【DX3rd:CRC】『The Fool's Journey』
かぴばら
今昔ロザリア物語
『灰を被る』
灰を被る-1
ざくり、ざくりと。
薄雪を踏み締めて、ひとりの少女が山を登っていた。
陽は落ち、空気は凍え、茨が肌を蝕む。けれど少女は躊躇うことなく、ただ闇の中を歩き続ける。バサバサと、どこかで野鳥が飛び立った。
やがて、足を止める。
目の前には、木造りの家が一軒、ぽつんと建っていた。
窓から漏れる灯――暖炉の灯が、吐息を橙に照らす。
少女はしばらく玄関の前で逡巡していたが、やがて意を決すると、扉をこん、こんと叩く。
「ごめんください」
寸刻の後、がたがたと荒い音を立てて、扉が開かれる。
中から現れたのは、美しい顔立ちの婦人だった。
質素ではあるが清潔に保たれた黒布を纏い、慎ましくも艶やかな体躯をして、ゆったりとした雰囲気を漂わせている。そのことが、少女にはすこし意外だった。
「……私に何か御用ですか?」
婦人はこの小さな訪問者に驚いたようだったが、すぐに優しく微笑みかける。
問いに対し、少女は口を噤む。だが、その様子を見て、婦人は少女に家の中へ入るよう促した。
* * *
「外は寒かったでしょう」
腰掛ける少女に、そんな声が掛かる。
家の中はこじんまりとしていて、端には様々な本だとか、食物だとか、何かの植物だとかが、乱雑に積み上げられている。
窮屈とも言えるが、それでもリラックスした時間を過ごすには充分な空間と暖と香と毛皮の敷かれた椅子は、部屋に備えられていた。
そんな家の内にあって、悴んだ身体を溶かし解すように、暖炉の火によって照らされていた少女であったが、婦人によってスープが運ばれると、その容器に視線を移す。
「まずは身体を暖めて下さい。遠慮しないでどうぞ」
相も変わらず、少女は何も答えず、スープにも手をつけない。
暫し、沈黙。
湯気の揺らめきが、壁に淡く影を落とす。
「毒など入っていませんよ」
「……ッ!」
静寂を裂いたのは、婦人の一声だ。
外は変わらず冷たい夜風が吹き抜けているが、家の中には不思議と隙間風ひとつ鳴らない。だから、少女の息を呑む音は、はっきりと室内に響いた。
「貴方は、何も知らずに此処へ迷い込んだ訳ではないでしょう。私が誰なのか、知っていますね?」
婦人は、少女の身なりを一瞥しながら、出迎えた時のように、穏やかな口調で言葉を紡ぐ。
少女は小柄で、鮮やかなブロンドの髪と瞳を持っていた。肌は荒れ、髪もあまり手入れのされていない様子であったが、しかし極端に痩せていたり、汚れていたりしている訳ではない。帰る場所のない哀れな小娘と見るには、些か健康が過ぎる。
淡々と問い詰められて、少女は観念したように口を開く。
「じゃあ、あなたが――魔女様?」
「ええ、そうですよ」
にこやかに、魔女は返した。
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