日常ツーリング篇

8/29(日) とりあえず、いつもの

 バイクに乗りたい。

 東北ツーリングから一週間たった。今、私は猛烈にバイクに乗りたいと感じていた。確かに散々走った。2700km。しかし、まだまだ走り足らない。



 ツーリングの前日にバイク屋へ行く。実は、東北ツーリング中にバイクから異音がしていた。アクセルを回すと、キュルキュルと音がする。しばらく回せば音は治まった。原因は不明。どこから音がするか、よくわからない。車体中央付近な気がするが、確定的ではない。こうゆうときは、自分で考えても仕方ない。わからなければプロを頼る。私は自分よりも、その道の職人を信用することにしているのだ。

 8月28日(土)。整備を予約した地元のバイク屋へ行く。店までは10分ほどの距離。しかし、走り始めて違和感を感じる。異音が消えている。何故だ、と私は思うが考えても仕方がない。そのまま問題なくバイク屋へ到着。整備員に事情を説明する。

「一週間前まで異音があったのですけど、なんか無くなっちゃったんです」

「じゃあ、わかりませんね」と整備員。「異音の類は、乗ってる本人じゃなきゃ違和感が感じられないんですよ」

「では、キュルキュルした音が出そうな異常はないですか?」

「それも何とも言えませんね。エンジンだったり、サスペンションだったり、ドライブチェーンだったり、いろいろと原因はありますから」

 非常に困ったことになった。原因不明。現在、異音は消えている。仕方がないので、私自身、少し気になっていたドライブチェーンを見てもらう。「オイルがほとんど付いて無いですね」と整備員に指摘される。

「じゃあ、とりあえずオイルだけでもお願いします」何しろ購入以来、オイルをさしていないのだ。

 それから30分ほどで整備が終わる。費用は1000円ちょっと。自分でできないことをプロに頼むなら妥当、もしくは安すぎるくらいの金額だろう。ドライブチェーンのオイルは、エンジンオイル交換の時に点検するくらいがちょうどいいらしい。そのほかにも、クラッチレバーを調整してもらった。適度ながないとクラッチが壊れてしまうらしい。

 私は無知である。バイク整備の知識なんて何もない。バイク乗りには自分で整備をする人間がいる。自分の命を預けるものを他人に任せたくないらしい。私は、そうは思わない。命を預けるならば、素人自分ではなく、玄人プロを信用して、全て任せてしまったほうが良い。


 翌日の日曜日。ようやくツーリングへ出発する。今日はツーリングコース。やはり旅から帰ってきたら、千葉県内の走り慣れた道が良いだろう。今回は私のお気に入りの一つである、南房総を半周しようと思う。

 房総半島の南部を走るなら、大きく分けて二つのルートがある。太平洋沿いを走る時計回りのルートと東京湾沿いを走る反時計回りのルート。しかし今は夏、観光シーズン真っ盛り。8月末とはいえ、まだまだ海沿いは道が混んでいる。仕方ないので、今回は千葉県の内陸を走り、房総フラワーラインを目指す。

 こんなことを書くと失礼だが、千葉県の内陸部には何もない。もちろん街はあるのだが、海沿いに比べるとパッとしない印象だ。山さえも千葉にはない。スカイツリーよりも低い山は丘と呼ぶ方が正しいだろう。

 そんな内陸部を走り、太平洋側の町・勝浦へ向かう。今回のルートは下道、それも裏道と呼ばれるような地元民の道を使う。私の住む千葉市から内陸へ少し入ると、大量のゴルフ場が連なっている。このゴルフ場の横には、一車線程度の細い道が作られている。カーナビでは表示されない道である。これこそ地元民しか知らない裏道。

 千葉市から市原市に行き、すぐに裏道へ入る。ゴルフ場の横道は狭い。しかし、車は少なく、偶に対向車がいてもバイクならすれ違いに困ることはない。1km以上ある道をスムーズに走る。そして、道の終点に着けば、また次のゴルフ場が現れる。千葉県は全国で二番目にゴルフ場の数が多い県なのだ。


 2時間弱で勝浦に到着する。勝浦からは、海沿いの道が気持ち良い。浜のすぐ横を走ることができるのだ。浜辺には沢山の観光客がいる。お盆も過ぎたのだが、盛況だ。私はそんな様子を見ると、帰り道が憂鬱になる。夕方になると海沿いの道はとても混むのだ。特に内房(東京湾)側はひどく、東京までの下道とアクアラインの出入り口がある関係上、どうしても渋滞する。今日は早めに切り上げようなどと思いながら道を走る。

 鴨川の市街に入ると渋滞に捕まった。しかし、鴨川周辺の渋滞はいつものことなので、のいない場所をすり抜けで進んでいく。そして、市街を抜ければ今回の目的地、房総フラワーラインがある。

 房総フラワーラインはその名の通り、菜の花をはじめとした春の花々が咲き誇る道だ。主要道路から一本外れた道で渋滞も少なく、海沿いを快適に走れることから、私のお気に入りスポットの一つである。残念ながら今の時期は花が咲いていないが、暑い日差しの中吹く海風は心地よい。距離的にもちょうどいいのか、周りにも他県ナンバーのライダーが多い。時折すれ違うライダーたちとヤエーをしながら約1時間ほど走る。終点は館山の白浜海岸。フラワーラインには、ろくにコンビニもないため、渚の駅たてやまで休憩する。時刻は14時過ぎ。帰るにはちょうどいい時間だろう。

 夕方の少し前、観光客が帰るには少し早い時間。そう思って内房の海沿いを帰ったのだが、残念ながら渋滞に捕まってしまった。そこからうだるような暑さの中を走り、2~3時間ほどで帰宅。

 やはり夏のツーリングは過酷だ。無事家に帰れば、もう当分はツーリングしたくないと思う。しかし、私も一般的なライダーの例にもれず、翌日にはまたツーリング計画を立ててしまう。バイク乗りは業が深いのだ。

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