第82話 リソース

 ――真奈美の説明はよどみなく進んでいった。


(やはり相当に場数をこなしてきているんだろう、プレゼンがとても聞きやすい。日曜日もかなり予習してきたんだろうな。M&A部門に来てまだ1か月なのにこれだけ堂々とバリュエーションを説明できるというのはすごいことだ)


 山田は、真奈美の説明を聞きながら感心していた。


 肝心の説明の内容は――


 ・バリュエーションの説明、妥当な企業価値はプレマネーで50~60億円

 ・10%であれば約6億円。10億円との差額は約4億円

 ・事業本部のシナジー効果の説明。DCFで3年目の途中で差額4億円の回収可能


と要所をうまくハイライトしテンポよく進み、鈴木も口を出さずに聞いていた。


「……以上から、事業本部としても十分効果を期待できるとのことで本件を進めたいとの意向をお持ちです。つきましては……」


 最後の結論のところで、鈴木は真奈美の説明を遮った。


「やはり納得できないところはバリュエーションだ。売上増加の根拠がないなら現状維持を仮定するくらいシビアに見ても良いかもしれない」


 鈴木は山田に視線を移し、相変わらずの嫌々そうな表情で続けた。


「このプロジェクトは社長や副社長や経営企画本部長からの指示ではないんだろ?しかも少額出資重要度も低い。リソースをかけべきではないのではないか?」


(……山田チーフに聞いていた通りだ。やはり、トップダウンプロジェクトでないから風当たりがより強いんだ)


 真奈美は以前に聞いた話を思い出していた。

 山田は冷静に答えた。


「DDは社内の最低限リソースで実施しようと思います。事業本部、法務と経理には協力を要請しますが、費用は最小限に抑えていきます」

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