第147話 30層に挑もう
ダンジョン内のモンスターを倒した際に素材が残るような描写を間違えてしていたため、修正を加えています。
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アーリアのダンジョンの26層から30層までは岩地の階層だ。
砂漠の階層とは違い、地中からの奇襲を警戒する必要は無いが、岩に擬態する魔物はいる。休憩のために背を預けたそこが岩亀の甲羅ではないとは限らない。
僕らは慎重に岩を避けて行動する。
砂漠地帯では活躍したサーマルスコープだが、26層に入ってすぐ、僕は岩蜥蜴を見落とした。奇襲を受けたにもかかわらず、幸いにして誰も怪我をしなかったが、自分の未熟さを改めて思い知った。
それに加えて、今はダンジョンのルートを外れて行動している。
ダンジョンのルートとは、つまり次の階層へと至る順路のことだ。
ルートを進む限り、万が一のことがあっても他の冒険者に発見される確率が高い。怪我をして行き倒れたり、死体となっても遺品を回収してもらえる可能性がある。
ルートから外れるということは、基本的にはその階層で稼ぐ時だ。
ルートはさらに先に進む冒険者が通るため、途上の魔物が狩られ尽くしてしまう場合がある。その階層で狩りを行うのであれば危険を承知でルートから外れなければならない。
斥候としてパーティの先頭に立つ僕は、手のひらを後ろに横に腕を伸ばす。
全体停止の合図。
足を止めたことでよりはっきりした。
僕は地面に膝を突いて、手を突いて、顔を付けて、耳を澄ませる。
感じたのは地鳴り、振動、なんでもいい。僕ら以外に動いている何かがいる。
問題はそれが単体か、複数か、だ。
――。
――。
――。
――単体だ。
確信はない。
この階層の探索は初めてで、判断材料が今回しか無いからだ。
今回は離れて、別の振動を感知するまで繰り返すというのも手ではあるが、この階層において魔物の数は極端に少ないらしい。ポータルからもう1時間も探索しているのに、これが初の会敵だ。
次の機会がいつ訪れるかも分からない。
一応、単体だと考えた根拠はある。振動の幅が長く、一定のリズムを刻んでいるからだ。複数の生き物が動いているのであれば、リズムが崩れたり、もっと短い間隔があって然るべきだ。と、思う。
僕は一人で先行するとハンドサインを出して前進する。
サーマルスコープで前方を確認、外して拳より大きい石を拾い、前方の岩に投げる。反応無し。岩自体は自然物のようだ。
僕は岩石の傍まで足音を殺して進み、よじ登る。顔だけ覗かせて、さらに前方を見た。
見つけた。数キロ先だが、レベルアップで強化された視力で捉えた。
単体のドラゴンだ。
僕は岩を滑り落ちて、皆のところに戻る。
「前方、単体のドラゴン。2キロくらい先だったよ」
「移動方向は?」
メルが聞いてくる。
「向かって左側に進んでた」
ダンジョン内の魔物は大抵の場合、その場にじっとしているか、一定の範囲をぐるぐると移動している。単体の魔物が他の魔物と合流したり、群れから1体だけが離れる、というようなことは起こらない。
「みんな、覚悟はいい?」
全員が頷く。29層で十分に鍛錬は積んできた。30層のドラゴンはいずれ挑まなければならない壁だ。
「確認するね。誰か1人でも撤退の判断をしたら、全員が即座に撤退。撤退時は負傷していなければシャノンさんとエリスさんが
「分かった」
「ロージアさん、魔力は減ってないよね? 半分を切ったら撤退指示を。ニーナちゃんも魔力が半分を切ったら絶対に撤退を指示してね」
まずメルは撤退の条件を確認。
「シャノンさんとエリスさんは正面から、どちらかが負傷したらそっちが下がってニーナちゃんが治療を、その間は私も正面に回るね。ひーくんはクロスボウで遊撃をお願い」
「初だし、毒を使うよ」
「うん。ロージアさんも窒息戦術使ってね」
水球の魔法を相手にまとわりつかせて窒息させるのはかなり有効な攻撃手段だ。鼻腔や、耳目に水が入るだけでも、生き物はかなりの苦痛を感じる。
「どっちかってーと、苦しんで暴れるドラゴンに巻き込まれないように気を付けないといけない感じだな」
「そんな間抜けはアンタくらいのもんだよ」
「はー!?」
「はいはい。喧嘩しないの。目標は移動してるんだから、私たちも移動しよう」
メルもシャノンさんとエリスさんの喧嘩にはもう慣れたものだ。なにやっても仲良くならないな、この2人は。
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