猫かんは語る
佐倉先輩に偉そうに語ってしまった。
幹部たちにしか話していなかった正体を話せたことがうれしかったのだろうと自己完結をしてしまう。こんな体験ははじめてだ。
私はアジトに帰宅した。家族といってもどこにいるか生きているかもわからない妹くらいしかいないため実家は存在しないが何年も前から総長たちと一緒に暮らしている。幹部になると家族とろくに交流をとることもできないが私のように他に居場所がない身分からしてみればとてもありがたい話だ。
鍵を開ける。
帽子をとると、すうっと風通しがよくなり耳が出てくる。
「ただいま」
こういう言い方をするのは良くないかもしれないが総長が弱体化してから好戦的でなくなりこうしてゆったりとした時間を送れて学校にまで通わせてもらっているのがありがたい。
慣れあっているわけではないが、なんとなくこれが家族なのだろうかと思えるようになってきた。
しかし、やはり他人。
溝がどうしてもある。
「あ、お、おかえりなさい」
たまたま通りかかった子は、護衛専門の張間久遠。ボブをハーフアップにして大きなリボンでまとめている少女はとろんとした見た目をしていて可愛らしい。そんなに大きいほうでもない私よりも背が低いが、プロポーションが・・・かなり、いや、身長の分の肉がそこに行ってしまっているのだろう。だからこんなに成長の差が出てしまっているのだろう。
こう見えて久遠さんは年上で三歳も差があるのだから私もまだまだ伸びしろがある。
窮屈そうな胸元が、かがんだ瞬間さらされて発育の差をまざまざと突きつけられる。
「結界少し緩くなっていましたよ。簡単に入れたんですけれどどういうことですか?」
怖がらせてしまわないように笑顔にする。
この笑顔をしていれば優しそうだといわれるのだが、どうもこの人とはうまくいかない。今も下から見上げるようににらまれている。
昔はこの時点で逃げられてしまっていたのだが最近になると結界を軽く張られるだけで逃げられなくなった。
久遠さん曰く結界が張られていると、胎内にいるように温かい感じがして他の声が聞こえないため安心するらしい。いやなことがあればこうして丸まっているのだが意外と傷つきやすいためたまにこの姿を見る。
「あの~、久遠さん」
結界に手をあてて、割る。
「なに」
「アジトの周りに結界を張ったままの状態の久遠さんの結界なんて大したことないですよ」
じろりとにらんでから久遠さんが去っていく。
少し話したかっただけなのにどうして逃げてしまうのだろうか。アジトの周りに張っている結界がなければ私ですら結界を破るのは難しいという話をしたかったのだが、ほめているつもりなのに毎回こうなってしまう。
私は久遠さんに嫌われているのだろう。
「おかえりなさい、猫かんちゃん」
常に久遠さんとともにいる総長は、今も変わらずそばにいた。
色で分けられているこの世界では総長が降参、もしくは再起不能になることによって勝ち負けが変わっていき殺すことは基本的に許されておらず他の人であっても殺すと大きな問題になる。これは世界中で決まっていることのため、どこかで他国の人に殺されると報告が来るようになっている。他国から物資や食料をもらうこともあるためヘイトを買うことはあまり推奨できない。
だが、色が変わるということは目や瞳の色が変わってくる。それだけではなく自分の国の象徴の色は本当に大事なものなのだ。
私が背負っているものとは比にならないくらいのものを背負っている人だ。
「猫かんちゃんがいないと寂しかったの」
そういいながらも近寄ってくることがない。
これは総長として自分を守るために慎重になってきた結果なのだろうと考えている。信頼されていないわけでもないが、そういう癖なのだろう。
彼女が触れ合うことが出来るくらい信頼しているのは長年護衛専門として結界を張ってきた久遠さんだけ。実際に常に一緒に行動して同じ部屋に住んでいるが私に対しては触れようともしてこない。
周囲に女の子しかいないため、適当に服を脱いでいく。そして処分されないようにカバンの中に隠していた裏起毛のスウェットを着る。氷魔法なのに私はなぜか寒さによわい。氷魔法のせいで体が冷えているのだろうかと思ったのだが、どうやらそういうわけでもないようだ。
「こんなところで着替えて、風邪ひいても知らないよ」
「風邪ひいたところで何もしてくれないでしょう」
「猫かんちゃんが戦えなくなったら困るからね」
いつもの答え。
これが私たちの関係性。
私の身体や私自身に興味なんてない。必要とされているのは私自身ではなくて生まれ持った魔力だけなのだと分かっていたはずなのに傷つくことなんてないと思っていた。
平和になるために戦っているのだといってしまったが、それよりも、私は必要とされたいだけのかまってちゃんなのだ。
そんなどうでもいいことで、戦って、何十年も信念のために戦ってきた人を倒して剣を折ってきた最低な女だ。
ずっと痛みを訴えていた体のこともあるひとを除いて相談したことなんてなかった。総長たちに報告はしたことがあるがどうすることもできなかったため特に言われることもなく戦うことが出来るのかいなかを聞かれた。
「わかって、います」
でも佐倉先輩に、言わなくても理解してもらった。彼は私がどれだけ救われたのか理解していないだろう。私の痛みがなくなったことに感謝していると思われているだろうが、もちろん一日中苦しめられてきたことであったがそれだけではない。言わなくても理解されていることがうれしいのだ。
私が近づいただけで反応して、こちらを見ていたことは前から知っていた。魔力の匂いで気付いていたのは知らなかったが、嬉しかった。後ろから近づいたときにも反応していることが分かったときにはとてもうれしくて、つい一人にいるところを見つけると話しかけてしまった。
こんな私に鼻をつまみながら、触れてくれたのだ。
「こんなところで着替えんなって言ったやろが!」
頭を殴られる。
「痛ぁっ!?」
思わず、魔法が発動してしまい、頭から痛みをもらした人物に牙をむく。しかし、それは全く影響しないままやり過ごされる。
唯一、私がどれだけの魔法を繰り出しても問題ない人物だ。
それくらい強くて、大事な人。
「ナルさん」
私と同じところが多くて対極な人。
「オレがいるんやからそこらで着替えたりすんなって。女だけやないんやで」
フードを深くかぶって顔が隠れている格好だ。
どう見ても怪しい。いつも思っているのだが、どこかに穴が開いていて私たちのことを見ているのだろうか。
「なんか昨日よりも体調よさそうやな」
どこから見ているのかわからないがどこまでも私のことを見てくれている。他の誰も気づいてくれなかったことまでしっかりと見守ってくれている。
「なんかあったんか」
「少し相談したいことがあるんです」
「そうか、ならオレの部屋で話すか」
どうせ総長に話さなければならないことはわかっている。もちろんナルさんもそれはわかっているが総長との仲を考えて別の部屋で聞くようにしてくれている。
ナルさんは司令官だ。
かなりの指導権を得ている人物であるため相談するに適している。まぁもちろんそういう理由ではなく好き嫌いの問題になるが。
「ナル」
総長の一言で、ナルさんの足が止まる。
「わかっとる。深入りとかせんから」
私は、ナルさんのことが好きだ。
そして、総長が苦手だ。
でもナルさんは総長のことを信頼していてよく二人で話しているところを見たことがある。二人の仲には誰にも入り込めないくらいの深い絆がある。
こうして、深入りはするなと言われると簡単に頷いてしまう。
家族は生まれたときから仲が良くて一緒にいる意味なんて必要がないのだろうな。私にはそんなものはいないし、他の幹部も全員まともな家族は存在していない。だが総長は普通ではないが仲のいい兄弟が存在している。
どうしようもなく私たちは赤の他人なのだ。
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