梅雨の季節にはツユコと一緒に、

影神



俺が彼女と出会ったのは、


こんなじめじめとした、


洗濯物の嫌な臭いのする、


梅雨の時期だった。



「あぁ、憂鬱だな、、」



乾燥機を待つ俺はしきりに降る、


誰かの大粒の涙を、ゆっくりと


ただただぼーっと、


呑気に眺めていた。


乾燥機はここぞとばかりに、


唸りながら一生懸命に働く。



ウィーン、ウィーン、



俺は雨傘透。


しがない大学生。


やりたい事が分からず、


流されるままに進学し、


気付けば20を越えていた。


コンビニでアルバイトをしながら、


もう、いっそ。このままでもいいかと、


自分を枠に嵌め込んでいた。


「はあ、、」


後、1時間もすればバイトだ。



大学生になったのはいいものの、


思い描いた現実は、"理想"とは程遠く、


仲の良い友達や、親友と呼べる者も、


ましてや、彼女なんていうもんは


俺には出来なかった。



高校の時はそれなりで、


別に友達とか作るとか


そう言った概念も無いまま、


普通に皆と仲良く出来てた。


そんな風に普通にしてれば、


勝手に出来るもんだと思っていた。



だが。入学して、それは、


桜の様に儚く散り、


努力する所か、周りの環境が、何故か、


今までとは、あかさらまに違っていた。


空気と言うか、ノリと言うか、


人間性と言うか、、何かが違った。


勿論、大学内で馴染む事すらも難しかった。


殺伐とした雰囲気で、皆で明るく、、


みたいな大学でもなかった。


俺は見事に、大学生を失敗した。


そんな大学生生活を送る日々に、


更に追い討ちを掛けるかの様に、


「奨学金は自分で働いて返す様に」


と、両親からの宣告がなされた。



まあ、当たり前だ、


何もかも当たり前の様に、


何でもやってもらって、


いい加減。自立しなくてはならない。


そんな時にたまたま大学からの帰りで、


コンビニの求人が出ているのを見付けた。


何となくそれを見ていたら、


たまたま店長が居て、


流れるように勧誘され、


現在へと至る。


店長は優しいし、廃棄も貰えるので、


食費が浮く。何とも有難い事だ。


こうして、俺の大学生が続く。



何事も無いまま日々が過ぎ、


どんどん歳を重ね、老けて、


じいさんになっても働いて、


何の楽しみもなく、


孤独に死んで逝くのか、、



「あー、、ぁ」


ピー。


俺の声に反応するかの様に、


何処かの乾燥機が鳴り、


急いで中の物を出して、


自分のをぶちこむ。


不意にその洗濯物から、


柔軟剤のいい香りがして、


何の気紛れか、女性モノの下着が、


ふわりと、かごの上に存在している。


「かっはぁ、、」


俺。女性の下着触った!!?


えぇ、、大丈夫だよね??


捕まらないよね、、


だってほら、、ここに、、



※停止した乾燥機は、

次に使いたい人が使える様に、

中身を出す場合があります。

又、停止している乾燥機に、

中身が入っている場合、

他が空いてなければ、

取り出して、使用して下さい。


触られて嫌な方は、

待機して待って居て下さい。


防犯カメラあります。


下着等の盗難の際は、

警察に連絡の後、此方まで、

△△△-△△△△-△△△△。


皆様が気持ちよく使って頂ける様、

綺麗に、マナー良く、ご利用下さい。



盗んでないし、、


居なかったし、、


セーフだろう。


うん。


「やっべっ、、」


時間を見るとギリギリだった。


急いで飛び出し、フードを頭にかけ、


駆け足で、バイトへと向かう。


通り過ぎた公園の東屋のベンチで、


一人。外を眺める少女と遇うのは、


この数時間後の事である。



「ん、だったんですよぉ、」


品出しと、廃棄の確認をしながら、


先程の出来事を店長に愚痴る。


「はっはっは、そりゃ羨ましい。


きっと私だったら下着泥棒に


間違われてたかもしれない。


でも、気を付けないと、


痴漢みたいに冤罪を


かけられかねないからね。


出す時は見てからにしないとね。」


エロ雑誌を読み漁りながら、


店長は痴漢と書かれた本を開く。


「店長。裏でやって下さい。」


通りを歩く女性の目が痛い。



嫌な客にも難なく接客し、


無事に廃棄を貰い帰る途中、


ふと、薄暗い明かりの中。


小学生にもみたない少女に、


俺の視線は持っていかれる。


あれ、、


今。何時だっけ。


暗い公園には誰も居ない。


携帯の時計は21時を過ぎていた。


迷子かな、、家出かなあ、、


こんな時間に、こんな所で


何してるんだろ、、


そんな時。ふと、バイト前に


すれ違っていた事を思い出す。


まさか、、


ずっと、ここに、


明らかにおかしい。


ってか俺が声を掛けて、


泣き出したりしないだろうか、


「変態!変質者よ!!」


とか言われたりしないだろうか。


ともかく、あまり近寄らず、話を聞いて、


場合によっては警察に連絡しなければ、、


迷子なら彼女の両親がきっと、


探しているだろうし、、


距離をとって。


「あっ、あのう、、」


少女は何かを見渡すかの様に、


雨空をじっと見ていた。


少女は聞こえていないのか、


動かずに東屋のベンチに座っていた。


雨は俺の言葉に反応するかの様に


激しく、どしゃ降りの雨へと変わった。


入っても、大丈夫だよな。


普段の夜より、雨が降っている時の方が、


より夜が暗く、ましてやこんな梅雨時。


独特の雰囲気と、じめっ。とした、


まとわりつく様な空気。



これは、俗に言う、、



ガサガサ


「ひぃっ!!」


思わず変な声を出してしまった。


さっきまで視界隅に居たはずの少女は、


俺の左手に握られている袋の中へと、


手入れ、食べ物を漁っている。


「ん、っ、ん、」


少女は言葉にならない様な声で、


ビニール袋に手を絡め、


次第に俺の腕を締め上げた。


「痛い痛い痛い痛い、、」


ぐるぐると捻れたビニールを解く。


「腹減ったのか?」


廃棄のおにぎりを渡す。


「はいっ、」


少女は不思議そうな顔をして、


渡されたおにぎりを受け取る。


可哀想に、、


こんな子供をこんな所で、


更にはお腹まで空かせて、、


よしよし。


そう頭を撫でようとしたら、


少女はフィルムごと食べていた。


えぇえ、、


袋から新たなおにぎりを出し、


フィルムを取って、手渡す。


少女はそれを口へと運ぶ。


パリッ、


良し。


謎の達成感が表れた。


少し濡れたフィルムを剥がし、


少女が食べ終わるまで、


おにぎり片手に遊具を見つめる。


少女は食べ終わると、


左手に乗っけておいた、


フィルムごといったおにぎりを取り、


今度はきちんと食べる。



ザー、、


雨の音だけが響き、


不意にサイレンが鳴ると、


俺の意識は現実に戻され、


びくびくとする。


いや、、誘拐とか、


そうゆうのじゃないしな、、


少女は食べ終わると俺の膝の上に座った。


ゆっくりと、少女の体重が俺にかかる。


軽いな。


まるでそこには何も居ないかの様に、


小さな体から伝わる重力は、


ほぼ無にしたしかった。


そのまま少女は小さな吐息をたてると、


すやすやと眠りについてしまった。


疲れてたのかな、、


腹がいっぱいになって寝たのか。


上から覗く少女の表情は


何処か大人びていた。


いやいやいや、、


そうゆんじゃねえし、


このままじゃ危ないからだし、、


そう思いながら雨の落ち着いた、


ひたひたの公園を後にする。



少女を横にさせ、布団をかける。


んー、、


明日。学校なんだけどな。


どうしようか、、


とりあえず食べ物はあるし、、


まあ。なんなら、勝手に出て行くだろ。


俺は見知らぬ少女と、ひとつ屋根の下で、


一晩を共にする事なった。



※家出少女を見付けた場合は、警察に連絡し、まず、保護している事を伝えましょう。

何も無しに連れ帰った場合は、拉致、監禁等のならんらかの罪に問われる場合があります。



朝起きると、少女は


俺の顔を覗き込んでいた。


「起きたのか、、


おはよう。」


少女は距離をとると、俺を見つめる。


「そりゃ、そうだよな。」


玄関を開け、開いている事を教える。


冷蔵庫から廃棄の弁当を取り出し、


レンジで温める。


テレビを付け、ニュースを見る。


誘拐や行方不明と言ったニュースはない。


少女はそれを不思議そうに眺める。


俺は少女の前でリモコンを見せ、


ボタンを幾つか切り変える。


押すと同時に切り変わる映像に、


興味津々と言った様に引かれている。


少女にリモコンを渡すと、


少女は真似る様に番組を変える。


リズムカルに鳴る音と共に、


電子レンジから弁当を取り出す。


テーブルに置き、フィルムを剥がす。


今日は幕の内だ。


鮭の骨を探し、少しほぐすと、


少女とテレビの間にテーブル移動させ、


箸とスプーンを置く。


少女は小さい子供が見る番組に夢中だ。


少女は匂いにつられ、弁当を食べはじめる。


お昼用にご飯を用意し


フィルムを剥がし、皿の上に置く。


そのままだと、また。そのまま、


食べてしまうかもしれないので。


おにぎりの、あの。海苔のパリパリ感が


時間と共に無くなってしまうが、仕方ない。


そう思い、布の虫除けのカバーを


かけて置いておく。



食べている途中で、思い出したかの様に


立ちあがり、そわそわとしはじめた。


ん、、


一瞬考えたが、トイレへと手を引き、


扉を閉めた。


ジャア、、


少女は用を足すとそのまま戻ろうとした為、


水道まで手を引き、蛇口を捻った。


少女は楽しそうにそれを上へと挙げる。


いやいや、、


辺りはびちょびちょになった。


そう言えば風呂入ってねえし、、


どうしたもんかな、



頼る宛もなく、俺は店長に電話をする。


「朝早くからすいません、


大変申し訳ないのですが、


これこれこうゆう理由でして、、」


多分。いろいろな事が、きっと、


分かっていないだろう、子供を、


流石に一人で居させる訳にもいかなかった。


ましてや、理由が分からずとも、


警察に言わずに連れて来たのすらまずい。


店長は何も言わず、話を聞いてくれた。


信用があった訳では無かったが、


俺に頼れる人もいなかった、


店長「とりあえず、


女房がそっち行くから、


話は後だ。」


そう言われ、電話を切った。


店長は何かいつもと違う雰囲気だったが、


まあ、後で話す事にするとして、


迎えに来た奥さんに預けた。


奥さん「まあ、可愛らしい子。


理由はまあ、粗方聞いたけど、、


とりあえず、学校行ってきなさい。」


「ご迷惑をおかけします。


それと、この子お風呂入っていないので、


着替えもないし、それに基本的な事が、


何も分からないみたいなので、


いろいろとよろしくお願いします。」


俺は深々と頭を下げる。


奥さん「分かりました。


では、行きましょうか、」


少女は不安そうにするが、


俺が頭を撫でると理解した様に、


店長の奥さんと歩いて行った。



「やべっ、、」


時計を見ると既に学校が始まっていた。


別に休んでも良かったのだが、


大学ぐらいは行かないと、と思ったので


ちゃんと行くことにした。


学校に居る間はずっと、


少女の事を考えていた。



何処の誰で。


何処から来たのか。


両親は心配していないか、


逃げてきたのか、


それとも、


棄てられてしまったのか、、



SNSやテレビ。新聞を漁るも、


特にこれと言ったものは無かった。



その日は何だかそわそわして、


何も手に付かなかった。



授業が終わり、俺は気付くと走っていた。


バイトへと向かうと、


コンビニは閉まっていた。



"都合により、本日は閉店致しました。"



「あれ、、」


いつもの様に裏口へと回る。


鍵は開いていた。


ガチャ、


いつもの待合室には、


見慣れない店長の姿があった。


店長「よぉ、」


何となく雰囲気が違う様子に、


俺は何かを感じていたのかと思う。



とりあえず俺はまず、謝った。


「すいませんでした!」


店長は俺に近付くと、


上げた顔にパンチをした。


ゴス、、


そこにはいつもと違う店長の顔があった。


「すいませんでした、


じゃ。ねんだよ!



あの子を何だと思ってんだ!!



可哀想だから、拾いました。


どうすればいいか分かりません。


私はやることがあるから


見れません。


じゃ。ねんだよ!」


店長は胸ぐらを掴み、俺を立たせる。


「お前はな、"偽善"で


そうしたのかも知れねえよ、


だけどなあ、、育てるっつうのは、、


守るっつうなはなあ、、


そんな簡単じゃねんだよ!!!」


店長は荒い息を立てながら肩で息をする。


店長の熱い想いが俺に流れて来て、


思わず涙が流れてくる。


俺はロッカーに、もたれ掛かる様にして、


上げられる顔も無いまま、項垂れる。


店長は外へと出ていった。



しばらく、そのまま時間だけが流れた。



どのくらい経ったか分からなかったが、


誰かに怒られたは久しぶりで、


まるで拗ねる子供の様に


そこでじっとしていた。



煙草の煙と共に入ってくる店長は、


俺が吹っ飛ばされた衝撃で落ちた物等を、


拾い、片付けていた。


店長「いつまでそうしてんだ。


座れ。」


いつもの休憩室は、いつの間にか、


あの正座させられた懐かしい玄関の様に


何ともバツの悪い、どうしようもない、


そんな息苦しい空気で包まれていた。



すると店長はおもむろに話し出した。


店長「俺達にはなあ、娘が居たんだ。


俺に似て、頑固に育っちまってな。



『子供は小さい時だけが一番可愛い』



とか。構ってもらえなくなった親が


良く言うセリフだが、、


俺もいつしかそう言う様になっちまった。


子供ってのは親からしてみりゃ


いつまでもあの小さい頃のままの


"あの姿"なんだ。


そりゃ、成長すりゃ見た目も変わるし、


図体だってデカくなる。



でも、子供は身体と共に成長して、


少しずつ。大人へと変わって行くのさ。


それでも、親にしちゃ、


いつまでも子供は子供。


だからついつい、口だしたくなるし、


口うるさくなって、"大人が大人でいる"


『証』


みたいなもんを、ついつい、


押し付けたくなるのさ。


そうして、どんどん嫌われて、


結局。離れられていく。



愛してるから、大切だから、


守りたくて、変わって欲しくなくて、


それらを無理に押し付けちまうんだな。



だから親はあんまりいいもんじゃねんだ。


似てるからこそ、離れて。



近寄りずらくなる。



まあ、俺の育て方が


下手くそだったのかもしれない。



子供はグレて。家に帰らなくなり、


捜索願いを出したが、次に会ったのは、


哀れな姿として、変わり果てた姿だったよ。



『神待ち』


とか言うやつか?


いい歳した大人が構って貰えないからって、


そう言った社会的立場の子供達を拾っては、


見返りに身体を貪って、居させるのさ。



終いには、売りをさせたり、


薬漬けにしたり、、


そんなんで『金稼ぎの道具』として、


大切な娘を食い物にしたんだ。



でもよ、時間が経って気付いたんだ。



そうなる様にしたのは俺だったんだって。



俺がこんなんだから、、


"変な神様"にすがるまで、


俺が、あいつを、、


追い込んじまったんだって、、」



店長は握る拳を、震える身体を、


必死に堪えていた。


「だからよ、、そんな事する奴も、


そんなふうにする親も俺は許せねんだ。」


俺は出す言葉も無く、ただ息を飲む。


弁解や、同情と言うものすらも、


俺の口からは一切出なかった。



俺には経験も、時間も、


店長が持っているモノを


持ってはなかったからだ。



大人が言う言葉は深く、時に重い。


だが。どうやって本人達が捉え、


それをどう本人達が活かすかは、


本人の理解と解釈によって異なる。



店長「キャラに似合わず、


昔話をしちまったなあ、、


似合わねえ。似合わねえ、、


あの子が待ってんだ。



しばらく店は閉める。


お前は着替えとか用意して、


女房と一緒にあの子と居てやれ。



それから、ゆっくり考えろ。


あの子の事と、お前の事を。」



一旦帰り、着替えを用意し、家を出る。


外には店長が居て、俺は後を付いていく。



何だか家出して連れ戻される子供の様に、


見えない愛情が、じわりと伝わる。



奥さん「あら、、お帰りなさい。


もぉ、ずっとこんな様子なのよ。」


奥さんは困りかけた様に、


服の裾を掴みながら、


半べそかく少女を宥める。


俺を見るなり少女は俺に抱き付く。


奥さん「良かったわね。」


奥さんは嬉しそうに微笑み、


俺の荷物を持つ。


少女はべったりと俺にしがみ付く。


奥さん「お上がりなさいな」


その様子は夕方の母親の様に、奥からは、


温かい、優しい匂いが流れてきた。


「お世話になります。」


片手で少女を抱えながら、頭を下げる。


奥さん「いらっしゃい。


ゆっくりしていきなさい。」


下駄箱には女の子のらしき靴が


寂しそうにまだ残っていた。



通された部屋は和室の広い部屋だった。


奥さん「客間なんだけど、


良かったら好きに使ってね。


私しか居ないし、


部屋が余ってるのよ。」


「あれ、、店長さんは、」


奥さん「あぁ、源一郎さんね。


源一さんは、、違う場所に住んでるの。



本当はまた一緒に住みたいんだけどね、、


あの子がああなってから、


私の顔を見ると、思い出す見たいで、、



きっと。私に気を使っているみたいね、、


源一さんの顔を見ると、


私も思い出してしまうからって、、


あはは、、


やだ。


ごめんなさいね、、」


そう言うと涙を拭いていた。


奥さん「私。嬉しかったの。


久しぶりの電話で、、


こうして、前みたいに戻れるみたいで、



この子には懐かれて居ないみたいだけど、、



やっぱり、子育ては難しいものね、、



でもね。私頑張るわ。


この子が好きになってくれる様に。



毎日美味しいご飯作るから。


あっ、好き嫌いは駄目よ?



後もう少しで出来るから


お風呂入ってらっしゃい。」



そう言い。奥さんは、台所へと向かう。


ずっと後ろに隠れている少女に


顔を合わせる。


「いい人達で良かったな。」


少女は頬を緩めた。


「風呂入ろうか。」


手を繋ぐ少女の小さな手を握り、


脱水所へと向かい、服を脱ぐ。



あれ、、


これ。大丈夫なんかな、、


下心とかそうゆうのは無いんだけど、


少女は俺を見る。


そんな、、見られても、、


異性と風呂に入るのなんて初めてだ。


んー、、


目を瞑りながら少女の服を脱がせる。


ここの子供の服だろうか、、


女の子らしい格好をしている。


「ほいっ、、」


上着のボタンを外し、脱がせる。


あまり見ない様にして、浴室へと行く。


少女を浴室の椅子へと座らせると、


シャワーを出し、ゆっくりと身体にかける。


頭を濡らし、シャンプーをつける。


深呼吸をし、優しく髪を洗う。


少女は桶のお湯をじゃぶじゃぶとさせ、


目に入った洗剤を痛そうにする。


「ごめんごめん、」


ゆっくりと顔を流し、学習したのか、


次は目を瞑って静かに座っている。


頭を流すと、俺も頭を洗う。


すると少女は俺の頭に手をやる。


「ん?」


どうやら洗っていてくれている様だ。


「あはは。ありがとう。」


ボディーソープを付け、手をとり、


少女の腕に当てる。


それを擦り、自分でも擦る。


そうやって、真似させる様に、


自分で身体を洗ってもらった。


一通り綺麗に洗い、浴槽へと浸かる。


「はあ、、」


何とも言えない温度で、


つい変な声が出てしまった。


少女は気持ち良さそうにする。



家族ってこんなんなのかな、、



少女は嬉しそうにする。


そう言えばこの子の名前なんだろな、


名前はあるんだろうか、、


いや、あるよな。


何言ってんだか、、


んー。何だろうか。


梅雨の日に公園に居た子供だからな。


「ツユコ」


少女は振り返りニッコリとした。


「ツユコ」


少女は近寄ってきた。


いやいや、駄目だろ。


お前。名前、何て言うんだよ、、


いろいろ考えている内に、


ツユコの顔がまっかっかになった。


「やべ!」



浴室から出ると、脱水所には


着替えが置いてあった。


俺はツユコの身体を拭き、服を着せる。


俺も身体を拭き、服を着ると、


ドライヤーでツユコの髪を乾かす。


ツユコは気持ち良さそうにする。


ツユコはまともに育てられなかったのか、


言葉を話さないし、


いろいろと知らない事が多い。


もしかしたら、


そう言う病気なのかもしれない。



脱水所から出ると奥さんが居た。


奥さん「お風呂はどうだった。」


「お先でした。


すいません、着替えまで。」


奥さん「あらあら、


茹でダコさんじゃないの


あまり子供の長湯は良くないのよ」


「すいません。」


奥さん「あはは。


いいのよ。これから分かれば。


ちゃんと洗ってもらったかしら?」


ツユコの顔に優しく触れる。



奥さん「さあ、ご飯よ。


今日は御馳走よ!


沢山食べてね。」


ツユコが走り出すと、


それを追う様に奥さんが続き


俺はそれを眺める。



「いいな。こうゆうの。」


居間に行くとテーブルには沢山のおかずが。


ツユコはいい子に座る。


俺も席に着く。


奥さん「いただきます。」


「いただきます。」


山盛りのご飯はあっと言う間に無くなり、


奥さん「はいっ。」


伸ばされた手に茶碗を渡す。


奥さん「いっぱい食べてね。」


「はいっ。」


ツユコは上手に箸を使い食べる。


奥さんは嬉しそうにそれを見つめる。



誰かと囲う食事は、


こんなにも美味しいものなのだと、


俺は幸せを噛み締める。


「うまっ、」


テーブルの上のおかずは空になり、


2人して、横になる。


奥さん「あらあら、行儀が悪いわよ」


そう微笑みながら片付ける。


「やりますよ。」


奥さん「いいのよ。


そう、気を使わなくても。


ゆっくりしてなさいな。」


「ごちそうさまでした。


本当に、美味しかったです。」


奥さん「あら。それは良かったわ。」


嬉しそうに奥さんが笑う。


「落ち着くな、」


クーラーが付いていないのに、


俺の家よりも涼しい。


ツユコは安心したのか、いつの間にか


穏やかな顔で寝ていた。


食器が重なる音が心地良い。


蛙の声が響き、静かに雨が降り始める。


片付けが終わり、奥さんが戻ってくる。


奥さん「あら、寝ちゃったのかしら、


本当に可愛い子だねえ。」


そう、言いおっとりとする。


奥さん「名前は何て言うの?


まあ、知らないわよね。」


「ツユコです。」


奥さん「ツユコちゃん、ね。


いい名前じゃない。


あっ、私は恵よ。


あまり良い意味じゃないとか言われるけど、


私は気に入っているのっ。



メグちゃんって呼んで良いのよ?」


「めぐみさん。」


奥さん「なあにっ」


まるで新婚の様だ。


めぐみさん「ツユちゃんの


歯磨きしなきゃね。


一応、昼間したんだけど、、


虫歯になっちゃ大変だしね。」


ツユコを起こし、洗面所へと行く。


ツユコを布団へと寝かし、


めぐみさんだけ戻ってきた。



めぐみさん「あの子はどうしたのかしらね。


親御さんはどうしているのか、、


一応、源一さんが調べていてくれて、


警察とかといろいろと、


話はしてるみたいだけど。」


どうやら店長がいろいろと


やってくれている様だ。


「本当に。何から何まで、、


すいません。」


俺は頭を下げる。


めぐみさん「いいのよっ、



本当に。」


めぐみさんは優しく微笑んだ。


めぐみさん「昔ね。


私にもツユちゃんみたいな


可愛い子供が居たのよ。



でもね、、


私がしっかりしないから、


あの子は、、」


めぐみさんは涙を流す。


俺はティッシュの箱を渡す。


めぐみさん「ごめんなさいね。


もう、歳だから、、


ツユちゃんには本当に


幸せになって欲しいの。



だからね、あの子の罪滅ぼしじゃないけど、


そう、、勝手に思い込んでいるの。


決して罪が無くなる訳じゃないし、


あの子にも許して貰えないかもだけど、、


やり直すチャンスだと思ってね。



だからあなたも、、


私達に巻き込まれたぐらいに思って、


そんなに深く考えないで、


ゆっくりとしていけばいいわ。



私達に出来る事は何でもさせてね。


照らし合わせて本当にごめんなさい。」


「いえいえ、」


その夜はよく寝れた。


俺も多分ツユコの様に安心し、


めぐみさんや店長の事をまるで



本当の親かの様に



信頼しきって居たようだ、



朝目覚めるとそこにはツユコが。


だが、少し様子がおかしい。


何だか少し成長したような、、


ご飯の匂いと、魚の匂い。


味噌汁の匂いまで、、


まるで旅館の様だ。


いやいや、めぐみさん家。


昨日の記憶を遡る。


あの後は店長との話をされて、


めぐみさんと店長との馴れ初めを聞いた、


店長の昔話やら、何だかんだ、、


めぐみさん「あら、、


頭がすごい事になっているわよ。


顔を洗ってらっしゃい。



昨夜はよく寝れたかしら?」


布団を片付けながら話す。


「はい。


本当に、ぐっすりです。」


めぐみさん「あらっ、ツユコちゃん、、


何か気のせいだとは思うんだけど、


ツユコちゃん何処か大人びたかしらね?」


不意に奥さんが言った。


やっぱり、、、


だが、俺はあえて触れなかった。


明らかにおかしい。


そりゃ、育ち盛りだが、、


これは、、


例えるなら、幼稚園児から


小学校低学年へと成長したようだった。


めぐみさん「まあ、成長期だしね。


私もまだまだ成長しないと。」


あはは、、


ツユコと顔を洗い。


居間へと向かう。


焼き魚とご飯、味噌汁。


更に漬け物と和え物まで、、


こんな朝飯、いつぶりだろうか、、


席に着き、手を合わせる。


「いただきます。」


美味しいご飯は幸せな朝を迎えられた。


「ごちそうさまでした。」


めぐみさんは食器を片付けながら言う。


「何かリクエストとかあれば、


何でも言ってちょうだい。」


「ありがとうございます」


俺は心から感謝する。


めぐみさん「お昼頃には帰ってきてね。


夕飯も、ちゃんと、皆で食べましょうね。


それと、、」


めぐみさんはモジモジとするように


恥ずかしそうに言う。


「良かったら、


あの、


無理じゃなかったら、、


源一さんに、声を、


掛けてみてくれる?」


それはまるで初恋の少女の様に、、


「分かりました。」


そう言い、ツユコと外に出る。


別に行く宛があった訳ではない。


何となく外に出たかった。


店長にも話したい事があったし、


めぐみさんにもあぁ頼まれたしな。


店長の家は分からなかったので、


とりあえずコンビニに向かう。



いつもの裏口には鍵が掛かってた。


「居ないか、、」


昼に近くなった為、一回帰る事に。


家が近くなると、誰かが居た。


店長は家を行ったり来たりし、


あからさまな不審者だった。


「店長!!」


店長は俺の声にびっくりし、近寄る。


店長「静かにしろ!


女房にバレるだろう。」


格好はあからさまにキマっている。


お洒落をしてきた様だ。


「入ればいいじゃないですか。」


店長「馬鹿野郎!


入れる訳ねえじゃねえか。」


めんどくさいやつだ、、


「めぐみさん。


源一さんと前みたいに、一緒に


居たいって言ってましたよ。」


店長「本当か!!?」


店長は激しく俺の肩を揺する。


「はあぃいい、、


何なら今からでも。」


店長は悩む。


店長「まだ、ちょっと回る所があってな、、


夕飯には必ず。


あの、、焼き魚で。」


そう、照れながら言うと、


一目散に消えて行った。


「何なんだろうこれは、、


歳を取ると、なかなか


素直になれないってやつか。」


ツユコはずっと上の空の様だ。


テレビも見ようとしないし、


昨日の様に表情を変えたりもしない。


まるで思春期の子みたいだ。


でも、俺から離れようとはしない。


トイレにすら付いてくる。


何だか可愛い。


これがいずれ、俺の元を離れ、


何処かの男と一緒になるのか、、


「はあ、悲しい、、」


そう言い、ツユコを抱き締める。


ガラガラガラ、、


めぐみさん「あらっ、お帰りなさい。


仲の良い事でまあ、、」


俺は恥ずかしくなり、


ツユコも少し照れていた。


「ただいま。


あっ、そう言えばさっき店長が、、」


何とも幸せな時間。


こんな時間がずっと続けばいいと。


心の底からそう。願った。



じめじめとしたく空気は相変わらず。


梅雨だからな、、


ツユコは庭を見つめる。


紫陽花の綺麗な色。雨が葉に当たり、


花がそれと一緒にリズムをとる。


蛙が泣き、めぐみさんの料理の音が鳴る。


時計の針が静かに響く。


「ツユコ。」


俺が膝を叩くとツユコは俺の膝の上に乗る。


優しく抱き締めると、雨は激しくなる、


これは、駄目だってか、、


ツユコを膝の上から降ろすが、


ツユコは再び乗ってくる。


「何だ、、


気に入ったのか、」


俺は優しく頭を撫でる、


もう、大学辞めて働こうか、、


大学で、したい事はないし。


いつまでもこうはしていられないし。


何処かに就職して、ツユコと一緒に、


こうやって過ごせたらそれでいいや。


そう、そんな風に考えた。



夕飯時。


ガラガラガラ、


店長が来たようだ。


皆でお出迎えする。


『お帰りなさい』


「ただい、ま。」


店長は恥ずかしがりながらも、


めぐみさんと一緒に、久しぶりに、


家族としての時間を過ごしていた。


家族団欒の時間。


微笑ましい絵だ。


めぐみさんの料理は旨い。


店長「本当に、、


久しぶりだな」


ご飯と共に酒が進むと、目頭を押さえた。


めぐみさんも涙を流しながら、


店長の手を握る。


俺もこんな関係になりてえな、、


そんな風に思っていると、


ツユコは俺の手に手を乗せた。


真似しているのだろうか、


「ありがとうな」


そう言い、優しく頭を撫でた。


ツユコにも幸せになって欲しい。


店長は酒に酔ってそのまま寝てしまった。


大きなイビキをかき、寝ている顔を


めぐみさんは幸せそうに隣で見つめている。


「お風呂いただきます。」


小さく言うと、めぐみさんは頬笑む。


ツユコは身体を流し、浴槽に浸かる。


もう、一人でも入れるか。


俺もいつまでも一緒はまずいだろ。


蒸気で曇った浴室の壁を眺める。


ポチャン、


水滴が垂れて、湯槽の水面が揺れる。


ツユコがまたのぼせる前に出ないと。


浴室から出るとツユコは自ら身体を拭き、


衣類を着るとドライヤーで頭を乾かす。


昨日とは大違いだ。


ツユコすげえな、、


相変わらず喋らないが、ある程度は、


自分の事が出来るようになったみたいだ。



俺も変わらないとな。



明日店長と話そう。


風呂から出ると、


奥さんも一緒に寝てしまった様で、


2人にブランケットをかけ、


ゆっくりと電気を消す。


「おやすみなさい」


布団に入ろうとすると、


ツユコが真似して、


横になる俺に布団をかけた。


俺は思わず笑った。


「ありがとう」


ツユコを布団に入れ。


頭を撫でる。


「おやすみ。」



次の日。


もう、御決まりかの様に、


あの頃の小さかったはずの少女は、


みるみると少し成長していた。


何だこれ、、


寝る子は育つってか、、


流石に。やばい、、


面影はあるが、


今や中学校を控えた小学生になった。


「お、おはようございます、、」


何とも言えない表情をしながら居間に行く。


店長「おはよう」


新聞越しに店長は挨拶をする。


咳払いをすると、ページを捲り


恥ずかしそうに話し始める。


「あれだな、、うん。


昨日めぐめぐと話したんだが、


もう、お父さん。と、


呼んでくれてもいいんだぜ、、」


何を言ってんだこの人は、、


状況を見てくれ、、


しかも、めぐめぐって、、


女房って言ってたやつが急にデレたよ。


めぐみさん「おはよう。


ほらっ、いっちぃ、


ご飯何だから新聞やめて。」


新婚か!!!


テーブルに運びながらツユコを見ると、


めぐみさん「あらっ、


またツユちゃん大きくなって、、


そろそろツユちゃん用の服買わないと


いけないかしらね、



あっ!、ちょうどいいわ。


今日はツユちゃんと一緒に


ショッピングモール行ってくるわね。」


いっちぃ「俺も行こうか?」


そう、新聞を畳むと、


いっちぃ「ツユちゃん!!?」


おせえよ!!!


朝食を食べ終わると


ツユコはめぐめぐと買い物に行った。


いっちぃはめぐめぐにしがみつく。


「一緒に行ってぇ、、


お願い、、」


その時。


みっともないな。


そう思った。


めぐみさん「じゃあ、たまには同性同士。


楽しくやりましょうね、、」


ツユコは手を振る。


めぐみさんにも随分慣れたもんだ。


店長「俺も、、


俺もいぎだがっだぁあ、、」


涙と鼻水を垂らしながら、


おじさんは泣きじゃくる。


俺はテレビを付ける。


たまたまニュースかなんかで、


野球選手のやつをやってた。


店長は何処かへ行くと、


「透。野球やろうぜ!!」


何処かで聞いた事のある台詞と共に


店長はバットとグローブを持つ。


どっから持ってきたんだ、


こうして、俺は店長と土手沿いに行った。


店長「男同士が話すには、やっぱり。


キャッチボールじゃけね、」


親とキャッチボールをしたことはなかった。


共働きで幼少期に遊んで貰った覚えがない。


店長「ほれ、」


放たれたボールは俺へと飛んでくる。


バチ、


久しぶりの天気に、休日とあってか、


それなりに人がいる。


端から見れば俺らは親子なのだろうか、


ふっ、


投げたボールは店長へと向かう。


バチ、


「店長。俺、


話があるんです、」


店長「何だ。」


交わしながらボールを投げる。


「まず、何から何まで。


本当に、


すいませんでした。



全部やってもらって。」


店長「お前の為じゃないわ。


気にするな、


一応、あの子の事はこっちで


いろいろちゃんとやっとる。」


言葉を投げると、


言葉はボールと共に返ってくる。


「俺、大学辞めて働こうかと。」


店長「そうか。


まあ、お前がそう決めたなら


いんじゃねえか。


止めはしねえさ。


けど、あの子を言い訳にして、


逃げるのは違うぞ。



休んだって退学になる訳じゃねんだ。


今はゆっくりと、あの子との時間を


過ごしてやる事が、今のお前の


やるべき事なんじゃないか?



なあに、金なら心配するな。


なんせ、店長だしな。」


「店長、、」


何だか見透かされた様な気がした。


大人ってすげえな。


店長「俺らが出来なかった事を、


今のお前は、やろうとしてんだ。



逃げるなよ!」



力強く、想い魂は、


俺の心にぶつかった。



「はい!!」


店長「よし、千本ノックだ!」


「はい?!」


店長「ってか、ツユコって、


お前が付けたのか。」


「梅雨の公園に居た子供で、


ツユコにしました。」


店長「安直だな、、」


「すいません、、」


店長「本人が気に入ってんなら


いんじゃねえか。



梅雨に現れた子供になった神様ってか、



「何か言いました?」


店長「何も言ってねえよ


そろそろ帰るぞ


夕飯何かな~」


今日の夕焼けは何だか暖かい夕焼けだった。



店長「ただいま~」


めぐみさん「あらやだ、


2人して泥だらけで、、


早くお風呂に入ってらっしゃい、」


めぐみさんは笑いながら言う。


「は~い」


ツユコの姿が見えない。


まあ、良いか。



「店長。背中流しましょうか。」


店長「うぬ。苦しゅうない。」


男2人水入らずの風呂場。


「はあ、、」


店長「風呂って良いよな。


本当に、いろいろあったけど、


こうやって落ち着いたらいいもんだな。」


ゆっくりと水が垂れた。



居間に向かうとツユコがいない。


「あの、ツユコは。」


めぐみさん「待っててちょうだい」


店長と俺は顔を合わせる。


めぐみさん「じゃじゃぁん」


そこには白いワンピースを着た


恥ずかしそうに立つツユコの姿があった。


「綺麗だな。」


思わず出てしまった。


店長「こんなに大きくなって、、



綺麗になったなあ、、、、」


涙を流しながらツユコに触れる。


「触んなこのエロ親父!」


店長「何だお前!その口の聞き方は!」


めぐみさん「まったく、、


私って女が居るのに、、」


頬を膨らまし、拗ねるめぐめぐ。


店長「いやいや、これは、


決してそう言うのではなくて、、


ただ、成長を見守る親として、、」


「いただきます。」


店長「あっ、お前、俺の!


めぐめぐ違うんだよ。


俺はめぐみだけ見てるよ、、」


嬉しそうに笑うめぐみさん。


「ウフフ、」


弁解しながらも食べる源一郎。


「いただきますって、


おまっ、


食い過ぎだ、、


めぐみちゃんね、」


ツユコは幸せそうにする。


あぁ、幸せだな、



その日の夜、俺は不思議な夢を見た。


誰かが誰かを探している。


『ドコ、、ドコナノ、、』


必死に歩く。


見慣れない場所。知らない風景。


『、コワ、イ』


ただただ、そう感じ、


身体を小さくして守る。



『タスケテ、、、』



起きると俺は泣いていた。


雨は悲しむかの様に降り続く。


時計の針は2時16分を指す。


いつもは、ぐっすりなのに、、


寝苦しかったからか。



ふと、視線をツユコへと向けるが、


そこに居るはずのツユコは居ない。


トイレか、、


その時、嫌な考えが過った。


さっきの夢は、、


もしかして、、


俺は玄関に行く。


ツユコの靴が無い。


くっ、くそ、、


あんな女の子が、、


一人で居たら危ないだろ。


俺は何、安心しきってたんだ。


何でツユコが寝るまで、


ちゃんと見てやらなかったんだ。



「ツユコ!!!」



必死に探す。


走る足は水溜まりを踏みつけ、


水飛沫を立てながら飛び跳ねる。



「ツユ、コ、、」



行く宛何かひとつしかなかった。


雨が響く町。深夜の公園で、少女は、


ただ、天を見上げ、立ちすくんでいた。


周りには無数の光る何かが飛び回る。


妖艷。


そう。言い表せる。


「ツユコ、、



帰ろう?」


差し出す手はだんだんと離れ、


ツユコが顔を向ける。


泣いていた。


悲しそうに、、



『サ、ヨ、ウ、ナ、ラ、』



俺は堕ちる様に視界を揺らす。


「ツユ、コ、、」


俺は心臓が激しく鼓動する。



「ツユコ!!」



起きると同時に頭に衝撃が走る。


ゴツン。


「いってぇ、、、」


店長「何。



お前は、馬鹿なの、、


起きてすぐ頭突きとかさあ、、


あぁ、


脳が揺れる、、」


「ツユコ!!」


布団を投げ出し、急いで起きやがる。


店長「、、」


投げられた布団は店長に被る。


廊下でめぐみさんとすれ違う。


めぐみさん「あら、、


お寝坊さん。


昨夜はあまり寝れなかったの?」


「ツユコが!!


ツユコが、、」


急いで玄関に行こうとする俺を、


誰かが引っ張る。


俺は勢い良く倒れる。


店長「落ち着きんしゃい」


激痛と共に、視線の先の居間では


ツユコが朝食を食べていた。



そこには安心と幸福があった。



店長「いただきます。」


めぐみさん「あらあら、、」


そう言い、店長に湿布を貼る。


俺はツユコを見ながらご飯を食べる。


何だったんだあれは、、


ここに居るのはツユコなのか。


ツユコ「何をじろじろ見てるのよ。」


、、、?


場の空気が静まりかえった。


!!!。


店長「喋ったぞ!!!」


めぐみさんが店長を叩く。


店長「あいた、、、」


めぐみさん「ご飯。おかわりいるかしら?」


手を差し伸べると、空いた茶碗が渡される。


ツユコ「ありがとう、、」


俺と店長は顔を合わせながら


アイコンタクトをする。


店長「イッタイ、ドウナッテル」


「ワカンネーヨ、、」


めぐみさん「タベタアトニシナサイ」


言葉が無く、静かな時間が続いた。


正直味すらしなかった。


「ごちそうさまでした。」


食べ終わると、早々に家族会議が開かれた。


店長「あの、、ツユコさんで


よろしいんですかね?」


手を口の前で組ながら問う。


ツユコ「まあ、そうね。」


めぐみさん「本当のツユちゃんは?


貴女は、


誰なの、、」


めぐみさんは心配そうに問う。


ツユコ「私達はそもそも


あなたたちみたいな存在じゃないの。



あまり交わっていいものでもないのよ、」


店長はぽっかりとする。



「ツユコは帰ってくるのか?」



率直な質問皆が唾を飲む。


ツユコ「無理ね。」


やっぱりな、、


いつかはこうなると、


心の何処かでは分かっていたはずだった。



めぐみさん「、、、。


せっかく娘みたいに思ってたのにね、、」


めぐみさんは顔を覆う。


店長「それは、どうにかならないのかね。


ツユコちゃんはもう、わしらの家族じゃ。


ここに居るのは、皆家族。


だから誰か一人でも欠けちゃいかん。


もう、見過ごす事何て出来ないんじよ、、」



必死に涙を堪える。


ツユコ「はあ、、


人間って勝手よね、、


自らの間違いを他人に押し付けたって、


あなた達が犯した罪は消えないのよ、、


してしまった事は永遠に残るの。



考えてみてよ。


あなた達の歪んだ思想や宗教を


勝手に押し付けられる


私達の身にもなったら?」


そうだな、、


ツユコはそうゆうので


存在している訳じゃない。



皆。喪ってしまったナニカを、


まるで代用するかの様に、


ツユコを利用していた事には


何ら変わりはないのだから、、



返す言葉もなかった。


ツユコ「これだから嫌なのよ、、


真実を突き付けられたからって、


そうやって黙って、、」


ツユコは席を立ち、帰ろうとする。


パッ、、


皆がツユコの手を取る。


めぐみさん「ツユちゃんは、、


ツユちゃんよ。


私の、、


あの子じゃなくてツユコちゃんなの。」


めぐみさんは涙を拭う。


店長「そうだ。


あいつとは違い、無口で、、


わしなんか嫌われてるかもしれなが、


ツユコちゃんはツユコちゃんだ。」


店長は無理に笑った。


「俺は、、ツユコが、、



好きだああああ!!!」


何となく流れで、そう出てしまった。


めぐみさん「あらっ、、


そんなこと言われたら


トキメイちゃうわね、」


頬を染めるめぐみさん。


店長「何、人の女、、



誘惑してんじゃ、ボケェ!」


俺は店長に叩かれる。



ここには涙なんて似合わない。


これでいいのだ。



ツユコ「馬鹿ね、、


私。一応、これでも神様だから。


そうね、、


3つまで良いわよ。


大切にしてくれたみたいだし。」


めぐみさん「願い事?」


ツユコ「そうよ。


何でもいいわよ。」


店長「一人3つ?」


ツユコ「減らすわよ、、」


「、、ツユコと居たい。


俺はツユコが好きだ。」


めぐみさん「そうね、、


私も大好きだわ。


またツユちゃんと居たい。


一緒に買い物行って、


遊園地とか行きたいわね。」


店長「わしは、、


じゃあ、孫でも頼むかの、、」


ツユコ「いいのね。


本当に、、



まったく、、お人好しなんだから、、」


光と共に消え行く。


ツユコ「ちゃんと可愛がりなさいよ。」


「ありがとうな。」


ツユコ「べーだ。」


めぐみさん「また、ご飯。


一緒に食べましょうね、、」


ツユコ「う、ぅん、」


店長「気を付けて」


ツユコ「ふん、」


店長「何か、わし嫌われてるかな、、」



現実離れした状況から我に帰ると、


まばたきをし、俺達は玄関へと行く。



出迎えないと。



ガラガラガラ、


玄関にはツユコの姿があった。


「おかえり。」


めぐみさん「おかえりなさい。」


店長「おかえり、」



こうして、長い様で短い梅雨が開け、


日差しが強く照り付ける夏が訪れた。


この後。皆でいろいろな場所へ行き、


結婚して、


孫が出来て、、



それはまたの機会に、、


























げんいちろう「あの時。本当は、、


ずっと一緒に居られる様にと、


言おうか迷った。」


めぐみ「けれど、


もう、離れる事は無いと想い、


彼等の幸せを願った。」


げんいちろう「もしかしたら、


あまり先が無いかも知れない。



でも、それは今ではない。」


めぐみ「もし、生まれ変わりが


あるとするなら、、また、



げんいちろうと一緒に居たい。



げんいちろう「きっとめぐみの事を、


また、



同じように愛するだろう。



めぐみ「今度は焦らずに、」


げんいちろう「今度は落ち着いて」



『一緒に、歩んで行こう。』










END'



















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梅雨の季節にはツユコと一緒に、 影神 @kagegami

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