第24話 P/Lはお任せを……は心の中で

 財務情報の項目に入ると、画面にはたくさんの数字がならぶ表が映し出された。


「まずは、とにかく過去のP/L(ピーエル)だ。通常、3年分開示される」


 P/Lとは損益計算書。いくら儲けたか、もしくは損したかを計算する表だ。


(P/Lの例)

  科目      金額(千円)


  売上高     ○○○○

  売上原価    ○○○○

  販管費※    ○○○○

   ※正式には「販売費および一般管理費」

  営業利益    ○○○○


  営業外収益   ○○○○

  営業外費用   ○○○○

  経常利益    ○○○○


  特別利益    ○○○○

  特別損失    ○○○○

  税引前当期利益 ○○○○


  法人税等    ○○○○

  当期利益    ○○○○


 これは、経営管理部出身の真奈美にとってはとても馴染みのある表だ。


 今回のIMでは、P/Lだけでなく、『減価償却費』『EBITDA』そして『投資』の欄もあった。

 買い手が迷子にならないようにP/Lだけでは賄いきれないが必要不可欠な情報も最初から開示しているのだ。


「どう?ぱっと見た感想は?」


 真奈美は全体をざっと見まわして答えた。


「売上は以前ノンネームシートに記載されていた通りで安定していますね。

 利益もだいたい安定しているように見えるんですけど、原価率が徐々に上がってきているのが嫌らしいですね。

 その分販管費を削減して抑え込んでいるのでしょうか。無理がないといいのですけど。

 コストの部分はしっかりと中身を見た方がよいですね」


 山田は、感心し拍手を送った。


「さすがだね。財務情報はM&Aの要だから、酒井さんの理解力は本当に力強いよ」


 山田は満面の笑みを浮かべて褒め称えた。


 真奈美も、いい気になってニコニコしながら、


(はい!!任してください!)


 と言いそうになって、ぎりぎりのところで思いとどまった。


(あぶない、これ、罠だ。調子に乗ってへらへらしてたらとんでもない爆弾投げつけられる気がする……)


 そうして、真奈美は涼しい笑顔でP/Lのページを乗り切った。

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