美少女と同室になりました
「ここがアジトです」
森の中につれてこられたときは誘拐でもされないかと思って不安だったが、やがて真っ白な大きい屋敷に連れてこられた。
こんなに森深くだとは思っていなかったが、もしも住宅街にあったとしたら戦いのせいで他の家屋が大損害を起こしてしまう可能性もあるため順当な場所だと考えられるだろう。森の中でならどれだけ暴れられても大きな被害はないだろう。
あの戦争のあと、俺は正式にアジトに招待された。
家具や着替えなどは向こうが用意するから追加で必要なものだけ持ってこいとのことだったため歯ブラシやスマホなどだけ持ってきたが、本当にこれだけでよかったのだろうか。小さいポーチに入れて持ち歩いているが引っ越しでこれだけだと不安に思う。
それにしても猫かんが俺の家に迎えに来たときには驚いたな。
「ネコは基本的自由に動くことが出来るのか?幹部ってもっと制限されているものだと思っていたんだけど高校にも行っていただろ」
猫かんとしているとき以外は帽子をかぶっているが、その中に隠された耳に小型のインカムがつけられていることは知っている。
それでも、前回の戦争の舞台にいたはずだが姿を見ることがなかった総長や他の幹部を見かけていないことがいい例だ。総長は戦争をしている規定範囲内にいなければならないことが決まっているし幹部も然りである。一応いるにはいたのだろうが、目立たないところに潜んでいたのだろう。反対に黄色の国の総長はあの場にいたため国民と一緒に戦うタイプだったということだ。
高校なんて通わないものだと思っていたが俺もまた通うことが出来るらしい。
「義務教育ではないですが高校で学ぶことは重要だとナルさんが言ってくれたんです。自由に行動できるのは、戦闘するときしか私に用はないので」
戦闘するときしか用がない、か。
「でも攻められたときに戦えるネコがいるほうが安全じゃないのか」
「攻められたと連絡が来たらすぐに帰れる場所までの行動範囲までが許可されています。それに私がいなくてもしばらくの間は防御専門の幹部が食い止められます」
「急に攻めることは禁止されているから、牽制で済むもんな」
「まぁ、他国を敵に回しても奇襲を働く国はまれにですけど存在しています」
確かに後のことを考えない戦法も考えられるがあまり賢いと思えない気がする。でも強国を倒そうと思ったらそれくらいの犠牲はつきものなのかもしれない。
そうこうしているうちに猫かんがドアノブをひねる。
そのままドアが開くがそんなに不用心で大丈夫なのだろうか。奇襲をする相手がいるという話なのにドアノブ開いてすぐに入れる状態なんて。
「そういえば、アジトの前に結界があることはわかりましたよね」
「やけに強いにおいするものがあると思ったら結界だったんだな」
それを猫かんが魔法で強引にこじ開けたのを目撃してさすがに驚いたのは黙っておこう。強いとはわかっていても本当にその姿を見ると驚かされるものがある。
そんな驚いた姿を見せれば彼女はきっとショックを受けるだろう。
結構強いにおいだったと思うのだが、いともたやすく壊せるのだからさすがだ。
「そういえば先輩ってなんの魔法でしたっけ」
「回復魔法だ」
「だったら回避方法がないのでそのまま触れると・・・ちょっと危ないので気を付けてくださいね」
え、こわ。
具体的にどんな危険性があるのかについて聞こうとするが、何も言わないままアジトの中に入ってしまうのでそれに慌ててついていく。
「いらっしゃい」
奥からな女性が出てきた。ウェーブかかった髪の毛をふわふわとなびかせながら、肩に毛布を掛けている落ち着い雰囲気である。深い影ができるくらいの長いまつげに、可愛らしいたれ目は微笑んだとしたら愛嬌があって可愛らしいだろうと思う。
とんでもなくきれいだ。
思わずぼうっと見とれてしまうが、ねこかんに肘でつつかれる。
「どうせ私は平均的な顔していますよ」
頬を膨らませている姿は普通の少女のようだ。とはいっても特別顔立ちが整っているわけではないにしても可愛らしい雰囲気や立ち振る舞いがあるため猫かんも十分かわいい部類に入ると思うのだがそんなことを口にして言うくらいコミュニケーション能力には優れてはいない。
それにしても誰だろうか。
正直に言うとそこまで魔力が強いわけでもないようだ。猫かんが隣にいるから余計に感じるのだろうが幹部としては少し不足しているのではないかと感じる。もちろん普通の人からするとかなり強いようだが、幹部になるほどかと言えばどうでもないような気がする。
「こんにちは。佐倉奏多です」
とりあえず挨拶をしてみるが、じろじろと観察される。
「えりすぐりしないでくださいよ。どうせ全部奪っていくつもりなんでしょう」
「嫉妬心が強い子は重いって言われちゃうよ」
かばうように俺の目の前に立った猫かんのことを気にすることもなく受け流してから、またじっくりと観察される。きれいな人に見られると緊張する。
目を動かしいているととんでもなく冷たい視線が俺に刺さる。
近づかれるが、やはりあまり強くない。
でもなんだか違和感を感じる。この匂いは、すでに魔力を放出しているような気がするのだが、魔法を出しているような様子はない。
「もしかしたらと思ったけれど、一番ハズレね。最悪」
そうつぶやいた。失礼だなと思ったが、とりあえず聞かなかったことにしよう。
「どういう意味ですか、総長」
「総長って、じゃあ」
「はい、この方が白国総長東城くるみさんです」
なるほど。
総長の力が減少しているという話だったが、思っていたよりもかなり深刻な状態のようだ。これでは確かに戦場にでることはできないだろう。
ここからそんなに遠くない場所で戦争していたからもしかしたらこの場所で待機していたのかもしれない。
「東城さん、よろしくお願いします」
「敬語はいいよ。それに東城って名前は嫌いだから総長って呼んでくれないかな」
興味がなさそうに、ウェーブの髪の毛を触っている。
そういえば東城家って有名な家庭でその長女である彼女はかなり複雑な家庭環境であったはずだからそりゃあ名字で呼ばれるのは好まないだろう。
「じゃあ総長、後ろのほうにいる人も幹部の人か?」
「出ておいで」
「すごいでしょう、佐倉先輩は見なくてもわかるんですよ」
猫かんのしっぽがぶんぶんと触れていて当たりそうだ。
彼女の動きを観察している総長。
「よ、よろしくお願いします。張間久遠です」
恥ずかしがり屋なようで久遠と名乗った少女は控えめに奥のほうの壁から出てきた。
小さくて可愛らしいというのが第一印象だ。もしも俺が普通の人間だったならぼうっとしてしまっていただろうがこの匂いを嗅ぐことが出来る体質を持っていると分かることもある。
具体的に言うと、猫かんの次に魔力が強い。総長も強い部類ではあるがかなり差がある。
しかも外に張っている結界と同じ匂いの魔力だ。
「君にはこの子と一緒に行動してもらうよ」
猫かんと一緒ではないのか。
久遠は戸惑っている様子ではないため事前に聞かされていた様子ではあるが、猫かんはあからさまに動揺している。
「具体的には、訓練や食事、性別の差から仕方ないところ以外はともにしてもらう」
まあそりゃあ一緒にふろやトイレに入ることはできないだろうしな。
「あとは・・・一緒の部屋に住んでもらうことになる」
淡々と総長が口にする。
この流れからすると久遠と一緒に住むような口ぶりだな。
「ああ、ナルって人とか」
きちんと性別まで聞いたことはなかったが話している声からして明らかに男性であり、若い青年であろうことは推測される。
そういえば彼は今どこにいるのだろうか。
幹部だからこの家に住んでいるはずだが留守にしているのか他に魔力の匂いを感じない。
「久遠と一緒に住んでもらうことになります」
どう見ても女の子なのにいいのだろうか。
恐らく彼女や総長の考え方からするに結界を張る魔法だと考えられるためきっと触れることすらできないのだろう。だからと言って一緒に住んでいいとは思えないがそれだけ自信があるのだろう。もしもなにか悪いことを企んだら消されるかもしれない。
一旦話が終わり、沈黙すると白い手が上がった。
「どうして私と一緒じゃないんですか」
猫かんがぷりぷりと怒りながらいう。
なついてくれることはうれしいが、速攻で反論するのではなく話が終わってから言い出すところが今まで話し合いに入ることが出来なかった経験からするものなのだろうか。
総長は答える必要がないという様子で腕を組む。
「ナルさんとはなしあった結果」
久遠が猫かんに言うと、効果はてきめんだった。
それ以上言うことがないというように黙った。
「猫かんちゃんは私と一緒に行動してもらうことになるからね。君に戦闘経験なんてものはないでしょう?」
俺は頷く。
回復専門だから戦闘したこともなければ前回の戦争で現場に行くことすら初めてだった。
「なら久遠が戦闘訓練、できる」
なるほど、防御専門の久遠なら本格的な戦闘訓練は行うことが出来ないがド素人に関しては十分ということだろう。猫かんのきちんと戦闘訓練を受けていればよかったのにという視線が痛い。そもそも猫かんにわざわざ指導してもらうなんてかなりの上級者でないと逆に意味がないだろう。
数の暴力というよりも才能の暴力みたいな存在だからな。
「ここ」
さすが国の中心といえるくらいの広さの部屋だ。
久遠はもともと総長と一緒に暮らしておりしばらくはその部屋は猫かんと総長が暮らすことになったため二人ともちょっとした引っ越し作業がある。
家具付きでほしいものは簡単に買えるという話を聞いていたため荷物が本当に少ないがここでの生活が長いらしい久遠は大変そうだ。
部屋を区分分けしてお互いの生活圏を侵さないという約束もした。
「久遠はいいのか、男と一緒なんか」
きょとんと、首をひねられる。
とんでもなくかわいい仕草と顔つきのためぐらっときてしまいそうになるが匂いの強さから圧倒的に勝てない実力差を見せつけられる。
「佐倉くんこそ」
「どうしてだ?」
堂々と下着を広げてたたんでいるところを見ないようにそっぽを向きながら聞く。目のやり場に困るから勘弁してほしい。
一瞬見えた下着が、とんでもなく大きいサイズに見えたのだがもう一度見る度胸はなかった。
少しマイペースなのか天然なのかゆっくりとした口調で話す久遠。
「猫かんと付き合ってる?」
咳が出た。
でも至極まっとうな考え方だろう。正直猫かんのなついてくれ具合がすごくて俺も少し驚いているところだ。
「付き合ってねえよ」
「そう。残念」
「残念ってなんだよ」
これがもしもよかったなら口説かれているのだろうかと喜んでいたところだが付き合っていてほしかったという意味だろう。
「猫かん、乗り越えたと思って」
「?」
「あの子ナルさんと、付き合ってたから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます