第3話 恐山に気を付けて
恐山は遠かった。
今日の予定としてはこうだ。まずは尻屋崎へ寄り道。その後、大畑でイカを食べた後に恐山へ行く。途中、薬研野営場でハンモックの使用を確認して、スムーズにキャンプする。
珍しくきちんとした計画を立てた。翌日の計画まで立てている。大間でマグロを食べたのちに仏ヶ浦へ行き、下北半島を一周して陸奥で宿泊する予定だ。
朝、八戸のセレクトインを8時に出る。そのまま国道394号を北上した。特にトラブルもなく、海沿いは風が冷たかったため、少々寒くなったが、雨具を着ることでやり過ごす。
そしてたどり着いた尻屋崎。この一帯は石灰岩で構成されており、付近にはいくつかの鉱山がある。尻屋崎灯台の周辺の地面にも石灰岩が露出しており、緑の大地に石灰岩の白色が映える。天気も晴れており、尻屋崎灯台の真っ白な巨塔が美しい。
灯台周辺には寒立馬と呼ばれる北国の馬が放牧されているらしい。この寒立馬は天然記念物だ。しかし、馬が見つからない。道路にも平気で出てくるらしいので、運転にも注意していたが一向に現れない。放牧されたいるはずの灯台を出て、尻屋の町に行くと寒立馬がいた。どうやら放牧はされていないようで、柵の中にたむろしていた。
寒立馬を写真に収め、時計を見ると11時。大畑へ向かえば、ちょうど昼過ぎに到着するはずだ。予定通り。大畑はイカの町と呼ばれるくらい、イカ漁が盛んらしい。ツーリングまっぷるで目星をつけていた定食屋に入る。イカ刺し定食、1680円。ここまで来たのだから、多少は贅沢にしよう、と思い注文するが、本日はイカが入荷していないという。なんということだ。仕方がないので、適当なランチセットで妥協する。
昼食を終え、外へ出るとまた雨が降っている。どうも嫌な予感がする。国道から県道4号へ入る。この道を行けば、薬研野営場、恐山と行くことができる。しかし通行止め。工事のおじさんによるとがけ崩れで通れないらしい。ライダーたる者、来た道は戻りたくないため、大間から大回りで恐山へ行こうとするも、橋が落ちて通行止めらしい。
それならばと、ツーリングまっぷるで見つけたダート(砂利道)へ行く。私の愛車、YZF-R25はスーパースポーツタイプのバイクである。通常、アスファルトで整備された路面を走るように設計されており、ダートには適していない。しかし、背に腹は代えられない。ダートの入り口に着くと、思ったよりも整備された林道であった。これならば行ける。何より仕事でもダートは(車で)走り慣れているのだ。ダートは全長8.2km。何度もこけそうになりながら、2kmほど順調に進む。途中、段差や転石だらけの坂もあったが、ギアを落とし、アクセルを全開にしてなんとか通過する。しかし、またしても通行止め。
昨日の会話が思い出される。「恐山は神聖な山だから、気を付けて」。今思えば、あれは忠告だったのかもしれない。
今度はおとなしく、来た道を戻り、むつ市街から恐山へ向かう。降りしきる雨と山道のカーブ。それでも、トラブルなく到着。すると雨が上がり、空が晴れてきた。本当に天気は気まぐれだ。
入場料500円を払い恐山へ入る。門を抜けると立派な寺があった。手前にはなぜか温泉。無料らしいが窓から中が見える。地元の人だろうか、おじさんが何人か入浴していた。
恐山は、寺の裏に地獄があり、その奥に極楽浜がある。地獄と呼ばれるその地域は、火山帯らしく噴気が上がっており、石を積み上げた山がそれを覆っている。硫黄の匂いが強く、確かに地獄のような光景だ。そして、その奥には極楽浜と呼ばれる宇曽利湖の湖岸があり、景色が一変する。宇曽利湖は青々として、周囲は山に囲まれている。天気は恐山周辺のみ晴れており、周囲の山には霧が残る。幻想的な風景だ。
駐車場の辺りでチャリダーに会う。愛知から日本一周を始めて約50日目らしい。もうすでに北海道を回り、今は下北半島を一周しているようだ。私が今日、予定していたキャンプ場は道が封鎖されていたため、ふもとのキャンプ場を紹介してもらう。温泉も隣にあり、一張300円だそうだ。中々に魅力的だ。
恐山で交通安全のお守りを買う。今日のようなことは、もうこりごりだ。その後、恐山を下り、むつ矢立温泉横のキャンプ場へ行く。ここはツーリングまっぷるには掲載されていない。しかし、到着してみると愕然とした。木がない。正確に記すと、木がぽつんぽつんとまばらに2、3本立っているだけだ。これではハンモックは張れない。せっかく日本一周勢と知り合いになれるチャンスだというのに、テントがなければ野営できない。この時ほど、過去の自分を恨んだことはないだろう。(ちなみに、このチャリダーの方は男性であるが、私は異性に魅力を感じるタイプなので、他意はない)。仕方なく、むつ市街に宿をとる。
明日は仏ヶ浦に行こうと思う。私の父親が絶対に行くべきだ、と主張する場所だ。もちろん期待はしているが、明日の天気予報は雨である。今回の旅は雨だらけであるが、さてどうなるだろう。
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