第139話 EXIT
「次はEXITです。これから出資して一緒に盛り上げようというときに、出資を引き揚げるときの話をするのは心苦しいのですが……」
EXITとは、出資から撤退すること。
ファンドは一定期間後に出資解消し『リターン(投資に対する収益)』を確保する必要がある。
一方、事業会社の場合は、資本だけでなく業務提携(所謂、資本業務提携)が目的となることが多いが、それでもEXITを定めなければいけないのか?という声も聞こえてきそうだが……
「将来、協業の意義が変わるときは必ず来ますので、最初の段階できちんと話し合っておくことが大事です」
これを聞いて、片岡は眉をひそめて考え込んだ。
(無理もないわ。昨日、私も同じように感じたもの……)
『これから結婚しましょう』と告白するとともに『別れるときは笑顔で別れましょう』なんて普通言わないでしょう?という感覚になってしまう。
そんな真奈美の反論に対し、昨日、山田はこんな事例を説明した。
『出資は合併ではないから、結婚みたいに完全に一つの家庭になるわけではないしね。それと、別れ話を切り出す役目は私たちではなく後輩たちかもしれない。だから、後輩が困らないためにも、EXIT手続きを定めておくことは重要なんだよね』
真奈美は慎重に言葉を選びつつ、山田に聞いた内容を片岡に告げた。
片岡は目をつぶったまま、腕を組んだまま答えた。
「わかった。必要性は理解する。具体的にはどういう規定になりますか?」
真奈美は、片岡が激高せずに聞いてくれたため少しほっとしながら、説明を続けた。
「通常、非上場会社は株式の譲渡制限を規定することが多いのですが、今回は譲渡制限をなくすことを提案します」
「なるほど。EXITしたくなったら誰かに譲渡できるということだね」
「はい。もちろん、売却先を見つけることは簡単ではありませんが、八方はふさがれずに逃げ道を残すという意味合いになります」
片岡はしぶしぶ頷いた。
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