第90話 嵐の前の……Part.6-3

 ふたりは二次会と称して、銀座のおしゃれなバーに場所を移していた。


「鈴木部長、いつもあんな感じなんですか?あれじゃトップダウン以外はすべてやるなと言わんばかりですよ」

「ははは……鈴木部長からすると、評価につながらないことにはあまり興味みたいだからね」


 相変わらず仕事ネタばかりで、せっかくのバーの最高の雰囲気が台無しだが、二人とも楽しそうだから仕方がない。


 真奈美がこれまでに部内のメンバーから聞いていた話だと、


・鈴木部長は、トップダウンプロジェクトについては自らヘッドを務め、

 ナンバー2の山田が実働部隊の指揮を任命される

・ボトムアッププロジェクトや大きな課題があるプロジェクトには

 自らは手を出さず後処理を部下の誰かに押し付ける

・結果として、そのようなプロジェクトのフォローも

 山田が請け負うことになり、一番忙しく立ち回っている


「山田チーフ、今いくつのプロジェクトに関与しているんですか?」

「うーん……今は4つかな?」

「そんなに?」

「うちは人数少ないからね、でもまあなんとかなってるよ」


 元々MA推進部は鈴木部長、山田チーフ、その下に課長1人、そして課員数名だった。

 それぞれ投資銀行やコンサル出身で個人能力はすごいのだが、社内調整を仕切るまでには育っていないので、結局山田が走り回ることになっていた。


 そこに飛び込んだ真奈美は、肩書きは係長だが経営管理部出身で社内調整も得意となれば、山田としては期待したくなる。


 (山田チーフはGW中も仕事が続くのかな?)


 でも、山田はそのようなことは一切話題にせずに楽しそうに飲んでいる。


 真奈美は、そんな山田の横で仕事雑談しながらカクテルを飲む時間をとても幸せに感じていた。

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