世していた。だからアトラスは彼女の言葉をあくまでお世辞だと思っていた。

「はは、またまた」

 アトラスは今日もアニスが自分に気を使ってくれているのだと思った。そのアトラスの「勘違い」をずっと見てきたアニスは、彼の言葉を否定も肯定もしなかった。

 代わりに自分は本気なのだと根気よく伝えていこうと決めていたのだ。

「もっと技術を磨いて、また一緒にアトラスさんと同じパーティになれるように頑張ります」

「……そうだね。アニスとまた一緒に働けるといいな」

 アトラスにとって≪ブラック・バインド≫での5年間は辛いものだったが、アニスとの思い出だけは別だった。また一緒に冒険したいと素直に思った。

「これからも時々でいいので会ってくれると嬉しいです」

 アニスの言葉にアトラスは心から頷く。

「もちろん。こちらこそこれからもよろしく」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る