第45話:移動都市オービター

 移動都市オービター

 そこはある種の最前線と言える。一般的に人類生存圏奪還の最前線とされている場所は第四都市ソネの東南エリアの先を指す。第三都市及び第四都市の南方は広域な樹海が広がっており企業と少なくとも悪くない関係を築いているため熟練者のシーカー間では暗黙の了解として樹海には進行していない。そしてその樹下を含め様々なモンスター、環境、異跡に進行するために存在するのが移動都市オービターである。

 都市と言うよりも巨大な城砦が移動しているかのようなその都市は居住区画・商業区画・倉庫区画・研究区画・レイブン財団の機密区画。数多くの区画が必要数存在し娯楽から武装販売に高級料理店他の都市と遜色ないレベルの物が揃っている。


 ノエルの仕事としては殆ど休暇のような状態となり後は今日を含め4日の休みだ。


「さて、どうしたものかしらね」


 居住区の宿から出たノエルはこの広大な移動都市のどこに行くかで悩んでいた。


『…選択のパラドックスですね。この場合別に死ぬわけでもありませんからどこでも良いと思いますよ?装備の話がありましたから商業区はどうですか?』


『そうね、そうしましょうか』




 オービターの区画数は多くシーカーランク相応の居住エリアなどが用意されるがここ商業区画だけはあらゆる者が集まる。並ぶ商品は今のノエルでは手が届かない程の最上級のハイエンド機種やオーダーメイドだけを請け負う工房ノエルでも購入できそうな|既製品≪レディーメイド≫の製品も並んでいた。


 ノエルが粒子剣を始めとした一軒の商店に入る。そこはCSS亜高速粒子刀やシラカバネのような多くの粒子刀や粒子剣が並んでいた。中でも目を引くのはノエルの身の丈ほどの大きさのロングソードだろう。勿論見掛け倒しではなく基本出力もそれ相応の性能を持つ製品だ。

 店員の話を軽く聞きながらノエルが店内を案内される。カタログスペックを眺めるノエルだがカタログスペックよりもやはり手に持った感触や使用感を優先したいノエルはあまり気が進んでいなかった。


「うーん…悪くは無いと思うのだけどね」


「左様ですか…」


 ノエルがそんな様子の中店員は一本の実体剣に近い剣を運び出してきた。


「ではこれはどうでしょう?」


 そう言ってノエルに渡された実体剣は白い刀身に黒い刃と言う独特のデザインの物で実体剣として十分な重量を持った物だ。


「実体剣?」


「えぇ、これは製品名称 O&I ダルモア 実体剣に特殊粒子の機能が付いたものです。粒子を飛ばすだけならこちらでも良いと思いますがどうでしょう?」


 O&I ダルモアを手にもったノエルは軽く重心等を確認する。


「これおいくら?」


『ちょっ、ノエル!?実体剣がいくらするか知っていますか!?』


『今回の武器の予算は1億でしょう?流石にそこまではしないはずよ。あそこのデカい剣が1億だからそれを基準にすればそんなでもないはず。そんなにいっぱい買う気も無かったしいいじゃない』


 体感時間を加速しフェンリルの反対に対してノエルが答えていると店員がノエルの問いの答えを出した。


「えー…ダルモアですと6000万ルクルムとなります。何分キワモノな部類の為人気が無く生産数も少ないためお安くなっております」


 想像よりも値段が低かった事に対してノエルは意外に思いながらも話を進める。


「じゃあ購入するわ。整備とかはどうすればいいの?」


「汎用の実体剣や粒子剣の汎用整備装置で修復可能です。一応鞘が粒子のタンク兼簡易修復機能を持っておりますので損傷が軽微なら鞘に入れるだけでも十分修復可能です」


「そう。他の商品も見たいのだけどこういうあまり人気じゃない商品って他にもあるの?」


「勿論です。こちらにどうぞ」


 店員の案内に従ってキワモノな商品を見て行く。幸いノエルの期待通り性能はそれなりに良いのに使うものが少ない為安く販売されている装備が多かった。


『やっぱりそう簡単に掘り出し物が見つかりはしないわね』


『ですがダルモアは良い買い物だと思いますよ?』


 此処は最前線と遜色のないレベルであり装備の値段も高額だ。いくら安物とは言えノエルにも予算がある。実体剣の中では既製品で更に型落ちも型落ちのダルモアですら値引きされて6000万という高額さである。そもそも実体剣には対特殊粒子流動特殊ナノマテリアルコーティングと言う高額かつ希少なナノマテリアルの粒子をコーチングされている。

 この粒子だけでなくその刀身自体も生半可な物質では生身で戦車を殴り飛ばす逸脱者や超強力な強化服使用者の身体能力に耐えられない。刀身本体に切断対象が触れないこと前提の粒子剣では根本的に違うのである。


 その後幾つか店員に商品を進められたノエルだが。身の丈に合う装備では無く断念したり、流石のフェンリルのサポートでも使いにくい武装などが多かった。


「これがあまり使われないというよりは使いこなせるものが少ない武器ですね。これは製品名 レイディアント と言う物です」


 そう言って出された物は直径10Cm程の筒のようなものであった。ノエルが不思議そうにしていると店員が説明を始めた。


「これは起動すると使用者の意思を汲み取って好きな形状に変形するという物です。勿論形状を予め設定して後からブックマークを呼び出すように変形する事も可能です。

 ですがこれの真価はそこではなくこれその物が爆発物であるという事です。指定時間もしくは任意での遠隔爆破が可能です。突き刺せる粘土爆薬と言った方が近しいでしょう。その際にエネルギー変換に光エネルギーに変換するのが特徴でこの名称となっています」


 要するにこう言うことだ。自在に変形し・十分な硬度を持ち・爆発する(ついでに光る)


『噓ぉ…』


『噓では無いようですよ。ただ形状変化が上手くいかないようで人気が無いようです。その点は私が何とか出来るでしょうし購入してみては?』


『そうね。面白そうだし爆発しなくとも形状変化と言うのは便利だわ』


 フェンリルとの意見が合い早速ノエルはレイディアントを20本程購入した。値段で言うと1000万ルクルムとなる。少々ノエルの財布は涼しくはなったが今回の依頼報酬と合わせればある程度は元は取れる計算だ。




 装備の購入を終わらせ、宿に帰ってきたノエルは早速装備との同期を始めた。フェンリルが掌握している携帯端末をダルモアに乗せるとフェンリルが根幹システムの掌握を開始し始める。

 その間にノエルは身体能力強化ナノマシーンの補給を行っていた。ノエルはナノマシーン投与を始めてから一度も残留ナノマシーンの排泄もしていない状態だが現状どういった事も起きていない。

 その要因は幾つかあるがその一つはノエルが基本的に使用している回復薬が異界の性能の段違いに良い回復性能と回復基準を持つ。ただそれは他の者から見た場合ただの問題の先送りでしかない。むしろ更にナノマシーンの投与を行って問題の悪化ですらある。

 ノエルはそれを知らないがフェンリルは知っていた。知っていてノエルには不要だと言って残留ナノマシーン除去をさせないでいた。


 フェンリルが面白いものを見るような目でノエルを見る。フェンリルは|自分の主人≪ノエル≫の事を|自分の主人≪ノエル≫よりも詳しく知っている。何も知らない面白い玩具がどうなるのかを、まるで愛玩動物を眺めるようにフェンリルは暫くの間ノエルを眺め続けていた。


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失礼、投稿予定を忘れてました。

なおぶっちゃけ筆は進んでないので生存報告くらいの気持ちでお願いします。

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