第7話:鍍金の盗賊達

 今日は購入したベクターの使用試験もかねて異跡探索に来ている。モンスターとの戦闘も慣れていくと共に銃の扱いにも慣れてきたノエルはシーカーオフィスで恒常依頼として都市が依頼している汎用討伐依頼を受注している。これは戦闘でモンスターを倒す事で都市が報酬を出すという物だ。


 シーカーオフィスの買取所ではモンスターの死体の買取も行っている。流石にミンチ肉は買い取らないが例えば以前ノエルが切り落とした大砲なんかなら十分買い取っている。今回のノエルの狙いは一応異物集めではあるがそういうモンスター素材も手ごろなモンスターがいれば狙うつもりなのだ。だがノエルは以前のような大型のモンスターが来る可能性も考慮して警戒して進んでいる。流石に常時体感時間圧縮などはしていないが使わない程度には警戒して進んでいる。


 今回も収納容器等の異物を捜索しながら宝石を狙っている。宝石は単純に質屋に持っていくことでそれなりの金額になった為だ。それでもノエルが強化服を買えるだけの貯蓄にはなっていない、何故なら弾薬費や食費、光熱費、異物だって多い時と少ない時の差は大きい。


(やれやれ、今日は外れかもしれないな。異物が少ないし荒らされた後がある。少なくともここら辺はダメだな)


 軽くため息をつきながら予定を考える。このままどの方向に向かうか情報集機器の情報を端末で確認していると少し近くで動く物体の反応を感知した。ノエルがまたモンスターかとベクターを手に持った瞬間銃声が鳴り響いた。


(シーカーか!?)


 ノエルが直ぐに飛びのき身を隠すが銃弾がここに撃ち込まれることは無かった。どうやら銃撃対象はノエルではなかったようで今も銃撃は続いているが反応を見る限りこちらに気遣いている節は無い。


(盗賊か?反応を見る限りどちらも人間で強化服を着ているな。明らかに格上が異物捜索中のシーカーを殺している。って所か)


 明らかに勝てる状況じゃない、残念ながら見ず知らずの人間を助ける義理はノエルは持ち合わせていない。しかも現在ノエルの位置は何故か補足されていない、このままこの場所で隠れていれば逃げ切れる可能性もあるのだノエルが自分から動くことは無い。


 多数の盗賊対一人のシーカーの勝負は意外なほどあっさり終わった。多勢に無勢シーカーは直ぐに殺されその装備が剥ぎ取られていく。人道などこの荒野では存在しない、シーカーですら殺し合いに発展することもあるのだ、盗賊に人の心を期待するなどモンスターに助けてくれと懇願するようなものだ。

 ある程度剥ぎ取られていくのを少し離れた場所からノエルが見ていると盗賊たちの様子が変化したことに気付いた。身ぐるみを剝ぎ取り終わって離れて行くかに思えた盗賊達はこちらに気づいたようで高速で迫ってくる。


(不味いな…流石に逃げるか?)


 ノエルは現状の装備と相手の損耗具合を確認しながら戦い慣れた場所まで移動する、せめて土地勘が無ければ戦いようが無いためだ。先程のシーカーはかなり善戦したようである程度人数は減っており弾薬も恐らく少ないだろうと思われる。


 ノエルは時間指定をしたスモークグレネードを逃げながら見えにくい位置に設置する。幸い回復薬は多く弾薬は殆ど消費していない。


(やるか、リスクは高いが策はある)


 ノエルはとある場所に誘導を行いながら逃げている、ある程度ベクターで迎撃しながら誘導していく。

 ベクターはかなりの発射レートで銃弾を発射しているがかなり反動が少なくアサルトライフルと同程度の反動にまで抑えられていた。集弾率も悪くないと感じたノエルは良い買い物をしたと思いグリスの武器選びの評価を上げた。戦闘を行いながらノエルは盗賊たちの戦闘技術に不信感を覚えた、強化服を着てあんなに高性能な銃を使う割には本人の戦闘能力は高くないと感じたのだ。彼らは確かに数こそ多いが碌に連携を取らず攻撃してくる、まるで一般人に武器の扱い方だけ教えて盗賊させたようなものだとノエルは感じた。


 ノエルは以前倒したアサルトドッグに付いていた大砲の隠し場所に向かっている。あの大砲はまだ使えるのだ、正確に言うと弾が残っておりそれを遠隔で攻撃し爆弾代わりにするつもりなのだ。大砲は運ぶのは強化服などが必要だが無理矢理持ち上げて遠心力で投げれば爆弾代わりにはなるだろう。戦闘能力の高くないこの盗賊達だから通じるような少々無茶な作戦だ。

 盗賊達5人がノエルの必死の誘導で目的位置まで誘導が完了した、かなりの被弾を回復薬の乱用で無理やり治しながら何とか到着した。障害物を盾にしながらノエルがアサルトドッグの大砲を掴み投げつける、すぐさまベクターで弾倉部分を銃撃した。

 クラスター弾が爆発したかのような衝撃が辺りを揺るがし爆心地付近にいた者達に砲弾がばらまかれる。盗賊たちが数名直撃を受け何とかしのいだ者達も死んではいないがかなりのダメージを負っていた。ノエルは直ぐに身を近くの壁に隠し何とか無事だった、それでも余波の影響で少なくないダメージを受けたが運よく深手とはなっていなかった。


(私は運がいいな)


 ノエルは自虐気味に実力不足を感じつつ深手を負った盗賊の頭を不意打ちを警戒してBBA突撃銃でしっかり死亡しているかの確認もかねて全員の頭を撃ち抜いた。


 盗賊達は見かけだけの連中だった、彼らは強力な強化服などの装備をむしり取ったのは最近だった。碌に使い方も分からない強化服を使って一喜一憂していた盗賊もどきだ。彼らは数を盾にし新米シーカーを襲っては装備を盗み使っていた、売却して新品を買うという知力すら無かったのかもしれない。


(はぁ…私まで盗賊と思われてないかだけが不安だ)


 ノエルは盗賊が奪っていた異物や装備を剥ぎ取っている。異物は勿論のこと強化服はある程度高く売れるし武器だって安くない金額になるのだみすみす放置するよりは有効活用した方が盗賊に奪われたシーカーも報われると考えた為だ。

 装備をすべて回収し自分の装備を確認するとベクターの残弾が思ったよりも減っている事と回復薬がかなり減っているのに気づき現状のままでは次の戦闘はかなり厳しいと判断し今日はこれで退散することにした。

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