第75話 まだまだやらなきゃいけないことが多い

 真奈美が意向表明ドラフトを修正し中野に提出し終わると、さっそく山田に呼び出された。


「この後の段取りなんだけどね」

「はい」


 山田は申し訳なさそうな表情で続けた。


「意向表明は、しっかりとレビューして月曜日までに完成させたい。多分今日だけでは終わらないから、明日も出てきてもらえるかな。明後日でもいいけど」


(やっぱりそうだよね。覚悟してましたよ)


 真奈美は苦笑いしながら答えた。


「はい、わかりました。明日出社します」


 山田は少し表情が明るくなったが、まだ何か言いたそうだった。


「うん、ありがとう。あとね、月曜日の鈴木部長への説明のためのプレゼンも用意してくれるかな」

「え?決裁書、だけじゃなくてですか?」

「うん。もちろん、意向表明の内容だけじゃなくて、その内容に至った経緯を説明する必要があるよね」


 それは確かにその通りだ。

 意向表明書自体に意識を奪われていたが、そもそもこれまでの経緯を説明できていないことに、今更ながらに気が付いた。


「基本的には、先日片岡本部長に対して説明した資料で、これまでの経緯やIMの内容は説明できるだろう。あとは……」


 真奈美は慌ててメモを取り始めた。


「宮津精密との面談の内容と価格目線、バリュエーションの考え方、シナジーの見込み、投資回収。このあたりを追加しよう」

「わかりました……でも、バリュエーション以降は自信がないです」

「うん、そこはぼくも手伝うよ。明日みっちりやろう。とにかく、それ以外で手を付けられるところは今からどんどん対応してくれるかな」

「わかりました」


(これは本格的にやばい。今日明日で終わらなかったら日曜日も、という流れになりかねない)


 真奈美の顔色が、真っ青になった。

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