第30話 相対とオークション

「通常は、IMとあわせて、プロセスレターというものがくるんだよね」


 山田は唐突に話を変えた。


「プロセスレターですか」

「うん。買い手側が想定するスケジュールや交渉の進め方が書いてあるんだ。特にオークションプロセスの場合は絶対にこれが出てくるはずだ」

「オークションですか?M&Aでもオークションがあるんですか?」

「うん、でもネットオークションみたいなものとはだいぶ違うんだよ」


 山田はざっくりと説明した。

 M&Aの取引は、売り手と買い手が1対1で交渉協議して進めていく『相対あいたいプロセス』と、複数の買い手候補と統一したプロセスで交渉協議し最終的には買い手候補による投票を受けて1社に決めていく『オークションプロセス(ビッドプロセスともいう)』がある。


「今回はプロセスレターがないということは……」

「今回は相対プロセスなんですね?」

「そうみたいだね。相対とオークションのメリットデメリットが何か、わかる?」


(来た!初耳だって知っているくせにちょこちょこと質問を挟んでくる)


 真奈美は今回は身構えていたので慌てることはなかったが、回答には自信がなかった。


「オークションの方が売り手としては良い条件になりやすいんですよね?」

「正解。あとは、統一された売り手主導のプロセスで進められるから交渉も売り手有利になる」

「逆に言えば、相対は売り手は有利になれないはず……じゃあ、なんで今回は相対なんですか?」

「それはね……」


 山田は、売り手が相対を選ぶ際の理由について、一般論を足早に説明した。


 ・買い手候補先が決まっているとき

 ・複数の買い手候補先が見つからなさそうなとき

 ・M&A取引の内容などを買い手とじっくり相談しながら進めたいとき

 ・まだ完全に売るとは決めかねずに進めているとき

 ・取り組みを秘匿にしたいとき。

 ・オークションプロセスを進める社内リソースが少ないとき

 ・アドバイザーを維持する費用が支出できないとき


……


(山田チーフ、メモの入力が追いつきませんって!)

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