第19話 エグサマ

 コード名の確認を終えると、山田は資料序盤ののページを表示した。


「IMはだいたい、エグサマから始まるから、まずはそこで全体像をつかむといいよ」

「えぐさま?」

「そう、Exective Summary」


(また来た!とりあえず横文字短縮!!)


 そう、山田と話していると、ことごとく英単語、しかもそれを略した専門用語にぶち当たる。

 真奈美は、最初のうちはそのたびに慌てていたが、最近ではこの流れに慣れてきた自分を自覚し少し面白くなり、ふふっと笑った後、でもやっぱり気になったので聞いてみた。


「なんでエグゼクティブなんですか?普通にサマリーでいいような気もしますが」

「ああ、それはね。エグゼクティブ、つまり会社の幹部が読むためのサマリーって意味だよ。ざっくりと全体像と重要な部分のみ記載されているんだ」


 そして二人はエグサマをざっとレビューした。

 ここには、会社概要と、今回の出資の全体像、出資することによるメリットなどが簡潔に書かれていた。


「――たしかに、エグサマだけでだいたいの内容がわかりました」

「うん、やはり専門のFAがついているから、わかりやすくサマリーしてくれていて助かるね」

「はい、さすがですね」


 そして、真奈美が質問した。


「……売り手なのにFAがいない場合もあるんですか?」

「売り手の場合は候補探しも必要だし大抵はFAが付く場合が多いけど、FAなしで会社や株主が直接売却交渉を行うケースも無くはないよ」


 真奈美はぞっとした。


(うちの会社が売り手になったら、FA雇わずにMA推進部が作らされる気がする……売り手になるようなプロジェクトには当たりませんように)


 そんな心配をよそに、山田は先へ進んでいく。相変わらずペースが速い。


「まあ、ぼくらは幹部じゃないんで、エグサマはウオーミングアップだから。ここからが本番だよ。しっかりと全頁熟読しなきゃいけないからね」


(あ、これ、あとは全頁しっかり読んどけよ!?っていうフラグかも……)


 真奈美は涙目で天を仰いだ。

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