第155話 水着を買いに行こう 4
その後、キャンプ用品店にも足を運び、ダンジョングッズを一通り確認し終わったけど、まだ水琴から連絡は無い。
まあ女の子の買い物がそんなすぐに終わるとは思ってないよ。
男性向けアパレルショップにも入ってみる。真夏の盛りだというのに、店内はもう秋模様だ。とは言ってもここ数年、秋って何処?って感じの気候だから、もう冬物まで待ってもいいんじゃないかなって思う。
長袖の襟付きシャツも何着か持っているし、ジャケットを合わせればコートが必要になるくらいまでは凌げるだろう。
うーん、特に欲しいものはないんだよな。
むしろこっちで買い取って貰えるものがなにか無いか知りたいくらいだ。
そんな風に思って歩いていたからか、ふと通路奥にある買取屋に気が付いた。チケットとか、ブランド物とか、そういうものを買い取っている店だが、探索者歓迎の登りが立っている。
魔石はダンジョン傍にある買取所で買い取ってもらうのが基本だが、ドロップアイテムは買い取ってくれない。まあ、ドロップアイテムが出てくること自体が結構稀なことではあるのだけど、国としては一々それら全てを査定していられないのだろう。
一応話だけでも聞いてみるかと思って、僕はそちらに足を向けた。
店の入り口はのれんのようなものがかかっていて壁もあり、中が窺い知れない。呼び出しボタンがあったのでそれを押したら、奥から店員さんと思しきスーツの男性が現れた。
「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」
にこやかに奥へと案内され、衝立に囲まれた小さな商談スペースに連れて行かれる。
「今日はどんな不要品がございますか?」
「僕は探索者なんですけど、ドロップアイテムを買い取っていただけるんですか?」
「ええ、もちろんです。当店は鑑定のスキルを持った鑑定士が常駐しておりますので、確かな査定をお約束します」
鑑定スキルは、物の真贋や価値を調べる経験が長いと発現すると言われている。医療機関に勤めて回復魔法スキルを得るのと似たようなパターンだ。
とは言え、鑑定結果は鑑定士本人にしか分からない。確かな査定を確約するものではないはずだ。
「いわゆる『鑑定士』の方で間違いないですか?」
「はい。鑑定士の国家資格を持った鑑定士がお客様の目の前で鑑定を行います」
現代においてただ『鑑定士』と呼ぶ場合は、鑑定スキルを持っているだけではなく、国家資格に合格している者を指す。合格基準が厳しいだけで無く、不適切な鑑定結果を伝えたことが判明すると資格剥奪もあるため、本物の鑑定士が目の前で鑑定してくれるというのなら、間違いは無いだろう。
「それじゃこれなんですけど」
僕はアーリアで流通している金貨を一枚テーブルに置かれた台の上に置いた。懐には何枚も入っているが、まずはどれくらいの価格が付くのかを見たい。
アーリアの金貨は僕らが思うような硬貨とは違い、かなり薄い。そんなに力を入れなくても曲がってしまう。一方で見た目より重量がある。金貨というだけあって、金の含有量が多いのだろう。
実際に使い込まれた金貨なので、輝いているわけではないが、金貨っぽいことは分かる。
「失礼。写真を撮ってもよろしいですか? 当社の類似物検索に掛けてみます」
「どうぞ」
店員さんは金貨をスマホのカメラで撮影する。会社でアプリを自作しているんだろう。まさかgoogle画像検索してないだろうな。
「うーん、適合率の高い品が見当たりませんね。これはどこのダンジョンで?」
「どこだったかな。記念品のつもりでずっと持ってたんで、ちょっと覚えてないですね」
「当社のデータベースに無いですと、単純に貴金属、つまり含有されている金属の価格での買い取りになってしまいます。鑑定士を呼んで参りますね」
「はい。お願いします」
店員さんが席を立ってしばらくすると、年配の男性を連れ立って戻ってきた。
「鑑定士の沢田です。これが資格証になります」
沢田と名乗った年配の男性は、首から提げた顔写真入りの資格証を僕に提示した。
「よろしくお願いします」
そうして沢田さんが台に置かれた金貨をじっと見た。
「オルファリア金貨、金1.7グラム、銀0.5グラムの合金ですね」
「オルファリア金貨?」
僕と店員さんの声がハモる。
「私も初めて拝見しました」
そう言って沢田さんはそそくさと席を立った。
鑑定士の仕事は終わりということだ。
「オルファリア金貨、うーん、やっぱりデータベースにないですね。今ですと金が1グラム9043円、銀が1グラム116円ですので、……15431円での買い取りになりますね」
僕の感覚では金貨1枚はアーリアで日本円13万円相当の価値がある。十分の一程まで価値が下がるが、しかし……。
「この売却益って申告の必要がありますよね」
「ええ、厳密にはそういうことになりますね。ダンジョン収益と申告するのであれば、合計100万円までが非課税ではありますが……。まあ、独り言ですが、200万円までの取引であれば支払い調書を税務署に提出しなくていいので楽なんですよね」
うーん、買いたいんだろうな。
金と銀の価値で、意匠の入った謎の貨幣が手に入るのだ。然るべき場所で売りに出せば好事家に高く売れるだろう。
だから売って欲しいが故に、抜け道の話をしているのだ。
僕には伝手が無いし、フリマアプリで売るわけにもいかない。足下を見られているようで悔しいけど、アーリアの金貨なら唸るほどある。百円ショップで買った物が、金貨数百枚に化けるのだから、暴利を貪っているのは僕も同じ。
「じゃあ10枚売ります」
僕はポケットから後9枚の金貨を取り出した。
店員さんは慌てて沢田さんを呼び戻しに行った。
----
全国各地の古物買取店がこういう脱税を勧めてくることはありません!!!!
売買によって得た収入は必ず申告してくださいね!!!!
水着はどうしたああああああああああ!(血涙)
また今回で全158話(閑話含む)となり、私の作品では話数最長記録タイになりました。字数は半分以下ですけどね。
また現在の章毎の話数をすべて連番にする処理をしていきますのでご了承ください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます