第77話 バリュエーション

 ――土曜日の朝。


「おはようございます」


 真奈美がオフィスに入ると、やはりいつも通りほとんどのメンバーが出社していた。


(相変わらず……この人たちは仕事の鬼ね)


 そして、打ち合わせコーナーから山田が手招きしている。

 真奈美は出勤処理もする間もなく打ち合わせコーナーに吸い込まれた。


「昨日は資料ありがとう。バリュエーションと投資採算については僕の方で資料化しておいたから、まずそこから説明をするね」


 山田は朝から元気だった。


(この人、夜遅くまで会社にいるのに、いつも朝も早いわよね。何時に来ているんだろう?)


 朝は8時半ぎりぎり出社が基本の真奈美としては、山田の生態が不思議でならなかった。


「バリュエーションは、この前説明したように、インカムアプローチとマーケットアプローチの両方で示す。いくつかの仮定をおいてレンジで示すのが一般的だ」


 プロジェクターには山田がまとめたバリュエーショングラフ、すなわち宮津精密の企業価値に対する計算結果が載っている、横軸の棒グラフだ。


 インカムアプローチでは50~120億円。

 マーケットアプローチでは40~60億円。


 両方が重なるレンジは50~60億円だった。


 その下に、純資産も記載されている。約40億円。


「レンジの仮定ってどう決めるんですか?」

「ケースバイケースだね。DCFは事業計画のストレス有無や割引率、マルチプルのレンジは類似企業の選定基準とかね」


 真奈美は感心して答えた。


「類似企業って、単純に同じ業界の企業を選定すればいいと思っていました」

「うん。その通りなんだけど、同じ業界といっても、広く加工業としてみるのか、狭く精密加工とみるのかとか。あと規模が近い中規模企業だけで見てみるとかね」


(なるほど。類似企業を選択するといっても、単純じゃないんだな……)

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